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「Freezing Conflagration」(佑樹のMusic-Room
by 岸波(葉羽)【配信2023.3.11】
 

◆この記事は作品のストーリーについて触れています。作品を実際に楽しむ前にストーリーを知りたくない方は閲覧をお控えください。

 こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。

 金か、魂か。

 池井戸潤原作『シャイロックの子供たち』をケイコと観てまいりました。

 今回の主演は、ウチのサオリが大のヒイキにしている阿部サダヲ。あれぇ?これまでの主人公とだいぶタイプが違うような・・?

シャイロックの子供たち

C)2023映画「シャイロックの子供たち」製作委員会

 原作小説は2006年1月に刊行された銀行経済小説で、累計50万部突破のベストセラー。

 昨年(2022年)、主人公の西木雅博を井ノ原快彦が演じ、WOWWOWで全5話のTVドラマ化。

 さて、今回も「倍返し」の池井戸節炸裂でスカッとさせてくれるのか? 早速、その内容です。

 

 舞台は大銀行!
 裏の顔も、裏の金も全部暴け!

 映画の冒頭、東京第一銀行検査部の黒田(佐々木蔵之介)が、『ヴェニスの商人』の名シーンを観劇しながら過去を回顧している。

 彼は一時期、ATMの公金を原資に競馬に興じては、そのキャッシュをこっそり戻すという犯罪を繰り返していたが、その現場をある人物に見られて以降、競馬から足を洗った過去があった。

公金を戻す現場を見られたが、取り繕ってごまかした・・と思っている。

 彼の口癖は「金は返せば良いと言うものではない」・・自分でも分かってはいるのだ(笑)

シャイロックの子供たち

C)2023映画「シャイロックの子供たち」製作委員会

 そんな東京第一銀行の長原支店で100万円紛失事件が発生。行員ののロッカーから札束の『帯封』が発見され疑われる。

 ところが北川(上戸彩)は頑として犯行を否認。その上司の西木(阿部サダヲ)も彼女を庇った事から事件はウヤムヤに。

北川愛理(上戸彩)

 支店長の九条(柳葉敏郎)は自分の名誉を守るため事件を隠ぺいすることにし、幹部らで密かにポケットマネーを出し合い「現金は見つかった」と喧伝する。

 そんな長原支店に定期の本庁検査が入ることになり、本庁検査部の黒田(佐々木蔵之介)をリーダーとするチームが出向く。

 直前に発生した「100万円紛失事件」の件を聞きつけた黒田は、事件の顛末に疑問を感じて調査を開始する。

黒田(佐々木蔵之介)のチーム

 一方、北川の上司である西木(阿部サダヲ)も「帯封の指紋を照合すれば真犯人が分かる」と考え、独自に行員らの指紋収集を始める。

 いったい真犯人は誰なのか? そしてその動機は? 事件の調査が進む中で、銀行の裏で蠢いている巨大な陰謀が姿を現し始める。

北川の上司 西木(阿部サダヲ)

C)2023映画「シャイロックの子供たち」製作委員会

 池井戸潤の作品は全て読破していた・・筈なのですが、ストーリーが思い浮かびません。

 しかし、却ってそれは好都合。というのもTV版では原作にほぼ忠実でしたが、映画版では登場人物が変更され、ストーリーや結末も大きく改変されていたので、余計な先入観を持たずに見れました。

 この映画を見終えて驚いたのは「主人公が居ない」と感じた事。

九条支店長(柳葉敏郎)

 タイトルの『シャイロックの子供たち』のとおり、出てくる人間が皆、脛にキズ持つ悪人(悪徳高利貸し)ばかりで、結局は自分の利益のためにしか動いていなかったのでした。

 超ネタバレになりますが、原作では主人公と目される西木自身が陰謀の黒幕であったことが暗示されて陰の事件は未解決のまま話が終わります。

そもそもストーリーの途中で西木は失踪し姿を消してしまう。

 映画の主要人物で無垢なのは、北川愛理(上戸彩)と若手行員の田端(玉森裕太:Kis-My-Ft2)くらいのもの。

北川と田端(と西木)

 ということは、一方的に騙されて追いつめられ、最後に”倍返し”でスカッとする進行にはなり得ないのです。

 これを観に来た観客は、半沢直樹のような、あるいは花咲舞や下町ロケットシリーズのような爽快感を期待しているのでは無かろうか?

