こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
[愛]を知った
人工知能が暴走する
Amazonプライムで2020年のイギリスSF映画『アーカイブ』を鑑賞しました。
2020年と言えば、つい一昨年の事・・こんな映画があったっけと、しばし記憶を辿りましたが、全く思い当たらない。
しかあしっ!!
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アーカイブ
(C)Archive Films Limited 2020
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それもそのはず、この作品はアメリカで一部劇場で限定公開されただけでネット配信された映画だったのです。
当のイギリスでも劇場公開されていない。
日本ではヒューマントラストシネマ渋谷が2012年から企画興行している、様々な理由で劇場公開が見送られた作品を上映する「未体験ゾーンの映画たち」映画祭で2021年版の一本として公開。
でもコレ・・Amazonでのレビュー評価が(SFにしては珍しく)3.5と中々の高評価。思わずポチってしまいました。(無料ですけど:笑)
そして見終わった後、深い感動と様々な思いが湧き上がった作品となりました。
ということで、さっそくレビューです。
人間がAIに生まれ変わったとき、
衝撃の展開が待ち受ける
全く新しいSFスリラーの誕生!
映画の冒頭、一人の男が雪と氷で凍てついた山を走っている。
交互に映し出される研究所のような施設。ふと・・その機器に見慣れた日本語の文字で「スヌーズ」と。
ん! もしかして日本が舞台!?
少し慌てて上映を中断し、もう一度、作品紹介を見直す。やはり「外国映画」とあり、監督も出演者も外人だ。どうやら舞台設定だけが日本のどこからしい。
気を取り直してもう一度上映に戻ると、今度は研究所のコンピュータに「ARMアームロボット工学 山梨県」の文字、画面には「平和」のシグナル文字。
この場所は山梨県のどこか山奥のようだ・・山の植生が違うような気もするが。
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アーカイブ
(C)Archive Films Limited 2020
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彼はARM社に雇われた研究者ジョージ・アルモア(テオ・ジェームズ)で、この山梨県の極秘の研究所にただ一人で、高度なアンドロイドの制作を目指しているのだ。
研究所に戻った男は人間型アンドロイドのJ2と会話しながら作業に取り掛かる。
「昨日、またあの夢を見た」とJ2。
「前と同じ夢?」
「ドライブしてた・・アナタと」
・・と、待てよ。これはどういうことだ?
どうやらJ2はただのアンドロイドではなく、誰かの意識をAIに移植したロボットなのではないか?
J2とジョージ
そうこうするうち通信が入る。通話の相手は彼の妻らしい。画面に登場した彼女は言う。
「ずっと家に居るの?仕事漬けなのね」
「・・それが俺だ」
「そっちで幸せになって」
「ああ、ここは美しい」
彼女は妻のジュールス(ステイシー・マーティン)。不思議なことにJ2と同じような声の気がする。
これは・・ もしや・・・!?
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アーカイブ
(C)Archive Films Limited 2020
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この映画はSFスリラー映画とされています。でも、僕に言わせれば「シチュエーション・サスペンス映画」ではないかと思います。
状況について説明がほとんどされないので、いったい主人公のジョージに何が起きているか分かりません。
その謎が、ジョージとJ2、そして通話画面の妻ジュールスとの会話によって、少しずつ明らかになって来る。
登場するロボットは三体で、手も無くほとんどモノ言わぬ大型アンドロイドのJ1、その改良型で見掛けはロボットだが人間の意識を持ったJ2、そして、ジョージがJ2に”お姉さん”と言っている完全人間型のJ3(制作中)。
制作中のJ3
やがて明らかにされる真実は、彼の身重の妻ジュールスはジョージが運転する車の事故で既に亡くなっており、その人格と記憶を格納したコンピュータ・システム「アーカイブ」を通して”期間限定”で会話が可能になっている。
彼を雇っているARM社は高度なAIを装備して見た目も人間と同等な商業用アンドロイドの制作を期待して山梨の研究施設を与えたが、ジョージは秘密裏に「アーカイブ」から生前の妻の意識を違法ダウンロードし、ジュールスをアンドロイドとして再生しようとしているらしい。
J2
しかし「アーカイブ」の情報漏洩が露見して運営会社の査察が入り、ARMの上司にも彼の勝手な行動が露見してしまう。
ARM社は「アーカイブ」運営会社から告発される前に、ジョージのアンドロイド達を破壊して事をうやむやにしようと、作戦チームを急行させる。
さて、ジョージはアンドロイド達を守り切れるのか? はたまた完全消滅間近のジュールスの意識の運命や如何に!?
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アーカイブ
(C)Archive Films Limited 2020
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主演のテオ・ジェームズはイギリス・オックスフォード出身で37歳の気鋭。
これまで吸血鬼映画の『アンダーワールド 覚醒』やディストピア映画の『ダイバージェント』シリーズに出演したほか、2019年の『Mr.&Ms.スティーラー』では制作総指揮を務め、今回の『アーカイブ』では主演のほか制作も兼ねています。
テオ・ジェームズ
僕がこの映画について、まず苦言を呈したいのは『[愛]を知った 人工知能が暴走する』という日本版キャッチコピー。
確かに、AI(人工知能)モノと言えば”暴走”が付きもの。大沢たかお主演の『AI暴走』もそうでしたし、有名どころでは『ターミネーター』シリーズがあります。
おそらくAIの暴走を描いた小説やドラマは星の数ほど作られてきたでありましょう。
しかあしっ!!
