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「AUTUMN」(Music Material)
by 岸波(葉羽)【配信2022.11.5】
 

◆この記事は作品のストーリーについて触れています。作品を実際に楽しむ前にストーリーを知りたくない方は閲覧をお控えください。

 こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。

 世界の果てで
 彼の旅が始まった…

 Amazonプライムで、トム・ハンクスとロバート・ゼメキス監督が『フォレスト・ガンプ/一期一会』以来六年ぶりにタッグを組んだ『キャスト・アウェイ』を観ました。

 既に20年以上前の映画ですが、しみじみと心に残るいい作品でした。

キャスト・アウェイ

 過去に二度、アカデミー賞主演男優賞を受賞しているトム・ハンクスですが、この映画でも同賞にノミネート。

 無人島生活での鬼気迫る演技や、生還後のより深い悲しみに耐える姿は、さすがトム・ハンクスと思わせる素晴らしい演技です。

 当時のニューヨーク・ポスト紙も「映画史上に燦然と輝く名演」と絶賛。

 さて、映画の内容は?

 

 二度と
 忘れることのない感動!
 希望と、勇気と、
 サバイバルを体験しよう!!

 映画の冒頭、これから世界的な物流企業として成長していく米国のフェデラル・エクスプレス(FedEx)の配送員チャック(トム・ハンクス)が輸送車を運転して登場。

 テキサスの大荒野にある十字路を折れ、"DICK&BETTINA"という看板のオブジェ制作会社に荷物を届ける。

さりげないシーンだが、終盤で大きな意味を持つことになる重要な場面。

キャスト・アウェイ

 そこから今度は別の荷物(天使の二枚羽を模った置物製品)を受け取ってトラックへ。

 ここがなかなか面白いシーンで、受け取った瞬間からカメラが荷物目線で動き出し、荷物が格納されたドアが開かれると一気にロシアの荷受人が別の配送車から引き出す場面にジャンプする。

ロシアに届いた荷物

 時間も経過していて、チャックは既に世界を股に掛けるマネージャーに昇進し、ロシアのニコライで従業員たちにハッパをかけている。

 彼にはケリー(ヘレン・ハント)という結婚間近の恋人がおり、その家族と共にクリスマス・パーティを過ごしていると緊急の呼び出しが入る。

 マレーシアでトラブルが発生し、その処理に駆け付けなければならないのだ。

チャックと恋人のケリー

 出発前にと、ケリーがクリスマス・プレゼントの懐中時計を手渡すと、今度はチャックが小箱を手渡し「大晦日までには戻るからその時に開けて欲しい」と。

 うん、これは間違いなく結婚指輪。ケリーは万感の想いでチャックを見送る。

 しかし、マレーシアからの帰路の飛行機でアクシデント発生。南海の海に墜落した飛行機から命からがら脱出したチャックは、無人島に漂着。

茫然自失・・

 その絶海の孤島で、チャックの孤独なサバイバル生活が幕を開ける。

 さて、チャックは無事生還する事ができるのか? はたまたチャックとケリーの運命や如何に!?

キャスト・アウェイ

 サバイバル・ストーリーには、過去、色々な名作がありました。

 子供の頃に胸躍らせた「十五少年漂流記」や「ロビンソン・クルーソー」。

 漫画では、さいとうたかおの「ブレイクダウン」、さがら梨々が漫画化してヒットした「ソウナンですか?」など。

 この『キャスト・アウェイ』で描かれるサバイバルは非常にリアル。

 まずは靴を作らないとジャングルに踏み込むこともできない。

 そして水の調達。大声を出して他の漂着者を探す。

誰も見えない・・

 それから、岩山の頂上まで登って島全体の視認。ここが小さな無人島で、海には島影も見えない孤島であることを知った時の絶望感。

 これらサバイバル・シーンには一切BGMが入らず、刻々と絶望的な状況であることが判明していく過程を重苦しく演出している。

 島には椰子の木があるが、椰子の実というモノは非常に固く、割るまでに大変というのも実感できる。

コイツがなかなか・・

 一度だけ沖に船影が見えたが、こちらに気付かず去り、漂着した時の救命ボートで脱出を図るも海流に押し戻されて失敗。

 結局、チャックは、この無人島で長い間生き抜くことになる。そのサバイバル生活が映画の8割。

 残りの2割が、奇跡の帰還を果たした後に彼を襲う悲劇だ。

キャスト・アウェイ

 そう書くと暗いだけの絶望的なストーリーに思えるが、そうではない。彼を支えるものが三つあった。

 その一つは、ポケットに残っていたケリーからのクリスマス・プレゼント。

 祖父の代から伝わる思い出の時計で、チャックが撮ったお気に入りのケリーの写真がはめ込まれている。

時計自体は水に濡れて動かなくなっていたが。

ケリーの時計

 二つ目が、FeDexの荷物。彼と共に漂着した荷物がいくつかあり、それらはかれのサバイバル生活の支えになったものもあるが、一つだけ「開封」しないものがあった。

 それは、冒頭のシーンに出て来た「天使の羽」の工房に宛てられた荷物。

 彼がどういう思いで手を付けなったか説明はされないが、特別な意味を持つ荷物だろう。

"天使の羽"の荷物

 最後が、バレーボールのウィルソン。もともとFeDexの荷物だったものだが、それに顔を描き、孤独なチャックの唯一の話し相手になっていたのだ。

ウィルソン誕生

 これは、一人芝居となるトム・ハンクスに、自然にセリフを語らせるためにもいい演出だったと思う。

 さて、そうした波乱万丈の無人島生活が描かれるのは数週間のこと。

 突如、画面に「そして四年後」の文字が表示される。(ええ~!)

