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「AUTUMN」(Music Material)
by 岸波(葉羽)【配信2023.1.14】
 

◆この記事は作品のストーリーについて触れています。作品を実際に楽しむ前にストーリーを知りたくない方は閲覧をお控えください。

 こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。

 人を救って人に救われて、
 そして、ここに生きている。

 TVドラマから16年ぶりの続編として劇場化された『Dr.コトー診療所』、ケイコとともに観てまいりました。

 当然、リアルの俳優たちにも16年の歳月が刻まれてコト―は白髪に、子供たちは大人になり島の置かれた様子にも変化が。

 さて、16年後の志木那島では、どのようなドラマが展開されるのか?

Dr.コトー診療所

C)山田貴敏 (C)2022 映画「Dr.コトー診療所」製作委員会

 原作は200年から「週刊ヤングサンデー」で、同誌が休刊してからは「ビッグコミックオリジナル」に移籍して描き継がれた、山田貴敏の同名の代表作。

 フジテレビ系列で2003年にTVドラマ化され、2004年に二本のスペシャル版、2006年には第二シリーズが制作されました。

 沖縄県八重山列島の志木那島(原作では鹿児島県の離島古志木島)にあるたった一つの診療所を舞台に主人公後藤健助(愛称:コト―先生)は、今回、どんな活躍を見せてくれるのか?

 早速、その内容です。

 

 孤島に生きた
 ひとりの医師の物語

 映画の冒頭、志木那島の美しい風景の中を自転車で往診に向かうコト―(吉岡秀隆)の姿が。

 自転車は電動自転車に代わり、16年を経たコト―はすっかり白髪に。撮影は沖縄県の与那国島で行われたが、実に風光明媚な美しい島の風景だ。

Dr.コトー診療所

C)山田貴敏 (C)2022 映画「Dr.コトー診療所」製作委員会

 コト―は数年前に看護師の星野彩佳(柴咲コウ)と所帯を持ち、彩佳は現在妊娠7カ月の身重。

 島出身の準看護師西野那美(生田絵梨花:乃木坂46)と事務長和田一範(筧利夫)の助けを借りながら診療所を運営している。

身重の彩佳

 そこへ東京の大病院の御曹司織田判斗(高橋海人:King & Prince)が2か月間の研修で赴任して来る。彼は親である院長の言いつけでいやいやながら来ており、完全に"腰かけ"の気持ちだ。

 そんな中、猟師の原(時任三郎)が若い猟師の邦夫(春山幹介)を庇って大怪我を負い、コト―の執刀によって足の切断は避けられたが長期間のリハビリが必要な状態に。

猟師の原

 その息子のタケヒロ(富岡涼:この一作のために引退した俳優へ復帰)が島へ戻って来るが、彼は島民からコト―の跡を継ぐことを期待されて進学した医大を資金難のため退学していたことを打ち明けられずに悩む。

 また、志木那島の支所長としてコトーを支えている坂野(大森南朋)は、近隣の離島を含めた医療体制の再編のため別の島に拠点病院を作り、その病院で後輩たちの指導に当たって欲しいとコト―に依頼する。

 医療体制を再編することは過疎化が進む離島の将来に不可欠だが、そのためにはコト―が長年支え、親しんできた志木那島を離れなければならない。コト―は返答に窮する。

支所長の坂野

 そして、コト―自身の身体にも変調が現れており、極秘に検査を行った結果、急性骨髄性白血病と判明する。「一刻も早く本土の病院へ入院して手術を」と先輩医師鳴海(堺雅人)から諭されるが、目の前の患者たちを放っておけないコト―は逡巡する。

 そんな折も折、巨大台風が島を席巻し、多くの罹災者・怪我人で島は溢れかえり、診療所はさながら野戦病院と化す。

 コト―は、島民たちの命を守り切ることができるのか。はたまた、病状が急激に進行する彼自身の運命や如何に!?

Dr.コトー診療所

C)山田貴敏 (C)2022 映画「Dr.コトー診療所」製作委員会

 今回の劇場化に当たっては、16年前にTVシリーズで演じた主要な俳優陣が総出演。監督もTVシリーズと同じ中江功、脚本も同じく吉田紀子が担当。さながら年を経た同級会のよう。

 吉岡秀隆の白髪は染めたものと思われるが、さすがにみんな歳をとったという感慨が。

 特に原役の時任三郎や先代漁労長の安藤役泉谷しげるの老け方は(メイクかもしれないが)年の流れを感じさせる。でも芸達者たちが集結したことで、ストーリーに没頭できる重厚な演技になった。

元漁労長安藤

 このDr.コトーのシリーズは、人格的に問題があるライバル医師や新人医師、登場人物たちが、コト―の振る舞いに触れて成長していくサマが一つの味になっているが、今回で言うと”腰かけ医師”の織田判斗(高橋海人)と内緒で医大を中退して自己嫌悪に陥っているタケヒロ(富岡涼)がその役回りになる。

 その舞台は、野戦病院と化した嵐の中の診療所ということになるが、これは本当に絶望的な状態に陥っていく。

準看護師の那美

 激務の中で切迫流産の危機に陥る彩佳(柴咲コウ)が戦線離脱したかと思えば、コト―自身も急性白血病の悪化で昏倒、新米研修医の織田は「こんな中で全員の命を救うなんて無理だ!」と言い放ち、心臓マッサージを放棄して茫然自失状態に。

 いやぁ・・この状況の中では、傍目に彼が言っているとおり・と、考えざるを得ない。いったい、この先のシナリオはどうするんだ!?

