こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
それは、一生に一枚の家族写真。
これは2020年公開、中野量太監督の『浅田家!』のキャッチコピー。
今、これを書くためにAmazonプライムでもう一度映画『浅田家!』を見直していたら、思わず涙が抑えられなくなりました。
この映画は三重県出身の写真家浅田政志による写真集『浅田家』と『アルバムのチカラ』を原案として制作された作品。
主演の浅田政志役に二宮和也、その兄幸宏に妻夫木聡、父親に平田満、母親に風吹ジュン、政志のガールフレンド若菜に黒木華、東日本大震災の地で行方不明の親友を探しながら散逸した写真を集めてその持ち主や家族に返そうと奮闘する青年陽介に菅田将暉と芸達者を配した超豪華キャスト。
家族写真を通して人々に希望と生きる力を与え続ける彼が、震災で父親を亡くした少女の「家族写真を撮って」という切なる願いをどうやって叶えるか・・感動のストーリーです。
なお今回は、実際の写真集と映画で同じシーンが再現されているため、画像は実際の写真集からのものも引用しています。
「家族」を撮り続けた写真家と、
彼を支え続けた「家族」の
感動実話。
映画の冒頭、お通夜が行われている。どうやら父親(平田満)が亡くなって、集まった家族が悲嘆に暮れているようだ。
夫の死に顔を見ながらついに耐えきれず号泣する母親(風吹ジュン)。長男の幸宏(妻夫木聡)は厳しい顔で時計を気にしている。
そこに遅れてやってきた弟の政志(二宮和也)。「すまん、写真屋と昔話していたら遅うなったわ」。彼が持ってきたのは父の遺影・・。
|
|
そして、兄幸宏(妻夫木聡)のモノローグ。
「弟はなりたかった写真家になった。そう・・家族全員を巻き込んで。」
場面は彼らが子供の頃に転換する。
彼らは、病院で主任看護師を務める母親(風吹ジュン)と主夫に徹して子育てをする父親(平田満)、そして幸弘(妻夫木聡)と政志(二宮和也)の四人家族。
ある日、10歳の政志が家に帰ると、台所で父親が血だらけになって倒れている。料理中に包丁を足に落として重傷を負ったらしい。
「お母さんに知らせて!」と頼まれ、駆けだす政志。ところが玄関から飛び出して転倒し重傷を負う。
なんとか這い上がり二階の兄に助けを求めると、今度は兄が階段から転げ落ちて血だらけに。
いやいやいや大爆笑ですよコレ! なんたる粗忽者のDNA!
・・結果、母の務める病院の一室で包帯グルグルの三人。見つめる看護師の母親は思わず笑いだす。そして、兄のモノローグ。
「そう・・思えばこの日が、弟の写真人生に家族が巻き込まれていく決定的な一日になった。」
後日、再現されたコスプレ写真
政志は12歳の時にカメラ好きの父から「ニコンFE」を譲り受けて、写真を撮ることに没頭する。
最初の被写体となるガールフレンド若菜との撮影シーンがなかなか微笑ましい。
海辺の砂浜でポーズを取る若菜。
しかし、政志はなかなかシャッターを切ることができない。彼は、被写体をよく理解してからでないと撮れないのだ。
若菜のほっぺたをつねって柔らかさを確認する政志。そして髪の匂いを嗅いで「うちの母ちゃんと同じエメロン・シャンプーや!」と。
エメロン・シャンプー
笑いだす若菜。 そして急に真顔になって海を見つめながら「政志クン、ウチのことが好きなん?」・・返事を待つがなかなか返ってこない。
「好きだよ」・・その答えに満面の笑みで振り返る若菜。
瞬間、シャッターを切る政志。
この写真が若菜にとって一生の宝物になるのです。
うん、いいシーンだ!!
|
|
政志は結局、プロの写真家を目指して大阪の日本写真映像専門学校に入学。しかし、学校をサボってばかりで実家にも返ってこない。
卒業も危ぶまれる状況の中、専門学校の先生から「自分の一生であと一回しかシャッターを切れないとしたら何を撮る?そういう写真を持ってこい」と課題が。
思い悩んだ挙句、政志はあるアイディアを思い付き、実家に戻る事に。
実際の浅田政志氏
家族にお願いしたのは、何と子供だったあの日、病院で親子三人が包帯グルグル巻になって母親から笑われたあの日のコスプレ再現シーンだった!
