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「Freezing Conflagration」(佑樹のMusic-Room
by 岸波(葉羽)【配信2022.5.7】
 

◆この記事は作品のストーリーについて触れています。作品を実際に楽しむ前にストーリーを知りたくない方は閲覧をお控えください。

 こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。

『ジョン・ウィック』の脚本家がストレス社会に捧ぐ
 痛快、ハードボイルド・アクション!

 二週間ぶりのご無沙汰でした。ようやく僕もコチラ『cinemaアラカルトⅡ』に登場です。

 さて映画は、Amazonプライムで観た2021年公開、イリヤ・ナイシュラ―監督のアクション・スリラー『Mr.ノーバディ』です。

 いやぁ、コレはガツンと来ました(笑)

Mr.ノーバディ

(C)2021 Universal Pictures

 主演のボブ・オデンカークは2017年のスピルバーグ監督『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』などに出ている出ている俳優さんですが、僕は初見。

 元々は、何と喜劇役者だったんですね。

監督・脚本・放送作家・プロデューサーも務めている。

 この『Mr.ノーバディ』では制作も担っているのですが、この作品を見ていっぺんでファンになりました。

 さて、どのような映画だったのか?

 火曜日、ゴミ当番
 愛車は路線バス
 地味な男が
 派手に、キレる。

 映画の冒頭、顔中傷だらけにした男が暗い部屋の中で顔をしかめながらこちらを見ている。カメラを引くとシャツには血糊も付いている・・いや、この男、手錠を掛けられている。取調室なのだろうか。

 いったいこれから何が始まるのかと見ていると、内ポケットからおもむろに煙草を取り出して火をつける。

 さらに何かもう一つ取り出した・・缶詰だ。今度は缶切りを取り出して蓋を開け始める・・”ライトツナ・チャンク”だ。

 上着からもう一つ取り出す。何だこれは・・ネコだ!ネコがツナを食べ始める。

「あなた、いったい誰なの?」取調べ官の女性が問う。

「オレ?」

Mr.ノーバディ

(C)2021 Universal Pictures

 『Mr.ノーバディ』のタイトル・ロゴが被さる。いやーカッコいい!!

 何とも不思議な導入シーン。既にこの段階で魅入られています。

 ここからまた不思議なシーンが始まります。「月曜日」・・工場労働者らしい先ほどの男ハッチ・マンセル(ボブ・オデンカーク)の何げない一日が始まる。

「火曜日」は家のゴミ当番。しかし、清掃車の回収に間に合わない。と、そんな感じで冴えない中年男の冴えない一週間が順繰りに。

 こんな、どこにでもありそうな中年男の平凡な日常を打ち破る出来事が起こる。ある夜、拳銃を持った二人組の強盗が侵入して来たのだ。

家庭に強盗が侵入

 気配を察知したハッチはゴルフバッグからウッドクラブを取り出して身構えるが・・「大事にはしたくない。何でも持って行け」と。銃を構えているのは女か?

 突如、暗闇から息子がもう一人の男の方に飛び掛かる。振りむいた女の方にウッドを振り降ろそうとするが止め、息子に「もういい。好きにさせろ」と。

 結局、強盗達は僅かばかりの現金とハッチの時計と指輪を奪って逃走。一部始終を見ていた彼の妻は、勇敢な息子とヘデナシの夫を見て、いよいよ夫に愛想を尽かす。

 こんな、どこから見ても主人公らしからぬ主人公。だが、ある事をきっかけに豹変する。

 娘が大切にしていた飼い猫のブレスレットが見当たらないと言う。それは、あの夜に強盗が金を奪っていった籠の中にあったと言う。

 突然、超人的な推理力と行動力を発揮して、強盗夫婦のアパートを突き止め、殴り込む。「ブレスレットなど知らない」と命乞いをする夫婦に暴力で吐かせようとするハッチ。

 その時、隣の部屋で物音がする。「やめて!」の静止を聞かずドアを蹴り開けるハッチ。だが、そこに居たのは人工呼吸器に繋がれた赤ん坊・・。

「くそっ!」と言うと、もういいとばかりに部屋を去るハッチ。やり場のない怒りにビルの石壁を素手で殴り続け、拳から血が噴き出てもやめない。

Mr.ノーバディ

(C)2021 Universal Pictures

 主人公のキャラ変に驚きますが、実はこのハッチ、元FBI捜査官。しかもただの捜査官ではなく、組織の内偵専門の捜査官。殺しのライセンスもあるらしく、スパイや裏切り者を発見すると銃殺も厭わない、やり手の人物。

 そんな男が何故、マイホーム亭主になりきっているかと言うと、人生の最後くらい普通の生活を送ってみたいと引退を申し出、結婚し子をもうけて普通の市民生活を満喫していたのです。

普通のダメ親父

 押し入った強盗を懲らしめるのではなく好きにさせたのは、切羽詰まった強盗夫婦の様子から「何か事情を抱えているのではないか」と察知したことと、彼に向けられた銃口から、実は弾が入っていないということに瞬時に気付いたからでした。

 しかし、この強盗夫婦との一件は、思わぬ方向に事態を転がします。

 強盗夫婦のアパートから、いつもの通勤バスで家路に戻ろうとすると、そこに半グレのグループが乗り込んできて、落花狼藉を始めたのです。

 結果、ハッチは自分を抑えることができず、多数の半グレ相手にたった一人で立ち向かい、自分もボロボロになりながら全員ノシてしまう。

バス事件

 しかし、その半グレの中にロシア系マフィアのボス、ユリアン・クズネツォフ(アレクセイ・セレブリャコフ)の弟テディがいた。

 冷酷無比なユリアンは組織の総力を挙げてハッチの身元をあぶり出し、家族もろとも暗殺すべくヒットマン・チームを送り込む。その魔の手は、老人ホームで寝たきりであったハッチの父親デイビッド(クリストファー・ロイド)にも差し向けられる。

 さて、巨大マフィアに命を狙われたハッチの家族の運命や如何に!?

