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「Freezing Conflagration」(佑樹のMusic-Room
by 岸波(葉羽)【配信2022.12.3】
 

◆この記事は作品のストーリーについて触れています。作品を実際に楽しむ前にストーリーを知りたくない方は閲覧をお控えください。

 こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。

 1996年 アトランタ爆破事件の実話
 その日、全国民が敵になったーー

 1996年のアトランタと言えば五輪が開催された年。そう、まさにアトランタがオリンピックに湧いているその時に起きた爆破事件。

 ん・・あまり記憶にない。

 それもそのはずっ!! m9っ`Д´)

リチャード・ジュエル

C)2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS.
ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

 オリンピックに影響を及ぼさないよう、爆弾の第一発見者であった警備員が犯人として挙げられ、早々に事件の幕引きが図られたのですから。

 しかしコレはトンデモない誤認逮捕、いや”捏造”であったことが明らかにされて世間を揺るがす事態になりました。

 その全貌は、マリー・ブレナーが翌1997年、雑誌『ヴァニティ・フェア』に寄稿した『アメリカの悪夢:リチャード・ジュエルのバラード』で明らかにされる。

 この記事を原作として、クリント・イーストウッドがメガホンを取り、自身40本目の記念碑的監督作品として世に放った問題作。

 さて、その内容は?

 

 "絶対に見逃せない、
  パワフルな映画"
FOX-TV

 映画の冒頭、主人公のリチャード・ジュエル(ポール・ウォルター・ハウザー)が弁護士事務所で備品運びをしている。

 弁護士の一人ワトソン・ブライアント(サム・ロックウェル)が呼び止め「テープをくれ」と言われると「切れていたようなので既に引き出しに補充しておきました」と。

 しかもブライアントが好みのお菓子「スニッカーズ」まで補充されている。ただの実直な太った男に見えるが、意外と気が利くところがありそうだ。

リチャード・ジュエル

C)2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS.
ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

 ジュエルの夢は”法務執行官”になること。そして大学の警備員に採用が決まったと。

 ブライアントは餞別のつもりか、あるいはスニッカーズの礼のつもりか現金を渡して言う。

「君はきっと法務執行官になれる。だがゲス野郎だけにはなるな。忘れるなよ。」

弁護士ブライアントとジュエル

 場面代わって、ジョージア州デモレストのピードモント大学。大学の学長から早速クビを申し渡される。

 寄宿舎で禁止されている学生の飲酒を咎めたことがやり過ぎだと言う。

 ルールを守らせるのが自分の役目ではないかと反駁する彼に対し、学長は権力をカサにして横暴なことをする目立ちたがり屋と見たようだ。

 そしてこの小さな事件が、後に起こる大事件の伏線となる。

 ジュエルの次の仕事は、野外コンサートの警備員。チンタラしている警備員の中で彼だけが真剣に会場の安全確認をしている。

 と、その頃、警察にコンサート会場の爆破予告が入る。

リチャード・ジュエル

C)2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS.
ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

 そんな事は知らず会場を見廻っていたジュエルは、ベンチの下に不審な荷物を発見し、すぐさま警察に通報。

 爆弾処理作業班が駆け付け、ジュエルは観客の避難誘導を始めるが、そこで爆発が起こる。二人死亡、ケガ人は100人超。

 マスコミに取り上げられて、ジュエルは一躍”時の人”の大ヒーローとなり、母一人子一人で同居する老母ボビ(キャシー・ベイツ)も、ついに息子の夢が叶ったと大喜び。

 しかあしっ!・・・

時の人・・

 事件を仕切るFBIに礼の大学の学長からタレこみが・・「あいつは目立ちたがり屋で、自作自演をしかねない危険人物だ。そのため大学でもクビにした」と。

 いやいやいや、これは酷すぎる。しかしFBIは早速、第一発見者であるジュエルをマークすることに。

 折悪く、FBIの主任捜査官トム・ショウ(ジョン・ハム)と懇意にしている女性新聞記者キャシー(オリヴィア・ワイルド)が”女の武器”を使って犯人の目星を教えろと迫る。

新聞記者キャシー

 事もあろうに、捜査官トム・ショウは色香に迷い、捜査情報を漏洩してしまう。

 翌日のアトランタ・ジャーナル紙の一面にキャシーの記事が大々的に取り上げられ、ジュエルとボビの家は大勢のマスコミに取り囲まれる。ヒーローが一転、重要参考人に。

 頼る人とて無いジュエルは、自分に餞別をくれたブライアントの事を思い出し、彼に助けを求める。

 さて、ジュエルは犯罪の嫌疑を晴らすことが出来るのか? はたまた真犯人は、何処に!?

