こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
“最初の任務は、自分の愛を殺すこと。”
昨年末、新ジェイムズ・ボンド、ダニエル・クレイグを主演に据えた「007/カジノ・ロワイヤル」が劇場公開されたので、ケイコと二人で観てまいりました。
今回で21作目となるこのシリーズは、僕にとって格別な思い入れがあるシリーズです。
少年時代、007映画という素晴しいエンターテインメントに初めて出会い、そのスタイリッシュな生き方に憧れるとともに洗練されたユーモア、決してくじけない精神など、“男としての生き方”に大きな影響を受けたからです。
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007/カジノロワイヤル
(C)
2006 Sony Pictures Entertainment,(J) Inc. All Rights Reserved.
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それだけ大きな影響を受けてきた007シリーズだけに、今回映画館に足を運ぶに当たっては大きな不安がありました。
何故なら、007は既に映画として完成されたパターンを持っているので、いくら派手な演出をしようとも「新しいジェイムズ・ボンド」など創れるはずがない・・・いや、「創って欲しくない」と思っていたからです。
ところがっ・・!
見終わるや否や「これこそジェイムズ・ボンドだ」と思うくらいに、いい意味で、大きく期待を裏切ってくれました。
まず、最初はちょっとした007豆知識から・・・。
1 007がブレイクした意外な理由
007映画の第1作「ドクター・ノオ」(邦題「007は殺しの番号」)がショーン・コネリーの主演で公開されたのが1962年。
原作者のイアン・フレミングは、実際に英国情報部特別作戦部(SOE)にスパイとして勤務したことがあり、その経験を活かして、1953年に小説007の第1作「カジノ・ロワイヤル」を発表しました。
しかし、それなりの評価を得ながらも小説の売れ行きはかんばしくなく、幾度もシリーズを終わらせようと考えたそうです。
そんな「007」が俄然注目を浴びるようになったのは、フレミングとも交流のあったケネディ大統領が「ロシアより愛を込めて」を愛読していると話したからで、話題を呼んだ007はトントン拍子に映画化に漕ぎ付けたのです。
←(実際の愛読者はジャクリーン夫人だったようです。あはは!)
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ジェイムズ・ボンド
(ダニエル・クレイグ)
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2 007のキマリごと
ショーン・コネリーの後、ジョージ・レーゼンビー(「女王陛下の007」)、ロジャー・ムーア(「ダイヤモンドは永遠に」ほか)、ティモシー・ダルトン(「リビング・デイライツ」)、ピアース・ブロスナン(「ゴールデン・アイ」ほか)と、5人の俳優がボンドを演じ、ほぼ半世紀にわたって20本が制作されてきました。
これだけ歴史と伝統のある映画007ですから、いろいろな“キマリごと”があります。
いくつかの例外もありますが、オープニングの女性の身体をモチーフにしたタイトル・バック、当代一流歌手によるテーマ・ソング、有名なジェイムズ・ボンドのテーマに乗って、ボンドを狙う銃口から逆にボンドが撃ち返して血が流れるシーン(通称「ガンバレル・シークエンス」と言うそうです。)などは定番です。
また、世界を又にかけたロケーション、お洒落でグラマラスなボンド・ガールたち、ワインとギャンブル、ハイテクな小道具、愛車アストン・マーチン、上司M、そして美女にモテモテのキャラクターまでしっかりと定型化されているわけです。
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愛車アストン・マーチン
(in
カジノ・ロワイヤル)
(C) 2006
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まさに、ソコが問題なのです!
番組終了5分前に「印籠」を出す水戸黄門、あるいは、よれよれにならないとスペシウム光線を発射しないウルトラマンのように、“予定調和”のマンネリ・ストーリーでなければ観客が納得しないのです。
これでは、新たな俳優がどんな名演技をしようが、型を打ち破ることは不可能・・・。
ところがっ!!
映画を見て、「なるほど、こういう手があったか」と感心いたしました。
「カジノ・ロワイヤル」は、正真正銘の第一作。
若きジェイムズ・ボンドが“007”になっていく物語なのです。
すなわち、多少のミスもすれば本気の恋もするという“我々がまだ知らないジェイムズ・ボンド”を見せることが可能なのです。
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本気の恋
(ボンドとヴェスパー)
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3 世界平和を賭けたポーカー
英国の諜報機関MI6に所属する若きジェイムズ・ボンドは、必要なら自分の判断で敵を殺してもいいという“殺しのライセンス”を持つ00X(ダブルオー)ナンバーへの昇格を目前にしていました。
その課題を見事にクリアしたボンドに与えられた007としての最初の任務は、世界のテロリストたちの資金源となっている“謎の男”を突き止めること。
“謎の男”から雇われた爆弾男を追跡し、マダガスカルのフランス大使館に逃げ込んだところを躊躇せずに射殺。
さすがにこの行動はマスコミの総攻撃を受けるところとなり、上司M(ジュディ・デンチ)は「ボンドはイカレてるの? 昇格させるのが早すぎたようね」とオカンムリです。
しかしボンドはおくびにも留めず、爆弾男の携帯メールから指令元を割り出して“謎の男”が死の商人ル・シッフルだと突き止めます。
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死の商人ル・シッフル
(マッツ・ミケルセン)
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このル・シッフル、テロリストを雇って事件を起こし、暴落する株の売買で大儲けしてはモンテネグロのカジノ・ロワイヤルの賭博でさらに儲けるという悪い奴。
そこで、ボンドへの次なる指令が、テロの失敗で大損したル・シッフルをさらに追い込むためにカジノ・ロワイヤルで破産させること。
うむぅ・・この辺のストーリーは突っ込みたくなるところですが、ともあれ、博才を見込まれてボンドに託された資金は国家予算の1500万ドル!
