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「AUTUMN」(Music Material)
by 岸波(葉羽)【配信2022.1.8】
 

◆この記事は作品のストーリーについて触れています。作品を実際に楽しむ前にストーリーを知りたくない方は閲覧をお控えください。

 こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。

 深山、
 ついに敗れるーーー!?

 TBSの人気TVドラマシリーズの映画化版『99.9 刑事専門弁護士 THE MOVIE』が上映されたので、ケイコととともに観てまいりました。

 というのも公開日前日のTVドラマ『完全新作SP 新たな出会い篇~映画公開前夜祭~』を見てハマったので、居ても立ってもいられなくなったのです。

 そう・・僕はこのTVドラマを見たことがなかったのですよ(笑)

99.9 刑事専門弁護士 THE MOVIE

(C)2021「99.9 THE MOVIE」製作委員会

 TVシリーズのシーズン1は2016年に、シーズン2は2018年にオンエアされ、その続編が先日放映された「~映画公開前夜祭~」編。

 そして、そこで登場した強敵の弁護士、南雲恭平(西島秀俊)が引き続き敵対する立場で登場するのが今回の『THE MOVIE』。

 キャッチコピーも「深山、 ついに敗れるーーー!?」と穏やかでない本作品、本当に深山たちは敗れてしまうのか?

 ということで、早速、その内容です。

 映画の冒頭、新ヒロインとして登場した河野穂乃果(杉咲花)が、本編に繋がる「前夜祭」のストーリーを含めて、設定の背景を説明する親切設計。

 主人公の刑事事件専門弁護士深山大翔〔ひろと〕(松本潤)が所属する班目法律事務所では、班目所長(岸部一徳)がリタイアし、佐田室長(香川照之)が所長となってメンバーを率いている。

 そこへ重要顧客である大手自動車会社会長の若月昭三(石橋蓮司)の孫娘河野穂乃果(杉咲花)が新米弁護士として深山の弟子になる。

河野穂乃果(杉咲花)

 深山と穂乃果は岡部代議士の収賄事件の弁護を引き受けることになり気仙沼へ行くが、そこで贈賄側の会社のトラックに追い回されて死にそうな目に逢う。

 この事件の裏では、自分の顧客のためには無実の他人を陥れることも躊躇しない悪徳弁護士南雲恭平(西島秀俊)が糸を引いており、深山らは、辛くもその陰謀の裏をかいて0.1%の無実を勝ち取るが、南雲との因縁が生まれてしまう。

 その南雲は、かつて担当弁護士として無実を主張しながら被告が死刑判決を受けた後で獄中死してしまい、彼の娘エリ(蒔田彩珠)を引き取って育てていた・・というのが「前夜祭」でのストーリー。

 そこで深山と佐田所長(香川照之)が登場して、本編へと突入する。

99.9 刑事専門弁護士 THE MOVIE

(C)2021「99.9 THE MOVIE」製作委員会

 さて、本編に入ると、とある海岸端の断崖で穂乃果(杉咲花)が海を見ている。

 そこに鉄パイプを持って背後から忍び寄る怪しい影・・おっと、いきなりの大ピンチだ!

 しかし、砂利を踏みしめる音に気づいて穂乃果は振り返り、崖の上で揉み合いになる。

 それを離れて撮影している男。ん?主人公の深山だ!・・これは犯行現場の再現VTRを収録しているところ。

 その事件とは、依頼者の加賀郁夫(ラッパーのR-指定)が被害者の東野に襲われて崖から突き落とし、正当防衛を主張している事件だ。

深山大翔(松本潤)

 で、これは「導入」のための事件で、またも南雲弁護士(西島秀俊)が偽の証言者をでっち上げて、関係者が重複する自分の事件を有利に運ぼうとしている。う~むぅ・・。

 紆余曲折あるが、深山チームは証言者の嘘を暴いて依頼者の正当防衛を明らかにし、無罪を勝ち取る。

 場面代わって、南雲の養女エリ(蒔田彩珠)がウィーン・ピアノコンクールで優勝して帰国し、空港でマスコミの囲み取材を受けている。

 すると傍らに居た南雲(西島秀俊)に一人の記者が歩み寄り「彼女は殺人で死刑になった山本貴信の娘ですよね?」と爆弾質問!(ええ~!)

南雲エリ(蒔田彩珠)

 結局、そのセンセーショナルな報道は表に出てしまい、ショックを受けたエリ(蒔田彩珠)が班目法律事務所の佐田所長(香川照之)に真相解明を依頼したことから、深山(松本潤)らは、15年前に被告が獄中死した『天華村毒物ワイン事件』の再捜査に乗り出すことになる。

 南雲(西島秀俊)は、その事件の被告側弁護士だったのだ。

 さて、深山らは事件の真相を突き止め、エリの父親の無念を晴らすことができるのか? はたまた、深山と南雲の確執は解消されるのか?