この写真が大成功。最高賞である学長賞を受賞して両親を大いに喜ばせ、以後、彼は「コスプレ家族写真」を自分のテーマと決めて写真を撮りためて行く。
こうして制作されるコスプレ写真が実に面白い。
今度は父親の夢であった消防士の扮装を実現するため、消防士になった兄の同級生に「消防車を貸してくれ」と頼みに行かせる。
消防車貸してくれんね?
当然、無理に決まっているが「そこを友達のよしみで何とか」。「おいおい、友達のよしみで消防車を貸せない事くらい分かるだろ!」
そりゃそうだ(大笑い)
で、結局、停まっているいる消防車に乗るだけ、服装はちょっとだけ貸すという条件で撮影が実現。
これも、実際に浅田政志氏が撮った写真を、そのままを再現しているのがとても可笑しい。
実際の写真と浅田氏
その後も、撮り続ける「コスプレ家族写真」。下は『第1回大食い選手権』の実際の画像。
(C)浅田政志『浅田家』より
そして、実際の『疲れたヒーロー』(笑)
(C)浅田政志『浅田家』より
やがて自分の家族ばかりでなく、他人の家族の夢を叶える写真にも手を広げていく。
こうした楽しげな家族写真を撮ることが彼の生き甲斐になって行くのだ。
(C)浅田政志『浅田家』より
(C)浅田政志『浅田家』より
しかし、政志に写真を依頼する者たちの中には、必ずしも幸福な状態でない家族もあった。
重い病を背負って入院し、あといくばくの命もない男の子。しばらくぶりに家に戻された彼は、白いTシャツに虹の絵を描いて楽しそうにしていた。
それを見た政志は、家族四人のTシャツに虹を描き、四枚のシャツで大きな虹がかかるよう寝そべってもらう。
|
浅田家!『虹の家族』
(C)2020「浅田家!」製作委員会
|
彼の命がもうすぐ尽きることを知りながら、微笑んで見せる父と母。
それをファインダー越しに覗きこむ政志の目からも思わず大粒の泪が・・。
そうした様々な家族と触れ合う中、政志の写真人生に大きな転機が訪れる。
2011年3月11日。
個展の打ち合わせのため富山に居た政志は大きな揺れに遭遇。テレビを見ると、東北地方を中心とする東日本で大被害が出ているサマを目にする。
映し出されていたのは壊滅的な被害をこうむった岩手県野津町。そこは、政志が家族写真を撮影した高原家が住んでいる場所だった。
政志は現地に行って高原家を探すが、そこにはもう瓦礫しか残っていない惨状。
彼はこの町で、リヤカーを引きながら打ち上げられた写真を収集し、一枚ずつ乾かしている青年陽介(菅田将暉)と出会う。
陽介(菅田将暉)
行方不明の親友を探しているが見つからず、代わりに泥にまみれた家族写真が散逸してるのを見て、それらをいつか持ち主や家族に返したくて作業を始めたと言う。
政志はこの町にとどまり、陽介(菅田将暉)とともに収集の手伝いをすることを決意する。
ここからが映画の後半で、前半までのオチャラケたトーンが一変します。
浅田政志『アルバムのチカラ』
彼らが収集した写真を見に来る人々の中に一人の少女莉子(後藤由依良)が居た。
彼女は、母親と妹の写真は見つかったが行方不明の父の写真だけがどうしても見つからないと、瓦礫の中を一人、探し歩いて居たのだ。
|
|
莉子は政志を自分の家があった場所に案内し、自分たちの家族写真を撮って欲しいと懇願する。狼狽する政志・・。
彼女が拾い集めた写真を貼ったアルバムには父を含めた家族写真だけが無く、その一枚分だけ空けてあったのだ。
「無理だよ・・」初めて依頼を断る政志。
大切なアルバムを政志に押し付け、泣きながら帰る莉子・・。
政志はショックを受けて、一人、逃げるように実家に帰る。
莉子
しかし、その頃実家では父親(平田満)が脳梗塞で倒れ、病院に搬送される事件が。
「もう、家族は撮れんかもしれんな・・」とつぶやいた政志に兄の幸弘(妻夫木聡)が掴みかかる・・「なに!もういっぺん言うてみ!!」
簡単に夢をあきらめてしまう弟に、今まで家族をあげて協力してきた兄の怒りが爆発する。
さて、政志はこれで家族写真を捨ててしまうのか? 岩手の少女莉子の願いは叶わないのか? はたまた父の運命や如何に??
