こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
敵は、外にも中にも---そして私の心にも。
ケイコと見てまいりました「エリザベス・ゴールデン・エイジ」。
いやぁ、こんなに切ない映画だとは思いませんでした。
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エリザベス1世
(ケイト・ブランシェット)
(C)2007
Universal Studios. All Rights Reserved. |
僕は、この手の映画を好んで見に行くことはないのですが、思いもせず素晴らしい映画に出会えたことを感謝しています。
というのも、今週は特に観たいと思う作品はなかったのですが・・・
ねぇアナタ、「エリザベス」を見に行きたいわ。
なんだいやぶから棒に。第一、もうパジャマになっちゃったし。
二人っきりだから、いつでも行けるねって言ってたでしょう?
アレって愛憎ドロドロの映画でしょ、暗いなぁ・・。
そーゆこと言うなら一人で行くわ。
あわわわわ・・分かった分かった。すぐに着替えるから。
あと10分で始まるのよ。今すぐ行かないと。
ええー!
ということで、取るものもとりあえず、ズボンのベルトを締めながら福島フォーラムへと急いだのでした。
この「エリザベス・ゴールデン・エイジ」は、1998年に公開された「エリザベス」の続編なのだそうです。
(知らなかった・・)
主演は、同じケイト・ブランシェット。スタッフ陣もほぼ同じメンバーです。
前作は、妾腹ゆえ私生児の烙印を押されたエリザベスが、種々の困難を乗り越えながら女王としての戴冠式を迎えるまでを描いたサスペンス。
ケイト・ブランシェットは、この映画でゴールデングローブ賞主演女優賞(ドラマ部門)を受賞するとともにアカデミー主演女優賞にもノミネートされ、一躍トップスターとなりました。
また、「アビエイター」のキャサリン・ヘプバーン役でアカデミー助演女優賞を受賞し、名女優としての地位を不動のものとしたのです。
(「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズでも“森の奥方”を好演していました。)
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ケイト・ブランシェット
(エリザベス・ゴールデン・エイジ)
(C)2007
Universal Studios. All Rights Reserved. |
さて、エリザベス1世の時代と言えば、スペイン王フェリペ2世・イザベラ王女の無敵艦隊が世界の海を制覇し、日本では織田信長が天下を取っていた頃。
イギリス国教会を奉じるエリザベスは、先王の正妻の血を継承するカトリック派のメアリー・スチュアートを幽閉したため、国内はテロリズムと陰謀が渦巻く一触即発の状態でした。
このイギリスの混乱に乗じて、無敵艦隊によるイギリス征服を狙っているのが“神の子”を自認するスペイン王フェリペ2世。
いやはや、この頃のイギリスというのは大変な状態だったようです。
そして、イギリスのもう一つの悩みの種は、女王が独身で後継者がいなかったこと。
重臣たちは、なんとか目にかなう婚約者を見つけ出そうとするのですが、女王はおべっかを使って近づく男たちになど目もくれない。
それはそうですよね。
そんな男たちに人間的魅力など感じるはずはありません。
ところがっ!
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女王に無視される男
(エリザベス・ゴールデン・エイジ)
(C)2007
Universal Studios. All Rights Reserved. |
そんな時に、宮廷にやってきたのが、新大陸に植民地を築くための資金援助を願い出てきた探検家のウォルター・ローリーです。
このローリー卿、実はスペイン商船を襲って金儲けをしている海賊で、やることは荒っぽいが物腰は柔らかいというナイスガイ。
そして、ウォルター・ローリーを演じたのは「クローサー」の色男クライヴ・オーウェン。
うん、はまり役です。
彼に興味を持った女王は、幾度と無く宮廷に呼び寄せ、夢のような彼の航海の話を聞いているうちに、次第に心惹かれていくのです。
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ウォルター・ローリー卿(右)
(クライブ・オーウェン)
(C)2007
Universal Studios. All Rights Reserved. |
そんな中、メアリー・スチュアートは女王暗殺の陰謀を企て、洗濯女に密書を託し仲間に暗殺指令を。
エリザベスが教会で礼拝している時、その事件は起きました。
警護の目をかいくぐって教会に乱入する二人のテロリスト。
一人は取り抑えられますが、もう一人が女王の背後に達し、銃の狙いを定める。
犯人は至近距離で、絶体絶命の状況です。
ところがエリザベスは、毅然と立ち上がり、銃を構える犯人に両手を広げて近づいて行くのです。
あれ・・?
この行動は、観ていても理解できませんでした。
暗殺されることを達観していたのか、それとも自らの罪を進んで償おうとしたのか?
いずれにしても、テロリストの銃は火を噴きます。
しかし、なぜかその銃は空砲・・・驚くテロリスト。
女王は事なきを得、犯人は捕らえられるのですが、いったい、何故?