Mr.ノーバディ

(C)2021 Universal Pictures

 この映画の肝は、何と言っても冴えない中年男ハッチのキャラ設定ですね。元は敏腕捜査官だったかもしれないが、既に現場を離れて十数年、体力も衰えているし、国家という後ろ盾もない。

 まして、妻や家族には自分の素性を明らかにしておらず、ウザくてダサいダメ親父だと思われている。(実際、そうなってしまったのだが(笑))

 それが、ちょっとした義侠心(バス事件)を出した事から、抜き差しならない事態に追い込まれて、立ち向かわざるを得なくなる。

 このスーパーヒーローではない冴えないオヤジが頑張る姿がとても痛快。

 こういう設定、ブルース・ウィリスの第一作『ダイ・ハード』もそうでした。正義の味方と言うよりも”巻き込まれ”型の主人公。タフだけれど、そんなに強いわけではない。

 最近のコミックでは、朝基まさしのヒット作『マイホーム・ヒーロー』の主人公設定とも激似。

マイホーム・ヒーロー

 また、終盤で意外な味方が二人現れて、チームとなるのもいい。そもそも、いくら頑張ったって、たった一人でマシンガンを装備した巨大マフィアに対抗できるはずがない。

 その一人が異母弟のハリー(RZA)。彼は元傭兵で現在は情報屋・・多分そんな設定。ハッチの家族の前に姿を表すことはないが、陰からサポートしていて様々な情報を伝えて来る。そんな彼がハッチの絶体絶命の危機に応援に駆け付ける。

 さらにもう一人がサプライズ。なんと寝たきりの父親デイビッド(クリストファー・ロイド)も元FBI捜査官で、実はとんでもなく強い。

寝たきり生活は、個人的趣味(大笑)

 終盤で三人揃って銃を構える姿は、まるで『隠し砦の三悪人』。これは血沸き肉踊りますよ~

Mr.ノーバディ

(C)2021 Universal Pictures

 そしてハッチは、力はほどほどだが金はある。家族の前では薄給の工員だけれど、おそらくFBI当時に入手したのであろう金の延べ棒を何本も隠し持っている。

 その資金で、武器・弾薬、果ては決戦場となる工場を丸ごと買い取り、そこに様々なブービー・トラップを仕掛けて要塞化し、マフィアを迎え撃つ。

 まあ、このくらいの仕掛けが無いと、数十人のマフィア組織相手に立ち回るのは無理でしょうが。

 そうそう・・この『Mr.ノーバディ』に関しては、ミステリ&シネマ・パラダイスのPie造さんもこのようにレビューしています。

Jack Pie造 ミステリ&シネマ・パラダイス#981

『Mr.ノーバディ』(Nobody)
 2021年 アメリカ映画
 監督 イリヤ・ナイシュラー

 いいね〜👍
 冴えない男が…ってのは いつ見ても痛快だね。
 働くお父さんはカッコいいんだぜ🤣
 働くパパはちょっと違う〜🎵 働くパパは男だぜ〜👍

 ケビンコスナー似の主人公がいいね👍
 ウォルターヒル全盛期の映画を彷彿させる。
 続きがあるかな?

 ハードコアも観なきゃな。
 マイケルアイアンサイドの変わりようにびっくり。

 そうなんですよ・・まさに”痛快”。

 キャッチコピーの『ストレス社会に捧ぐ 痛快、ハードボイルド・アクション!』というのはダテじゃない!

Mr.ノーバディ

(C)2021 Universal Pictures

 映画のラストシーンは、冒頭の取調室に戻ります。

 ハッチが生きているという事は、つまりはロシアン・マフィアを三人で全滅させたという事。やむを得ず反撃したとはいえ、何十人も殺しているのだからお咎めがない筈がない。

 しかも、その反撃の仕方が常軌を逸している。

「あなた、いったい誰なの?」取調べ官の女性が問う。

「オレ? ・・何者でもない(Mr.ノーバディ)。」

「答えになってない」

 その時、二人の取調官の携帯電話が同時に鳴り響く。驚愕の表情を見せた二人は互いに顔を見合わせる。

「・・釈放だ」

 いいでしょう、このラストシーン!! スタイリッシュですね~

 いや~ 映画ってホントにいいもんですね!!

 

/// end of the “cinemaアラカルト303「Mr.ノーバディ」”///

 

(追伸)

岸波

 この映画にはラストシーンの後に二つのエピローグが挿入されています。

 その一つが三か月後、消失した自宅の代わりに新たな住宅を物色しているハッチ夫婦。気に入った物件が見つかり、最後に確認するハッチ・・「この家に地下室(パニックルーム)はあるか?」。

 あはははは! 用意周到というか、まだ誰かに狙われてるんですかね?

 そしてもう一つは、エンディング・クレジットが出ている最中に突然出て来ます。それは、車でどこか遠くへ向かう父親デイビッドと異母弟のハリー。

父「どうして飛行機で行かないんだ?」

弟「この荷物で?」

 後部座席を覗き込む父親。そこにはおびただしい量の武器・弾薬が詰め込まれている。

父「いいなぁ・・あっはっはっは!」

 いいでしょう、このエンディング。やっぱり続きがありそうかな?(笑)

 

 では、次回の“cinemaアラカルト2”で・・・See you again !

Mr.ノーバディ

(C)2021 Universal Pictures

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To be continued⇒  “cinemaアラカルト304” coming soon!

 

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