この映画、とにかく出演者の演技が素晴らしい。
特に父親役の平田満は、母親の風吹ジュンの収入に支えられて家を守る”髪結いの亭主”で、子供達からも情けないと蔑視されているけれども、妻や子供たちに注ぐ眼差しや言葉は、とても温かくて心に響く。
平田満
主演の二宮和也も元々演技には定評がある俳優だが、特に後半の心に重荷を負ってからの表情など、胸に迫るものがある。
妻夫木聡、風吹ジュン、黒木華については言うまでも無いだろう。
この映画のメガホンを取った中野量太監督は1973年の京都生まれ。
えーと、48歳になりますか。
日本映画学校を卒業後、2006年に撮った『ロケットパンチを君に』でひろしま映像展グランプリ、水戸短篇映像祭準グランプリなど3つのグランプリを含む7つの賞を受賞。
その後の『チチを撮りに』(2012年)で、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2012で国際長編コンペティション部門で日本人初の監督賞をはじめ、数多くの国内・国際映画賞を獲得している。
中野量太監督
今回の『浅田家!』の前作は2016年、自身初の商業映画デビューとなる『湯を沸かすほどの熱い愛』だった。
この作品、僕自身は見ていないのですが、以前、カリスマ彰がここcinemaアラカルトでレビューしています。
でも、そこでは「末期癌の銭湯の女将(宮沢りえ)の奮闘記。 ぐうたら亭主(オダギリジョー)ともに超弩級のミスキャスト。台詞、演出ともにアマチュアレベル。」と酷評されています。
ただ同作品は、第40回日本アカデミー賞で6部門受賞、内2部門では最優秀賞。他にも第41回報知映画賞・第31回高崎映画祭・第26回日本映画批評家大賞ではそれぞれ4冠、第38回ヨコハマ映画祭では3冠を達成しており、評価する声が高いのも事実。
カリスマ彰は時々超辛口なので、実際、僕も観る機会があれば書きますが(笑)
少なくとも、この『浅田家!』以降は、大きな期待をかけて良い映画人だと思います。
|
|
さて、映画の結末ですが、結局政志はあの岩手県野津町へ戻り、莉子と再び会うことにします。
そう・・莉子の父親の写真が存在しない本当の理由に想いが至ったのです。
「家族写真を撮るよ」と言って、莉子と妹、そして母親を連れて、彼女の家族が写真を撮った海辺へと向かいます。
その時、莉子がしていた父親の腕時計を貸してほしいと自分の腕にはめ直し、カメラを構える政志。でも、そこには父親の姿は無い。
いやもう、この後の感動のラストは、涙にくもって文字を打てません。打てないので書きません(笑)
/// end of the “cinemaアラカルト306「浅田家!」”///
(追伸)
岸波
まあ、書かなくてももうお分かりですよね?
家族写真に父親が写っていないのは、いつも父親が「撮る側」だったからです。
だから莉子も、カメラを構える政志の腕時計を見て、いつもそこに父親が居たという事を思い出すのです。うっ、ダメだ。また涙が溢れて・・。
そうだ・・
最初の父親のお通夜シーンの謎をまだ解いていませんでしたね。
父親は、結局あのまま帰らぬ人となったのか。いえいえ、麻痺は残りましたが奇跡的に快復するのです。
それなら何故、お通夜?
答えは最後の一枚(↓)を見れば分かります(笑)
では、次回の“cinemaアラカルト2”で・・・See you again !
eメールはこちらへ または habane8@yahoo.co.jp まで!
Give
the author your feedback, your comments + thoughts are always greatly appreciated.
To
be continued⇒ “cinemaアラカルト307” coming
soon!
<Back | Next>
|