最終形J3
この『アーカイブ』のアンドロイド達は暴走なんかしません。するのは人間たちの方。
きっと多くの観客をミスリードしたのではないかと思いますし、AIと人間のバトルを期待した人たちは拍子抜けでしょう。
終盤のARM社の作戦部隊とジョージらのバトルも映画の核心ではありません。そもそもバトルは起こらないのですから。(ここ、少しヒ・ミ・ツ:笑)
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アーカイブ
(C)Archive Films Limited 2020
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映画批評集積サイトののRotten Tomatoesには32件のレビューが寄せられ、批評家支持率は78%の高い評価が与えられています。(Wikipedia)
ならば彼らは、どういう点を評価しているのか?・・実はこの『アーカイブ』は”愛の物語”なのです。
J1、J2、そして完全体のJ3も、AIの意識は亡くなった妻ジュールスの記憶を試験的に移植したプロトタイプです。
ほとんど物言わぬ試作品J1
でも、彼らは捨て去られる運命にあります。何故ならば、ジョージの目的はジュールスの命をアンドロイドAIに再生すること。
試験的に生み出された意識は、最終的に”上書き”されなければなりません。そして、その事にアンドロイドJ3も気づくのです。
J1とJ2は別の意味で捨て去られる運命ですが。⇒(試作品の不要廃棄)
ところが、部分的とはいえジュールスの意識を移植されたアンドロイド達は、それぞれにジョージを愛しているのです。(当然ですね。)
初号機J1はジュールスの意識の再生率が人間で言えば2~3歳レベル、J2は16歳、J3は実際のジュールスにかなり近い意識になっています。
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アーカイブ
(C)Archive Films Limited 2020
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途中、見ていて胸が苦しくなったのがJ2の振舞い。彼女はある日、自分の脚が別な物に付け替えられている事に気づきます。
「私の脚はどうしたの?お姉さんにあげたの?・・私の脚を返して!」
そう・・彼女は嫉妬していたのです。
次第に完成に近づいてくる最終形J3。ジョージはもっぱらJ3と語らうようになり、J2は相手にされなくなって行きます。
一番、感情移入してしまうのはこのJ2。切なさや葛藤がモノ言わぬ動きに現れて来る・・。
たたずむJ2
今、別項で『恋愛カルタ-48の恋物語-Another Story』を編集中のせいでしょうか、恋愛している女性たちの切ない苦しみ、魂の叫びが心に刺さるのです。
やがてJ2は、もう自分がジョージに必要とされていない事を理解し、湖の中に我が身を沈めて”自殺”してしまいます。(オーマイガー!)
同様なテーマを持った作品に漫画家業田良家による『機械仕掛けの愛』がありました。
業田良家『機械仕掛けの愛』
その話に登場するのは、人間以上に人間的な心を持ったAIたち・・持ち主に飽きられたペットロボの女の子、主人から思い出を託されたロボット執事・・ロボットであるが故に純粋なものたち。
そう・・映画『アーカイブ』で味わうべきは、その純粋な”愛の姿”だと思うのです。
『恋愛カルタ-48の恋物語-』
『恋愛カルタ-48の恋物語-Another Story』流に言えば、こうなります。
切なさ満載。泣いてください!癒されてください!
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アーカイブ
(C)Archive Films Limited 2020
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さて映画の方ですが、軍用ヘリに乗ったARM社の作戦部隊が研究所を急襲する中、ジョージは消えようとしている「アーカイブ」のデータから、J3に最終的なジュールスの意識の上書きをしようとします。
J3は泣きながら(そう見える)ジョージに抵抗。しかし最終的には、自分の運命を受け入れて「アーカイブ」に接続。
インストールが完了したところで、ふいに「アーカイブ」から通信が入る。
いったい誰が・・!?
映画のラストシーンは驚愕のどんでん返しで、貴方の心を更に締め付けるエンディングが待っています。
Amazonプライム会員の方は是非。今なら「無料」です。
/// end of the “cinemaアラカルト294「アーカイブ」”///
(追伸)
岸波
ここは、ラストの大どんでん返しのネタバレを書きます。
この作品は、せっかくの無料(Amazonプライムの場合)映画なので、是非、見ていただいた方がいいと思います。
なので、本編を見る予定の無い方、事情によって見ることが出来ない方だけのために書いておきます。
「お願い、その電話に出ないで!」
J3の言葉を遮り、黙って受話器を取るジョージ・・。
「アーカイブ」からの最終通信に現れたのは、やはり奥さんのジュールスです。
ここでジョージは大いに驚愕します。
何故ならば、「アーカイブ」からのダウンロードによってジュールスの人格はJ3に移行されており、元データは空になった筈。(そういう設定)
しかも、新たに目覚めたJ3と会話し、完全にジュールスの人格が移ったことも確認したばかりだったからです。
と、いうことは・・「上書き」は失敗し、J3は芝居をしていたのか?
J3
電話の向こうのジュールスは泣きながら告げる・・もう契約期間が終わるので最後の通話になること、本当にジョージの事を愛していること、そして・・
「最後にこれだけは聞いて欲しいの」
そして、ある人物に電話を代わります。
【ココからが本当の大ネタバレです。覚悟はいいですか!?】
「パパ、もうパパには会いに来れないってママに言われたの・・」
そうです、出産前にジュールスのお腹の中でジュールスと共に死んだはずの愛娘です。
もうこれ以上言わなくても、真実の状況がお分かりですね・・「アーカイブ」に入っていたのは彼の方だったのです。
では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See you again !
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アーカイブ
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