←(賭けに負ければ、国家予算がテロ資金に! オイオイ・・。)
4 忘れられないワン・シーン
賭博のお目付け役として派遣されて来たのが、財務省女性官僚のべェスパー・リンド(エヴァ・グリーン)です。
このヴェスパーは、登場してすぐヒロインと分るくらいの美女でして、ボンド相手に一歩もひるまない気位の高い才媛なのです。
彼女を疎ましく思うボンドは機先を制しようと、初対面である彼女の装いや言葉使いなどから私生活をプロファイリングして言い当てます。
ところがヴェスパーも負けじとプロファイリング仕返し、「あなたは女性を真剣に愛せない人だわ」とまで言われてしまいます。
このあたりの丁々発止、これまでのお色気ボンドガールには居なかったタイプですね。
はっきり言って“鼻持ちならないタイプ”・・・でもこれは伏線なのです。
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財務官僚ヴェスパー・リンド
(エヴァ・グリーン)
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さっそく二人は、テロリストから命を狙われるハメになるのですが、目の前で流血して死んでゆく人間たちを見て、ヴェスパーは大きなショックを受けます。
ただならぬ様子を心配したボンドが、夜、彼女の部屋を訪れると、ヴェスパーは服を着たま茫然自失として冷たいシャワーの下でかがみこんでいました。
昼間は強がっていた彼女も、本当はか弱い女性・・・人間の命がいとも簡単に失われて行くショックな現実に直面して、子供のように泣きじゃくるしかなかったのです。
人間の命が重い・・・こんなシーンは、これまでの007にはあり得ません。
そして、それを見たボンドはどうしたか・・・?
彼もまた背広のままシャワーに身を晒し、まるで小さな子供をいたわるように、彼女の肩を黙って抱きしめてあげるのです。
シリアスです。簡単にエッチなんかしないんです。
非現実的なモテモテスパイではなく、人間ジェイムズ・ボンドが誕生したワン・シーンだと思います。
むしろ、コッチの方がかっこいい! ハートわしづかみです。
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あたりをうかがうボンド
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5 自分の愛を殺す事
途中いろいろありまして、結局ボンドは、ポーカーでル・シッフルを破産に追い込むことができるのですが、案の定、暴力で取り返そうと、今度はヴェスパーが拉致されてしまいます。
車で追跡するボンド・・・お馴染みカーチェイスがあった後、ル・シッフルは思いもかけない手段に出ます。
卑劣なル・シッフルは、カーブを曲がった路面にヴェスパーを投げ出したのです。
慌ててハンドルを切るボンド、転倒するアストン・マーチン、瀕死のボンドはそのまま捉われの身に。
敵のアジトでは、とても子供には見せられない残酷な拷問シーンが待っていました。
絶体絶命のボンド!
ボンドは007になれるのか? 果たしてヴェスパーを救えるのか?
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ボンドとヴェスパー
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本作で最大の試練・・・ここをクリアすれば、これまでの007はハッピー・エンドでした。
ところがっ!
そこから先に、本当の試練が待ち構えているのです。
(さすがに、この部分のネタバレは書くことができません。)
うむぅ・・・映画3本分を見たようなすごい充実感のある作品でした。
既に世間の風評でも「歴代ナンバーワン」の呼び声が高いダニエル・ボンドの「カジノ・ロワイヤル」。
人間ジェイムズ・ボンドの悲しくも切ない物語・・・あなたもきっと魅了されるでしょう。
/// end of the “cinemaアラカルト36「007/カジノ・ロワイヤル」///
(追伸)
岸波
「カジノ・ロワイヤル」がリメイクだってことはご存知でしたでしょうか?
1967年、「007は二度死ぬ」が映画化された年に、ジョン・ヒューストンら5人の監督によってもう1本の007映画「カジノ・ロワイヤル」も公開されたのです。
本来のシリーズの方は、アルバート・R・ブロッコリが設立したイオン・プロダクションが制作に当たっていますが、小説版のシリーズ第1作「カジノ・ロワイヤル」だけは権利を押さえることができなかったのです。
そこで、制作権を持ったコロムビアが独自に映画化したのですが、デヴィッド・ニーヴン、ピーター・セラーズら実力派の名優がそれぞれに007を名乗って何人も出てくるという奇想天外な映画でした。
当時、悪ふざけと意味不明なストーリーのハチャメチャ映画という感想を持っていましたが、現在では、1960年代のポップ・カルチャーの影響を残すユニークな映画としてカルト的評価を受けているといいますから世の中は分りません。
←(オーマイガー!!)
では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See
you again !
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オメガ/007モデル
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