こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
真実は
人の数だけあるんですよ
でも、今回取り上げますのは、映画ではありません。
フジテレビでドラマ化され、現在ヒット街道ばく進中の菅田将暉主演『ミステリと言う勿れ』でございます。
原作はコミックで、作者は和歌山県出身の漫画家田村由美。
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ミステリと言う勿れ
(C)田村由美/小学館(C)フジテレビジョン
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コトの始まりは、昨年Kindleで第1~3巻が無料配信された時。
「ヘンな絵だな」と思いながらも無料の誘惑に負けてダウンロードし、読み始めたのが運の尽き。
その圧倒的な没入感に4巻以降を有料購入して、たしか一夜のうちに最新刊まで読破した記憶が。
それがTVドラマ化されると聞き、「コレは絶対見なくちゃね」と言ったのは、なんとケイコ!
原作を知るはずもなく、ご贔屓の菅田クン主演だからでしょうが、とにもかくにもドラマのスタート以降、”現在最も面白いTVドラマ”ということで、月曜夜はTVに張り付きっぱなしであります。
ということで、さっそくどのへんがステキなのかです。
ここで発生するすべての問題は
あなたのせいで起こるんです。
主人公であり物語の探偵役は大学二年生の久能整(ととのう)クン。
”ととのう”という名前もヘンだが、それ以上にヘンなのが彼のボリューミーな天然パーマの髪型。
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ミステリと言う勿れ
(C)田村由美/小学館(C)フジテレビジョン
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友達も居なければ彼女も居ず、週末にはカレーを造り普段はサッポロ一番塩ラーメンが好みという今どきありがちな青年。
ただ、ありがちでないのはその緻密な観察力と推理力。
例えば、第5話で病院の掲示板にあった貼り紙に誤字を見つけ、あまりにもアチコチ間違っているのが気になってしょうがない。
久能整(菅田将暉)
「何でこんな字を間違えるんだ?」と、その先の理由を考える・・って、そんな事、フツーするか?
そして、間違っている文字を繋げると、あるメッセージが浮かび上がり、それに導かれて、とある「現場」に到着。~とまあ、こんな風に物語がスタートする。
序盤のエピソードの一つに、(TVの)第4話「雨に濡れた記憶喪失の男」というのがある。
整クンが雨の河川敷で出会った男は、話をしてみると事故に遭って記憶喪失になっている事に気付くが、実はこの男は連続爆破テロ事件の犯人。
二人は協力して爆弾を仕掛けた場所を特定しようとする・・というのだが、実によく考えられたストーリー。非常に面白い。
その犯人三船三千夫役を演じている柄本佑がピタリはまり役。
爆弾魔三船三千夫(柄本佑)
また、原作ではほとんどセリフが無い大隣警察署の新人女性刑事風呂光(ふろみつ)聖子(伊藤沙莉)が、ドラマでは事件と整クンを繋ぐ重要な役割に改変されており、しかも整クンに密かな恋心まで抱いているヒロイン役で登場。
風呂光聖子(伊藤沙莉)
その風呂光刑事に原作でのセリフを奪われて(笑)いるのが、同じ大隣署の池本優人(尾上松也)。
おチャラケキャラのムードメーカーとなっているが、彼は非常に好きな俳優さん。思わず応援してしまう。台詞は少ないけれど(笑)
池本優人(尾上松也)
他にも犯人役などで多数の名優が登場しており、ドラマに深みを与えている。
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ミステリと言う勿れ
(C)田村由美/小学館(C)フジテレビジョン
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一方、原作ではワトソン役となっている謎の少女ライカ(門脇麦)。本来は彼女がヒロインで、ドラマでは数話に登場してリタイアするのだが、『ミステリと言う勿れ』の物語の骨格を作っている重要なキャラクター。
ライカは、整(ととのう)クンが訳あって入院している病院の入院患者のようだが、毎日、看護の目を盗んでは抜け出しているらしく、整クンの前にもふいに現れる。
謎の少女ライカ(門脇麦)
特徴的なのは、何かの謎を発見すると「4-11-1・2」「26-2-29・30」…というように数字を口ずさみ始める。
実はコレ、ある事件で整クンが入手したマルクス・アウレリウスの『自省録』になぞらえた暗号。
ライカ自身は同じ版の『自省録』を完全暗記しており、特定の相手にだけメッセージを送りたい時に、何ページ何行目の何文字目という形で「言葉」を伝えているのだ。
マルクス・アウレリウスの『自省録』
彼女の現れ方も消え方も尋常ではなく、実在の人物なのか、生霊なのか、妄想なのか判然としない。
実際、この『ミステリと言う勿れ』には、幽霊を相手に謎解きをしたり、犯人が(一緒に居ると)妄想している人物がキャラクターとして登場するため、レイカの正体も謎めいている。
ライカが特に活躍するのが原作の第5巻(ドラマの第6話と7話)の『天使の連続放火事件』で、家庭内虐待が扱われる陰惨な事件。
岡山天音と早乙女太一(天使)
真犯人は幼児期に壮絶な虐待やいじめに遭っており、自分と同じような境遇の子供たちを救うため、壁にあるサイン(火の落書き)をすればいじめてる奴らを焼き殺してあげると申し出る。・・そう、両親を殺す判断を当の子供に委ねているのだ。
二人の活躍で「天使」の模倣犯だった真犯人が捕えられることになるが、その中でライカと「天使」の関わりが暗示されることになる。
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ミステリと言う勿れ