リチャード・ジュエル

C)2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS.
ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

 最初にこの話が実話だとキャッチコピーにあったので、状況の展開に興味津々。

 ジュエルも老母ボビも良い人過ぎて、とても闘えるキャラでないので、ハラハラしどうし。

 弁護士のブライアントが再登場したので、彼が何とかしてくれるとは思いましたが、状況がどんどん悪化します。

尋問中

 それにしても警察のやり方が汚い。FBIの中では情報を洩らした犯人捜しが始まって主任捜査官トムも戦々恐々。

 オリンピックに悪影響を及ぼさないよう早期解決の厳命が下り、強引に自白させようとする。

 いやぁ・・こういう事って、実際の冤罪事件でもあるんだろうな、と考えさせられてしまう。

 「参考ビデオを撮影するためだ」とジュエルを騙して、本物の自白供述書にサインさせようとしたり、家に盗聴器を仕掛けたり、「爆破予告」の言葉をジュエル自身に読ませて録音したりとやりたい放題。

もちろん、弁護士ブライアントが察知して止めさせますが。

盗聴・・?

 また、現代の犯罪捜査に用いられるプロファイリング(犯人像の想定)も、むしろ先入観を産む原因になってしまうのではないのか。

 この事件に関するFBIのプロファイリングは「孤独な爆弾犯」・・”不満を抱えた白人の元警官が、軍関係者か警察に憧れ英雄になりたがる者”。

孤独な爆弾犯?

 もちろん、あのいい加減な学長のタレこみを元にでっち上げられたもの。だからジュエルに近い人物像になるのは当たり前。

 現代捜査・・プロファイリングの落とし穴だと感じる。

 遂には、家宅捜索(ガサ入れ)まで強行されるのですが、老母のボビが「どうして私のタッパーや下着まで持っていくの?そこまで侮辱されなきゃいけないの!」と泣くシーンなどは、切なくてたまりません。

リチャード・ジュエル

C)2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS.
ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

 で、主人公を演じたポール・ウォルター・ハウザーですが、元々はコメディアンというかピン芸人。

別名でラッパーとしても有名だとか。

 イーストウッド監督が彼を起用したワケは、下の写真を見れば一目瞭然。

左が本人画像(笑)

 この『リチャード・ジュエル』への出演で、第91回ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞の「ブレイクスルー賞」を受賞しました。

 しかあしっ!!

 実はもっと評価されたのが老母ボビを演じたキャシー・べイツ。

キャシー・べイツ

 同賞の「助演女優賞」を受賞したほか、アカデミー賞やゴールデングローブ賞、デトロイト映画評論家協会賞の助演女優賞にノミネートされた。

 どこにでも居そうな、質素に暮らしている老母が息子ジュエルのために立ち上がるシーンには心底泣けました。(うっ、うっ・・)

リチャード・ジュエル

C)2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS.
ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

 そして、ブライアント役のサム・ロックウェル。映画の後半で猛烈な反撃を開始する彼のアグレッシブな行力は実に痛快。

 2002年のジョージ・クルーニー初監督作品『コンフェッション』で主演を務めたのを皮きりに、2017年の『スリー・ビルボード』でアカデミー賞とゴールデングローブ賞の助演男優賞を受賞。

サム・ロックウェル

 本作でもデトロイト映画評論家協会賞の助演男優賞にノミネートされました。

そういえば『チャーリーズ・エンジェル』のユニークな悪役も彼。要チェックや!

 さて、映画のストーリーは、もちろん実話どおり冤罪が晴らされ、ジュエルの願いであった”法務執行官”になる夢を叶えるのですが、本人は2007年、心疾患により44歳の若さで亡くなりました。

イーストウッド監督とボビ本人

 死後に映画化された本作の制作には、実母のボビも協力したそうです。

 冤罪のこわさ、そして結果的にそれを煽って状況を悪化させるマスコミの横暴が記憶に残る映画でした。

 

/// end of the “cinemaアラカルト339「リチャード・ジュエル」”///

 

(追伸)

岸波

 この映画の評価ですが、Rotten Tomatoesで批評家支持率が76%、平均点は10点満点で6.8点と決して悪い評価では無いのですが、興行的にはイーストウッド作品としては異例の伸び悩みでした。

 これにはワケがあり、映画の中で女の武器を使って捜査情報を入手したとされる実在の記者キャシー・スラッグスが事件後に亡くなり、新聞社が”枕営業”の事実はなく故人を侮辱するものだと、大がかりなボイコット運動を行ったのです。

 それに対し、イーストウッド監督や制作のワーナー・ブラザースでは「きちんとした情報源に基づいている」と反論したものの、やはり本人が既に反論できない状態での公開に対する非難はSNSにも伝播しました。

 実話ストーリーと言うのは、こういう所が難しいな・・と感じ入った次第。

 

 では、次回の“cinemaアラカルト2”で・・・See you again !

リチャード・ジュエル

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To be continued⇒  “cinemaアラカルト340” coming soon!

 

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