こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
リドリー・スコット製作総指揮!
今回はアメリカのTVドラマ・シリーズ。フィリップ・K・ディックの代表作『高い城の男』をリドリー・スコットが制作総指揮し、AMAZON ORIGINALでドラマ化した歴史改変SF。
今ならAmazonプライムで、各10話4シーズン完結の全話が無料で視聴できる。
現在公開中の作品では、まだ『スズメの戸締り』を観ていないのですが、背景が東日本大震災という事もあり、僕もケイコも気が進まないのです。
母を亡くし、仲間たちの実家が流され、リアルで悲しい事・辛い事は十分経験して来ましたから、もうこのテーマは"お腹いっぱい"なのです。
さらに大寒波の到来もあり、家でじっくり見続けたのがこの『高い城の男』。
さて、その内容は?
枢軸国が勝利した世界。
ドラマ第1話「新世界」の冒頭、優しいエーデルワイスの歌声と共に映し出されるのは、異様なアメリカ地図。
「高い城の男」
アメリが合衆国の版図が三つに分割され、東側にはナチスのハーケンクロイツのマーク、太平洋側には日章旗、中間部のロッキー山脈あたりは黒く塗られている。
そしてエピソードに入ると、アメリカらしき劇場で映画を観ている人々。
内容は国家の繁栄、国民の義務、そして偉大なる指導者を讃える言葉、"ジーク・ハイル"!
|
|
そう、これは第二次世界大戦で枢軸国側が勝利し、世界の多くが大ナチス帝国と大日本帝国に分割された世界。
イタリアは戦勝側であるも弱小だったため、大ナチス帝国の属国的な立場で扱われている。さらによく見ると地中海が無く、そもそも我々が暮らすこの世界とは別物のようだ。
大日本帝国は、満州からインドシナまで直接の国土こそ狭いが、ユーラシアの東半分からオーストラリアにかけた大東亜共栄圏、さらにはアメリカ西海岸から南ア大陸の太平洋側にかけた傀儡国家によって広大なエリアを支配下に置いている。
まさに戦慄すべき世界地図だ。
歴史改変SFの中でも、このような「第二次世界大戦で枢軸国が勝利した世界」というテーマで多くの作品が作られている。
中には、第二次世界大戦勃発前に出版されたキャサリン・バーデキンの小説『Swastika Night』もある。
また大戦中に書かれたヘンリー・V・モートンの『I, James Blunt』は、敗戦してナチスの支配下に入ったイギリスが舞台となっている。
「明日を越えて」ハインライン
さらに、ハインラインの『明日を越えて』やアシモフの『Living Space』、レン・デイトンの『SS-GB』、そうそう・・TVシリーズ『宇宙大作戦』の「危険な過去への旅」など枚挙にいとまがない。
これらの作品の中でも最も評価が高いのが、1963年のヒューゴー賞長編小説部門を受賞したフィリップ・K・ディックの『高い城の男』なのだ。
「高い城の男」
核爆弾でアメリカを壊滅させたヒトラーの大ナチス帝国は、世界分割の後で大日本帝国と冷戦に入り、隙あらば核を利用して日本を打倒し世界を征服せんと虎視眈々。さらに世界中のユダヤ人と黒人を対象に民族浄化を進めている。
敗戦国や圧政を受ける民族はレジスタンスを組織してテロで対抗。BCR(黒人共産反乱軍)も蜂起する。
そんな中、外遊中の日本の皇太子が狙撃されて死亡。責任を感じた皇宮警察は切腹して恥をしのぐ。
大ナチスと大日本が一触即発の状態に陥る中で、人々の裏世界に怪しげなフィルム「イナゴ身重く横たわる」が市井に出回る。
原作では「書籍」になっている。
それは最初、レジスタンス側が捏造したプロパガンダかと思われたが、大戦で連合国側が勝利した世界がリアルに撮られている。壊滅したはずの都市まで無傷の様子。いったいこれは何なのか?
いろいろなバージョンがあるこのフィルムを収集し、研究している人物が二人いた。
その一人はヒトラー。そしてもう一人が”高い城の男”と呼ばれる謎の人物だ。
彼らは一体何を調べようとしているのか。”高い城の男”とは何物か。そして「イナゴ身重く横たわる」とは? はたまた危急を告げる世界の行方は?