 そういう意味では全くの期待外れとなります。

シャイロックの子供たち

C)2023映画「シャイロックの子供たち」製作委員会

 100万円紛失事件の真犯人は、他の銀行から異動してきて長原支店のエースとなった滝野(佐藤隆太)で、彼は自分が稟議した10億円の貸し付けが焦げ付き、弱みを握られている貸付先の不動産業者石本(橋爪功)から利払いの肩代わりを求められて公金に手を付けたもの。

 ところが、その計画倒産自体、私欲を肥そうするあるグループの陰謀で・・というお話。

無理やり稟議を通すが…

 銀行ミステリとしては、小さな事件(100万円紛失事件)がより大きな事件の全貌を現す契機になるなど重層的な構造で、それなりには面白い。

 ところがその本筋以外に、検査役黒田(佐々木蔵之介)や九条支店長(柳葉敏郎)、西木(阿部サダヲ)の不祥事解明が並行して描かれるため、アッチへ行ったりコッチに来たりと煩雑な事この上ない。

 作者の池井戸潤自身は『シャイロックの子供たち』について、「その後の小説の書き方を決定づけた記念碑的な一冊」と言ったとされるが本当だろうか。

花咲舞シリーズ

 この作品が2006年1月に刊行される以前、2002年8月には花咲舞シリーズの『銀行総務特命』が、2004年12月には半沢直樹シリーズの『オレたちバブル入行組』が既に刊行されている。

 むしろそちらの方が後にシリーズ化もされ、池井戸の代表作ではないかと思うのだが。

 よくよく考えてみれば、『シャイロックの子供たち』は元々、舞台を同じくする一話完結の短編連作の群像劇であったので、それを無理やり一本の映画に仕立て上げた脚本の失敗か。

シャイロックの子供たち

C)2023映画「シャイロックの子供たち」製作委員会

 さらに”あざとい”と感じるのは、陰謀の黒幕を九条支店長(柳葉敏郎)に改変し、ハメられた滝野(佐藤隆太)の仇を討つために、西木(阿部サダヲ)に「基本は性善説。やられたら倍返しってな。」と、半沢直樹シリーズの名セリフを言わせるところ。

 その手段は、西木の知人の不動産屋沢崎が仕立てた不良物件に支店長自ら融資させる「ハメ返し」であるし、首尾よく奪取した資金の一部を賄賂として受け取り、自分の借金の穴埋めをするのだからスッキリなどする筈もない。orz..

ハメ返し/沢崎(柄本明)

 さらに言えば、佐々木蔵之介や佐藤隆太を悪役のまま終わらせるわけには行かないと考えたのか、刑に服してスッキリした顔で登場する「後日談」を入れるなど、蛇足としか思えないのだ。

 やはり池井戸モノには、香川照之のような圧倒的な悪役キャラが必要と感じた今日この頃。皆さん、いかがお過ごしですか?(笑)

 

/// end of the “cinemaアラカルト353「シャイロックの子供たち」”///

 

(追伸)

岸波

 前回、劇場で観たこの『シャイロックの子供たち』や『イチケイのカラス』ではなくトム・クルーズ&キューブリックの『アイズ ワイド シャット』を採り上げた理由がコレでした。

 一方の『イチケイのカラス』の方はそこそこ面白いのですが、TVシリーズの一話と同じ程度のクオリティ。

 そこに、歴代のヒロインをチョイ役登場させたのも”あざとい”としか感じなかった次第。

 やはりスクリーンで上映するからには、TVドラマを超える”何か”が無ければならないと思うのです・・お金払ってるんだから(笑)

 

 では、次回の“cinemaアラカルト2”で・・・See you again !

半沢直樹シリーズ

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To be continued⇒  “cinemaアラカルト354” coming soon!

 

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