 だがしかし・・・。

99.9 刑事専門弁護士 THE MOVIE

(C)2021「99.9 THE MOVIE」製作委員会

 映画はTVドラマと同じように、深山(松本潤)のダジャレや穂乃果(杉咲花)の大袈裟なボディランゲージが頻発し、テンポよく進んでいきます。

 しかし・・この毒殺事件の真相が明らかになった時点で、僕は息を呑みました。

 さすがにこの真犯人は、予想が付きませんでした。というか、その当人さえ自分が犯人だったことを知らなかったのですから・・。

をっと・・イキナリの大暴露ですが(笑)

 どちらかと言えば「イヤミス」に近い、胸が晴れるような真実ではないのですが、その意外性は凄い。

河野穂乃果(杉咲花)

 また、「前夜祭」から登場した悪徳弁護士南雲恭平を西島秀俊が演じていたことに驚いたのですが、それはちゃんとこの映画本編で「何故?」を回収するためだったのですね。

 どう考えたって、西島秀俊に根っからの悪役は向かないですものね(笑)

 「前夜祭」を見た時には、「やはり、悪役にも魅力があるのがいい作品の条件」などと簡単に思い込んでいたのですが、それは映画本編で印象をひっくり返すための伏線だったと気づきました。

佐田所長と南雲弁護士

 南雲は『天華村毒物ワイン事件』の犯人とされたエリの父、山本貴信(渋川清彦)の弁護を引き受け、死刑判決を覆す前に獄死させたことで大きなトラウマを背負いました。

 彼が、自分が担当する被告のためになるなら、どんな汚い手を使ってでもやり通すという考え方に捉われたのも、それが原因でした。

 そして責任感から天涯孤独となった娘エリを引き取って育てるうち、本当の親子としての情愛が芽生え、彼女だけは身体を張っても守り通すという生き方をして来たのです。

事務所の三人組

 そしてまた、我が身に関しては一切の贅沢を排除する・・南雲とエリが住んでいる事務所兼自宅を班目法律事務所の佐田所長(香川照之)が訪れるシーンがありますが、これが今にも朽ち果てそうなボロ家。

 本当は優しく誠実な人間だったことが、観客にも次第に分かって来るという筋書きなのです。

 また、物語の終盤で『毒物ワイン事件』の真犯人と真相が明らかにされますが、その時の南雲の号泣はもの凄い演技でした。

思わず観ているこちらも感情移入してもらい泣きするほどに・・。

 やはり西島秀俊は素晴らしい役者です。「ハーメルン」の時に、ちゃんと共演しておけば良かった。 ←その話は「通信」のどこかで書いています(笑)

99.9 刑事専門弁護士 THE MOVIE

(C)2021「99.9 THE MOVIE」製作委員会

 もう一つ、シナリオで褒めたいのが、中盤のどんでん返し。

 『毒物ワイン事件』では、村長による鏡割りセレモニーの全容のVTRが残されており、これで村人の全員が確認され、遅れて加わったのは唐揚げを担当していた山本貴信ひとりでした。

 つまり、ワイン樽に毒物を混入できるチャンスがあったのは彼一人という事実が決め手の証拠となりました。

 その再現VTRで、彼が遅れた理由は"唐揚げを美味しくするために二度揚げしていた"ためと分かった深山(松本潤)・・

 「これから人を殺そうとしている人間が"二度揚げ"などするものでしょうか?」と疑念を呈するセリフに納得。

深山大翔(松本潤)

 さらに凄いのは、村人たちを映しているカメラのアングルが数分間同じままだったことに気づき、「毒を入れられる可能性があった人物はもう一人いた」と喝破するシーン。

ビデオは置きっぱなしでも自分で撮影を続けますから。

 まあ、観察者が犯人というのはミステリーでよくある設定ですけれど、これは不意打ちをくった気分になりました。

 しかし、シナリオはこれをさらにひっくり返す!(驚)

 佐田所長(香川照之)は、ビデオ撮影を担当していた村の有力者太田(ベンガル)犯人説に前のめりになり、そこを根拠に再審請求を急ぐが、ここで痛烈なカウンター・パンチが。

 太田(ベンガル)は機先を制して記者会見を招集し、「山本貴信の倉庫に保管されていた毒物を持ち出したのは確かに自分だが、思いとどまって使用していない」と、紛失していた毒物ボトルの封付き現物を提示。

 これで、再審請求を進めていた班目法律事務所の信用はガタ落ち、マスコミ報道で炎上する騒ぎとなる。

 つまり、キャッチコピーの「深山、 ついに敗れるーーー!?」は、この事態を表現していたのです。

 しかし、どんでん返しはまだまだ終わらない。

 この記者会見を行わせた人物こそ、班目法律事務所の班目前所長(岸部一徳)!! (ええええ~!!)