|
|
この作品は壮大なIFの世界を背景にした大河ドラマであり、多くの主人公が登場します。
ジュリアナ・クレインは日本太平洋合衆国(傀儡国家)のサンフランシスコで合気道を学ぶ女性。
レジスタンスに所属して大日本の憲兵隊に殺された妹から「イナゴ身重く横たわる」の一本を託され、”高い城の男”を捜して中立地帯へ。
フィルムを観るジュリアナ
ジョン・スミスは元々アメリカ陸軍士官だったが、ヒトラーに忠誠を誓い、ニューヨークのナチス親衛隊大将に。
子供たちの遺伝子異常が発見され、ユダヤ人・黒人と同様、遺伝子異常者は粛清の対象となっていることから、妻ヘレンは娘たち二人を連れて遁走。
本人は出世競争を勝ち抜いて北アメリカ国家元首まで昇りつめ、やがてナチス帝国に叛旗を翻す。
ジョン・スミス親衛隊長
ジョー・ブレイクはジョン・スミス麾下のスパイでレジスタンスに潜入中。ジュリアナ・クレインと行動を共にするうち彼女に好意を抱き、個人的に「イナゴ身重く横たわる」の秘密に興味を持っている。
城戸毅は、大日本帝国憲兵隊の幹部。皇太子狙撃事件を担当し、大ナチス帝国の関与を突き止めるがナチスに開戦の口実を与えないため隠ぺいし、別の犯人を処罰する。
やがて裏社会を牛耳る日本のヤクザと結託して最高顧問となり、世界情勢を裏から動かす存在となる・・などなど。
城戸毅憲兵隊長
まだ多くの主人公クラスが登場しますが、彼らが複雑に絡み合うため、人間関係を整理しながら見ないと混乱必至(笑)
|
|
そして、最大の謎である「イナゴ身重く横たわる」の正体が明らかになると大きくストーリーが動き、俄然面白くなる。
このフィルムは捏造などではなく、正真正銘のリアル映像。すなわち、彼らの世界と隣接した並行世界の真正映像だったのです。
並行世界にて
しかも並行世界はいくつも存在し、数年先行した世界まである。これらの情報を整理して自分たちの世界に対策を講じれば、未来を変えることも出来る。まさに宝の山。
そして「易経」の瞑想により、並行世界と行き来できる「旅人」たちが存在する。”高い城の男”は、こうした「旅人」らとコンタクトでき、自らも「旅人」として並行世界に行き来する能力を得た人物だった。
ねえ、面白いでしょう? さすが「ブレードランナー」の原作『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を書いたフィリップ・K・ディック!
フィリップ・K・ディック
重厚なストーリーに加え、リドリー・スコットが作り上げた映像の世界観がまた素晴らしい。
例えばサンフランシスコは舞台設定が1950年代であり、日本太平洋合衆国(傀儡国家)の統治都市なので、日本やその配下の中国の風俗が溢れている。
つまり二重の意味で今現在のリアル・サンフランシスコとは違う訳だが、それを映像で作り上げている。(いったいどうやったんだ?・・CGだろうけど)
|
1950年代、大日本帝国統治下のサンフランシスコ/高い城の男
(C)AMAZON ORIGINAL
|
こうした並行世界モノの定番設定として、その世界の”自分自身に遭遇”というパラドックスがある。双方の歴史に大きな影響を及ぼしてしまう禁じ手だ。
この『高い城の男』では、行った先の世界に自分自身が存在していた場合、”行った者が消滅する”というルールになっている。
逆に、こちらの世界で死んでしまった者が、別の世界では生きているということも起きる。
こうしたルールを理解したジョン・スミスは、亡くした息子を並行世界から連れ戻すという発想に至る。(向こうの世界のジョン本人は、既に死んでいる。)
だが、もっとすごい事を企む人間がいた。それは「イナゴ身重く横たわる」を研究していたヒトラーその人。
彼は並行世界と自由に行き来できる”ゲート”を作ろうとしていたのだ。その目的は”全ての並行世界の征服”。(ええ~!)
こうした話を見ていると、核戦力で恫喝しながら他国を侵略するプーチンに、どうしても想いが至ってしまう。
大ナチス帝国と大日本帝国による世界分割地図も、ロシアと中国の二大独裁国家の野望の想像図と見ると、まさにディストピアそのものだ。
それが実現してしまった並行世界もあるのかと、途方もない考えが浮かぶ・・。
物語の終盤、ヒトラーの野望を受け継いだジョン・スミスは”ゲート”の完成を急がせるとともに、BCR(黒人共産反乱軍)とレジスタンスの蜂起によって日本が撤退した西海岸の叛乱者たちを殲滅し、我が物とすべく大軍を動員する。
ジュリアナ・クレインは企みを止めるため、レジスタンスの少数精鋭を引き連れ、ジョン・スミスの暗殺と”ゲート”の破壊に向かう。
果たしてジュリアナ・クレインは、世紀の暴挙を止めることができるのか!?
本作のプロデューサーは、フィリップ・K・ディックの実の娘、イサ・ディック・ハケットが務めました。
彼女は原作を大きく改変したTVシリーズの終わり方について『これが完璧な結末だ』と表明しています。
そしてこの新たな『高い城の男』を創造できたことについて、Amazonに深く感謝するとも。
いや~実に面白いSFドラマでした。ぶっ通し観るには少々長いですが(笑)
/// end of the “cinemaアラカルト347「高い城の男」”///
(追伸)
岸波
結末ですが、ジョン・スミスは野望が打ち砕かれて自殺。しかし”ゲート”は破壊されません。
というのも、ゲートに向かったジュリアナ・クレインは、そこで驚くべきものを目撃するからです。
それは・・・大勢の人々が歩いてくる姿。
おそらく(僕の解釈ですが)、こちらの世界で大ナチス帝国などに命を奪われて亡くなった人々がやってきたのでしょう。(一切の説明はありません。)
命を失った人々が復帰する・・それこそが、イサ・ディック・ハケットが言う「完璧な結末」の意味するところではないでしょうか?
それにしても・・
独裁者に世界征服されるのは真っ平です。
プーチン(あるいは習近平)に重ね、そういう想いを強くしたドラマでした。
では、次回の“cinemaアラカルト2”で・・・See you again !
eメールはこちらへ または habane8@yahoo.co.jp まで!
Give
the author your feedback, your comments + thoughts are always greatly appreciated.
To
be continued⇒ “cinemaアラカルト348” coming
soon!
<Back | Next>
|