キャスト・アウェイ

 ここは、かなり驚いた。とっくに捜索も打ち切られ、既に死んだものとされているだろう。

実際、そうだった。

 服はとうに無くなり、髪は伸び放題、身体はガリガリに痩せこけている。

四年後のチャック

 制作にも関与しているトム・ハンクスは、この四年後のシーンを撮影するために、いったん撮影を休止して四か月間の減量を行ったという。

正確には、”それ以前”を撮影するために体重を23キロ増量していたので、元に戻し、さらに体重を減らすために時間が必要だった。(髪を伸ばすためにも。)

 ある日、チャックに千載一遇のチャンスが訪れる。仮設トイレの一部分であったろう大きなプラスチックの断片が漂着したのだ。

「これは帆に使える!」と直感したチャックは、筏とオールづくりに着手する。数週間かけて陸風が海風に変わるギリギリの季節に完成し、進水式。

 もちろん、かけがえのない相棒ウィルソンも一緒だ。

キャスト・アウェイ

 かつては乗り越えるのを断念した波の荒い分水嶺を越えて大海に漕ぎだし、数日後、嵐がやってくる。

 台風一過で意識を取り戻すと、プラスチックの帆は散逸し持ち込んだ水も消失。そしてウィルソン・・ウィルソンはどこへ行った!!?

 遠く波間に遠ざかるバレーボールのウィルソン。筏を引きながら半狂乱になってウィルソンを追いかけるも、遂に水平線の彼方へ。

お~い!

「ごめんよ、ウィルソン!」と慟哭するチャックは心の糸が切れてしまう・・頼みの綱のオールを海に流し、死を決意して目を閉じる。

 ここで貨物船が通りかかり救出されるのは、お決まりのコース・・いや、夢か?

 それは現実で、彼は”奇跡の生還”を果たすことになる。

 並みのストーリーなら、ここでハッピーエンドとなる所だろう。しかし、アメリカに戻ってからの後日談に胸を締め付けられる。

 あれほど再会を夢見ていた恋人のケリーは、四年の歳月で既に再婚し、娘まで生まれていた。

 ここはクライマックスなので詳しくは書かないが、いまだ愛し合いながらも元には戻れない、二人の別離のシーンが切な過ぎて忘れられない。

ケリーとの再会

 何とかならないのか、おい、脚本家!と怒りさえ湧き上がるが、どうにもならない。・・結局、二人とも常識人で、それこそがリアルなのだろう。

 考えてみれば、こういう悲しい別離は世の中に幾らでもあるのだろう。誰も悪者なんか居ない。悲劇だけがそこに残る。

 つい、イタリア映画『ひまわり』や大和和紀原作の『はいからさんが通る』を思い出した。

劇場版「はいからさんが通る」

 『はいからさんが通る』では、戦地で消息を絶った許婚の少尉を探してヒロイン紅緒が大陸に渡る。

 だが、やっと探し当てた少尉は激しい戦闘で記憶を失い、それを献身的に介抱してくれた現地の娘と結婚していたのだ。

 20代でこのストーリ―に触れた時、涙が止まらなくなった事を思い出すなぁ・・。(ウルウル)

キャスト・アウェイ

 映画のラスト、チャックは”ある物”を携えて、例のテキサスの十字路を曲がる。

 それは、無人島で彼が一つだけ開けなかった「天使の羽」”DICK&BETTINA”工房に宛てられた荷物だ。

 あいにく家人は留守だったが、チャックは「この荷物は僕の命を救ってくれました。ありがとう。チャック・ノーランド」とメモを付けて届ける。

命を救ってくれました・・

 再び、帰路の十字路。どこへ行こうか立ち止まって考えているところに、ベティーナの車が停まる。

天使の羽のベティーナ

 彼女は、チャックが道に迷っていると誤解し、丁寧に行き先を教えると「がんばれよ、カウボーイ!」と励まして工房へ。

 チャックは、今にも泣き出しそうな顔に・・。

キャスト・アウェイ

 そうか、彼にとって”顧客へ配達する使命感”が生きる支えだったんだな、という事に思いが至る。

 ベティーナの顔を見て、それを成し遂げた達成感、そして、その責任が支えとなって命を救われた感謝の涙なんだろうな・・。

 このラストシーンがあって、この映画は名作たり得たのだろう。

 ああ、いい映画だったなぁ。

 辛い事ばかりだったが、まだまだ人生はこれからだ。頑張れよ、カウボーイ!

 

/// end of the “cinemaアラカルト335「キャスト・アウェイ」”///

 

(追伸)

岸波

 最初、ラストシーンを見た時は、ベティーナとの新しい恋が始まるのかと思いました。

 何故かというと、その前に工房を訪ねた時、看板の"DICK&BETTINA"の半分が無くなって"BETTINA"工房になっていたから。

 おそらく何らかの理由でDICKと別れたのでしょう。

 ところが二回目に見直すと、そこでのチャックの表情は下心があるようには見えず、むしろ励ましに感激して泣き出しそうだったのです。

 そこで改めて、届けることができた「天使の羽」の意味に思いが至った次第。

 僕もまだまだだな、思い込みが激し過ぎる(笑)

 

 では、次回の“cinemaアラカルト2”で・・・See you again !

ウィルソンと議論するチャック

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To be continued⇒  “cinemaアラカルト336” coming soon!

 

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