 彼は、後輩たちが十分な裏付けを集めないまま、再審請求に前のめりになっている状況を危惧して密かに調査をし、彼らの傷が決定的にならないための「親心」で会見を仕組んだのでした。

99.9 刑事専門弁護士 THE MOVIE

(C)2021「99.9 THE MOVIE」製作委員会

 そう言えば・・西島秀俊の悪徳弁護士役も意外な起用でしたが、岸部一徳は、どちらかと言えば"悪のラスボス"役を多く演じて来ており、このシリーズの思慮深い管理職役は中々の配役です。(もちろん褒めている:笑)

 もう一人、『天華村毒物ワイン事件』で死刑判決を下した東京地裁裁判長の川上憲一郎(笑福亭鶴瓶)は、このシリーズで一貫して深山(松本潤)の前に立ちはだかる大きな壁となって来ました。

川上憲一郎(笑福亭鶴瓶)

 鶴瓶さん、あんな人懐っこい顔をしていますが、川上裁判長を演じると人が変わったような迫力がある。(これも素晴らしい配役!)

 彼もまた、今回の毒物ワイン事件の真相が明らかになった時点で自ら職を辞すのですが、それも一つの矜持。

 「目の前に提示された証拠でのみ、法に則り判断せざるを得ない。たとえそれが極刑を指し示すものであったとしても」・・最後の最後で彼の苦しみが吐露さます。

 最後にもう一人だけ。

 「ワイン事件」があった時、まだ子供だった村の青年・重盛 守役をなにわ男子の道枝駿佑クン(ミッチー)が好演しています。

重盛 守(道枝駿佑)

 彼は、事件の再捜査に非協力的な村人の中で、唯一「真相を明らかにするためなら協力すべきだ」と主張する重要な役。

 一番感心したのは、ラストで冤罪のまま亡くなった山本貴信の墓参りに行った時、先客で居た娘のエリが帰ろうとしてすれ違うシーン。

 彼は、「何か言わなければ」と考えるも結局、言葉が見つからず、無言ですれ違ってしまった時の胸に迫る表情・・いや、全身でその無念さを表現していました。

その無言には重大な意味があるのですが、それはナイショです。

 彼もいい役者の素養があるんじゃないかな。

99.9 刑事専門弁護士 THE MOVIE

(C)2021「99.9 THE MOVIE」製作委員会

 映画は、封切り初週2日間で動員が26万4000人、興収3億3400万円を記録して初登場2位の成績に。(首位は2週連続で「劇場版 呪術廻戦 0」)

 映画中盤のドキドキ・ハラハラ感、終盤になだれ込む際のどんでん返しに継ぐどんでん返し。まさに手に汗を握る展開。

 そして、全ての真相が明らかになった時の南雲弁護士のやり場のない号泣。さらにはラストシーンのなにわ男子の無言の名演・・見所は満載ですよ♪

 

/// end of the “cinemaアラカルト285「99.9 刑事専門弁護士 THE MOVIE”///

 

(追伸)

岸波

 この映画版で、深山と穂乃果の軽妙なやり取りを見て、「こりゃあ、杉咲花が出ていなかったら映画が成立しないんじゃないか」と感じました。

 ところが、TVシリーズから見ていたケイコによりますと、シリーズごとにヒロイン役が入れ替わるのはお約束、どのヒロインもそれなりに面白いとのこと。

 そう言えば、両シリーズのヒロイン、尾崎舞子(木村文乃)と立花彩乃(榮倉奈々)もチョイ役で友情出演していました。

尾崎舞子(木村文乃)

立花彩乃(榮倉奈々)

 それから、映画を見終わった後で、元ピアニストのケイコから一つのクレームが。

 南雲の事務所兼自宅の内部が映し出されているのですが、「あの家ではピアノを練習する場所が無い。ウィーン・コンクールを舐めるなよ」という事でした(笑)

 うん、確かに。防音設備も無ければグランドピアノ自体が無い。

 上手の手から水が零れると言いますか、最後の「監修」の詰めが甘かったようです。(大笑)

 

 では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See you again !

99.9 刑事専門弁護士 THE MOVIE

(C)2021「99.9 THE MOVIE」製作委員会

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To be continued⇒  “cinemaアラカルト286” coming soon!

 

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