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教会で祈る女王
(エリザベス・ゴールデン・エイジ)
(C)2007
Universal Studios. All Rights Reserved. |
さて、問題は首謀者であるメアリー・スチュアート。
彼女の密書が表沙汰になり、元老たちはその処刑を進言するのですが、エリザベスは頑として聞き入れようとしません。
そう・・・そもそもメアリーを幽閉したのはエリザベスの意思ではなく、元老や側近達の差し金であったことが分かります。
そして、血の繋がったメアリーの命を救おうとするエリザベスの意思に反して、処刑が断行されるのです。
半狂乱となるエリザベス。・・・ここのケイト・ブランシェットの演技は、真に迫って心を打ちます。
身も心もすたずたに引き裂かれたエリザベスは、か弱い一人の女としてローリー卿の救いを求めます。
彼に慰められ、もっとぬくもりを求めて「キスをして」と懇願する女王。
孤独な彼女には、心を許せる味方も本当に守ってくれる人間もいなかったのです。
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エリザベス1世
(エリザベス・ゴールデン・エイジ)
(C)2007
Universal Studios. All Rights Reserved. |
しかし・・・
ローリー卿が女王に近づいたのは、あくまでも植民地開拓の支援を求めるため。
彼自身は、既にエリザベスが最も信頼する侍女と恋仲になっていたのです。
このあたり、エリザベスがとても気の毒になります。
どうして、もっとマシな側近や重臣がいなかったのか・・。
確かにこの時期のイギリスでは、史実に残る名臣の名前は思い浮かびません。
(いたのかも知れませんが)
やがて、ローリー卿と侍女の関係は、妊娠によって表沙汰となり、激怒した女王はローリー卿を投獄し、妊娠した侍女を解任してしまうのです。
彼女が唯一心を許してきた二人の人間の裏切り(と彼女は感じた)により、とうとうエリザベスは本当の孤立無援となります。
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密通に気づいた女王
(エリザベス・ゴールデン・エイジ)
(C)2007
Universal Studios. All Rights Reserved. |
一方、メアリーの処刑を待ちわびていた人間がいました。スペインのフェリペ2世です。
メアリーの処刑をカトリック教に対する重大な挑戦と位置づけた彼は、無敵艦隊をイギリスに差し向け、エリザベスとイギリスそのものの抹殺を企てます。
実は、テロリストに空砲を持たせ、メアリーを処刑せざるを得ない状況を画策したのは、フェリペ2世その人だったのです。
エリザベスは進退窮まります。
・・・スペイン軍の圧倒的な海軍力を考えれば、どう見ても勝ち目はありません。
しかし女王は、逃げ腰の重臣達を前に、イギリスの名誉を守るための徹底抗戦を宣言します。
彼女の唯一の希望は、スペインから恐れられている海賊でもあったウォルター・ローリー。
ローリーを牢獄から解き放した女王は、彼にイギリス海軍の先鋒を命じたのでした・・。
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スペインの無敵艦隊
←当時、描かれた絵画。 |
こうして映画はクライマックスのアルマダ海戦に突入します。
史実では、イギリス海軍が見事にスペインの無敵艦隊を撃破し、イギリスにとっての黄金時代(ゴールデン・エイジ)を到来させています。
ローリー卿も実在の人物で、北米大陸への殖民に道を拓き、その地をバージン・クイーンと呼ばれたエリザベス1世にちなんで「バージニア」と名付けました。
ただし、実際にアルマダ海戦でイギリス海軍を指揮したのは、ローリーではなく、やはり海賊上がりのドレイク船長でした。
この海戦で戦力に劣るイギリス海軍が勝利できたのは、ちょうどこの時に襲来した嵐のためにスペイン船が沈没したためなのです。
まるで英国版“カミカゼ”ですね。
もともと「無敵艦隊」という言葉は、この海戦で壊滅したスペイン海軍を皮肉ってイギリス海軍が名付けたものだそうです。
スペイン海軍は、波の穏やかな地中海では負け知らずだったのですが、波の荒い大西洋では安全性に問題のある船の構造だったのです。
そこに無理やり長距離砲を付け足したのですからたまりません。
いよいよもって弾は当たらないわ、転覆しやすいわ、さらには嵐にも襲われるわで、散々な目にあったようです。
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檄を飛ばす女王
(エリザベス・ゴールデン・エイジ)
(C)2007
Universal Studios. All Rights Reserved. |
最後に、僕がこの映画で一番ジーンと来たシーンについてですが・・・
スペインの大艦隊が水平線を覆うように現れた時、重臣たちは負け戦を覚悟して、女王を逃がそうとします。しかし、女王の姿がどこにも見当たりません。
実は、彼女は白銀の鎧を身につけ、単騎白馬に乗って、防衛線の最前線に向かっていたのです。
そこで、自分はこの最前線から一歩も引かないこと、祖国の名誉と栄光のために自分の命を投げ出す覚悟であることを告げて、兵士達の士気を高めたのです。
まさに名君、まるで上杉謙信のようです。
心の苦悩を乗り越え、自らの愛を捨て、国家のために一生を捧げることを決意した、まぎれもない一人の女の姿をそこに見たような気がしました。
/// end of the “cinemaアラカルト55「エリザベス・ゴールデン・エイジ」”///
(追伸)
岸波
どんな権力を手にしていても、それで人生が幸せになるとは限りません。
お金も無いよりはあったほうがいいですが、それだけで幸福にはなれないでしょう。
何といっても、権力もお金も「失いたくない」という脅迫観念に囚われ続けますし、もしも無くしたらそれこそ“只の人”。
周りの人間がみんな去っていくかもしれません。
この映画で描かれるエリザベスは権力の人、孤高の人。そして苦悩の人。
絶対的な権力を持ちながら、意に反する断罪もしなくてはならないし、ましてや彼女に初めて芽生えた恋心は実らず、最も残酷な形でその結末を迎えます。
しかし・・・
ラストシーンで、彼女の心が救われるのです。
どんなラストが待っているのか?
それはナイショです。
では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See
you again !
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「エリザベス」
(第一作のポスター:一部) |
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