(C)田村由美/小学館(C)フジテレビジョン
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今週(3/14)放映された第10話では、ライカとの別れのエピソードが登場。
年が明け、「病院にある足湯に漬かりながら「正月の過ごし方」という話題になる整クンとライカ。
元旦の午前3時、お互い初めての初詣に出かけ、お御籤引きをしたり、タコ焼きを食べたり楽しむ二人だったが、そこでも事件に巻き込まれる。
整とライカ
そして事件の解決後、レイカは自分自身のヒミツを整クンに打ち明ける。
このくだりは、コミックでは、もっと後に訪れるエピソードですが。
彼女が”妹”と称していた入院患者千夜子(ちやこ)は解離性同一性障害。以前は多重人格と言われた病気。
ライカは、千夜子が幼少期に親から与えられた凄惨な痛みや苦しみから逃避するために生み出された別人格だったのだ。
「わたしは、千夜子の痛みを引き受けるためだけに生まれてきた」
この台詞の何と痛ましいことか。
ライカという(自分でつけた)名前についても・・
「あの乱暴な父親が唯一大切にしていたのが自分のカメラ(ライカ)だった。わたしは、あのカメラになりたかったのかもしれない」
重い台詞だ・・。
少女ライカ(門脇麦)
そして、ライカが病院を抜け出して歩き回っていたのは、千夜子が全快した時のために備えたものだった。
「千夜子は自分が歩けないと思い込んでいるので、わたしはせっせと足を鍛えてやっている」
少女ライカ(門脇麦)
整クンは、衝撃を受けながらも一つ質問をする。
「そんなライカさんが望むことは何ですか?」
「千夜子が元気になって戻ってくること。その時にわたしはこの世から消える」
ここです。胸にグサッと刺さったのは。
そして、その時期はもうすぐ。桜の咲くころには千夜子が全快すると医者から告げられていた。
多重人格の方に恋をする・・こんな物語が今まであったろうか。胸アツ・・泣きそうだ。
少女ライカ(門脇麦)
「わたしは千夜子を知っているが、千夜子はわたしを知らない。だから、千夜子に遭っても話しかけないでほしい」
いやコレ、号泣!!
事実、千夜子の退院の日がやって来て、物陰から姿を見ている整クン。約束通り話しかける事はせず、万感の想いで背中を見送る・・。
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ミステリと言う勿れ
(C)田村由美/小学館(C)フジテレビジョン
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実は、整クン自身も同様な境遇であったことが暗示されており、この『ミステリと言う勿れ』では、全編を通して家庭内暴力が大きなテーマの一つになっている。
整クンは、首筋から胸にかけて大きな火傷のような傷がある。
近年、痛ましい虐待事件が続発して報じられているが、言葉を失ったのは5歳の少女結愛(ゆあ)ちゃんを虐待死させた目黒虐待死事件。
多くの虐待事件がそうであるように、彼女もまた「生まれて来てごめんなさい」と土下座させられ、それでも許されず、遂には命を奪われる。
あの陰惨な事件を思い浮かべずには居られない。
整とライカ
そんな子供たちの苦しみをリアルに訴えているのがこの『ミステリと言う勿れ』という物語なのだが、さらに気付いたことがある。
この構図・・圧倒的な強者が弱者をいたぶる姿は、まるでロシアのウクライナ侵略と同じではないか。
彼らは降参して両手を上げる民間人を射殺し、産科病院や民間人の避難所になっている劇場にまでミサイルを撃ち込む。
ロシア軍の産院攻撃
果ては、人道回廊と称する他国への避難経路にさえ地雷を埋め込んだ。この極悪非道・・考えてみれば家庭内の虐待と同じ事ではないかと思う。
そのウクライナに対して「ゼレンスキー政権は早く降参すればいいのに」とのたまう朝のTVの有名解説者まで居る。
非常に無責任な発言に感じます。
置き換えてみれば分かる。「生まれて来てごめんなさい」と土下座しても、結局は粛清され、ウクライナ国民には隷従の未来しか残っていないだろう。
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ミステリと言う勿れ
(C)田村由美/小学館(C)フジテレビジョン
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と、まあ、いろいろと話は脱線するのですが、この『ミステリと言う勿れ』というタイトルはどう解釈すればいいのか?
机上で作られたミステリならば、謎解きの爽快さで読者は報われるのでしょうが、この作品では多くの社会問題、現実にあった事件の背景を取り入れており、読後感は軽くはない。
テーマが「人間の物語」であることを表現したかったのではないか。
そういう重いテーマを扱いながらも、整クンのキャラクターなどによって、「救い」のある物語になっている。だから「イヤミス」ではない。
う~ん・・当たっているかどうか分かりませんが(笑)
/// end of the “cinemaアラカルト296「ミステリと言う勿れ」”///
(追伸)
岸波
この『ミステリと言う勿れ』は、主人公整クンのキャラクターを初めとして非常にユニーク。
今まで全く見たことが無いミステリだと感じます。
そして、『自省録』をはじめ、各所にちりばめられた歴史上の名言。作者の田村由美さんは、どれだけの本を読んできたのかと感心させられます。
TVでは、あと何話制作されているのか分かりませんが、原作は大好評連載中です。今回のクールが終わっても、きっとセカンドシリーズもある事でしょう。
う~ん、楽しみだ!!
では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See you again !
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