Dr.コトー診療所

C)山田貴敏 (C)2022 映画「Dr.コトー診療所」製作委員会

 残った医療従事者は、新米準看護師の那美(生田絵梨花)一人。事務職の和田(筧利夫)は手の出しようがない。

 もう誰もヒーローが見当たらない・・。

 実際の野戦病院では、こういうことが当たり前に起こるのだろうという思いに至る・・おそらく戦地のウクライナでも、また逆に訓練を受けていない新兵ばかりのロシア側でも。

事務長の和田

 昨年度は『ふくしま近代医学150年~黎明期の群像』執筆のため、戊辰戦争激戦地での野戦病院の状況を研究したが、時代と状況は違えど、最前線での医療従者の苦悩というものがあまりにもリアルで胸が詰まる思いだ。

 最近はTVの医療ドラマがたくさん作られるようになっているが、やはり医大に勤務して、現場の多くの医師・看護師たちの苦悩を見聞きしていると、医療ドラマを観る時には自然と背筋が伸びてしまう。

 Dr.コトーには実在のモデルが居ると言う。それは鹿児島県下甑島にある「下甑手打診療所」の瀬戸上健二郎医師だ。

 彼は30年間、離島診療に携わり、その功績で2000年に藍綬褒章を受けている。

瀬戸上健二郎医師

 実は僕が最初に公務員になって担当したのが喜多方保健所のへき地巡回診療だった。喜多方保健所の管内は、福島県下で最も多い16の無医地区を抱えており、薬剤師の橋本先輩(「人生ノート」)と二人で、雇い上げ医師一名、看護師一名とともに巡回診療を行っていた。

 離島とはまた状況が違うが、瀬戸上健二郎医師やDr.コトー同様、広大な無医地区を含めて多くの町民・村民の命と健康を守って来た医師たち、そして、東日本大震災の後、ドクターヘリで現地に通う医師たちとの触れ合いもまた日常だった。

 だからドラマでも映画でも、それを観る時には特別な想いを抱くのだ。

Dr.コトー診療所

C)山田貴敏 (C)2022 映画「Dr.コトー診療所」製作委員会

 今回のクライマックスは、気を失いそうになる自分自身を叱咤激励しながら最後の手術に挑むDr.コトーの魂の執刀だった。

 演技と分かっていながら、観客の誰もが息を殺して見入ってしまう。そして手術を無事完了した後で、真っ白になって動かなくなるコトー。

 これはあの『あしたのジョー』の最終場面と同じ演出だった。あの場面を知る者は誰しも、ここで映画が終わると思ったに違いない。

あしたのジョー」最終場面

 だが、Dr.コトーの多くのエピソードは、悲劇で終わることはしない。長いホワイトアウトの後で後日談が描かれる。そこに「救い」がある。

 だが逆に、そのシーンはまた、今回の映画が「Dr.コトー・ストーリー」の大団円であることを告げているようだ。

 もう二度と「Dr.コトー」が描かれることが無い、これが最後の作品なのだと思う。この感動のストーリーを、見逃す手はありませんぞ。うん、観てよかった・・。

 

/// end of the “cinemaアラカルト344「Dr.コトー診療所」”///

 

(追伸)

岸波

 最後の後日談ですが、数か月後の診療所の様子です。

 彩佳は無事出産を終えて、よちよち歩きの子供が登場。”腰かけ”の筈だった織田判斗は(おそらく親の反対を押し切って)診療所の跡を継ぎ、タケヒロは医大に復学して勉強に励む姿が。

 そしてカメラの先には、見慣れた草履の足元が・・。

復学するタケヒロ

 このエンディングを観た時に『鬼滅の刃』の最終回を思い出しました。『鬼滅』では、時代を越えた先で、死んでしまった主人公たちの子孫が、先祖と同じ姿で登場し、幸せな人生を送っているのです。

 もちろん、惨劇の野戦病院の後で、全てがハッピーに好転して誰一人欠けることなく幸せな人生を送ったという解釈もあるでしょうが、それぞれの危機をどうやって乗り越えたか説明は皆無。

 だから僕には、平行世界の登場人物たちの幸福な人生と写りました。

 人生いろいろ、平行世界もいろいろ。だけどやっぱり、このエンディングを用意してくれた脚本家、そして監督に感謝です。

 僕ら年っしょりは、悲しい話や切ない話はリアルでもうお腹いっぱいなのですからね(笑)

 

 では、次回の“cinemaアラカルト2”で・・・See you again !

Dr.コトー診療所

C)山田貴敏 (C)2022 映画「Dr.コトー診療所」製作委員会

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To be continued⇒  “cinemaアラカルト346” coming soon!

 

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