こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
真実の先を
知りたくないか
2003年公開の三部作完結編『マトリックス レボリューションズ』で主人公ネオ(キアヌ・リーヴス)とトリニティ(キャリー=アン・モス)が命を落としてから早18年、待ちに待った新作『マトリックス レザレクションズ』をケイコととともに観てまいりました。
「レザレクションズ」とはすなわち「復活」。今回の第4作が前の三部作を継承するものになるのか、はたまたリブート作品となるのか、興味は尽きません。
しかあしっ!!
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マトリックス レザレクションズ
(C)2021 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED
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『真実の先を知りたくないか』という今回のキャッチコピー・・これはやはり、正当な後継作なのではないか?
しかし『レボリューションズ』で二人は死んでしまっているし、”はい、アレは全部夢でした~♪”・・なんて、冗談にならない話をするのではあるまいな。
さて、実際はどうだったのか? 早速、その内容です。
映画の冒頭、ホテルの一室でトリニティらしき人物がPCでハッキングを行っている・・おや、これはもしや?
はい、今回の鑑賞にあたって僕は、Amazonプライムでマトリックス・シリーズの1から3まで見直して臨んだのですが、まさにこれは第一作『マトリックス』の冒頭シーンそのまま。
「Heart O' the City」というホテルの部屋でトリニティがマトリックス世界にハッキングをかけているシーンなのです。
唯一違うのは、そのトリニティの姿をさらに外側から覗いている人物たちがいるらしいこと。
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マトリックス レザレクションズ
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トリニティはその後、警官らに部屋に踏み込まれ、エージェントらが到着する前に窓から逃げ出すのですが、「外側」から見ている人間たちは、その展開を熟知しているよう・・。
これは後に『モーダル』と説明され、マトリックス世界の限定された場所で何度も繰り返されている情景。
マトリックス世界の人間たちの行動とは隔絶され、「プログラムを進化させるためのシミュレーション・プラグラムの一つ」と説明されます。
トリニティ(キャリー=アン・モス)
やがて場面は転換し、主人公(キアヌ・リーヴス)が救世主ネオになる前の人格トーマス・アンダーソンにフォーカスされる。
どうやらコレは、第一作『マトリックス』の世界を外側から見ている様子らしいと思うも束の間、トムの立場は全然、別物になっていることに気づく。
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マトリックス レザレクションズ
(C)2021 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED
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トム(キアヌ・リーヴス)はゲーム制作会社の社員で、ゲームソフト『MATRIX』三部作で大ヒットを飛ばしたゲーム・デザイナー。
ただしトムは、空想と現実の境界があやふやな心の病を抱えて、定期的にセラピーに通っている。
親会社のワーナー・ブラザース社からは『マトリックス4』を作れと圧迫を受けているが、あの作品はもはや完結しており、リメイクやリブートのようなことはやりたくないと考えている。
はてさて、どういうことだ??
トーマス(キアヌ・リーヴス)
もしかして、『マトリックス三部作』はゲームソフト『MATRIX』の中の話だったというオチか?・・それはちょっと安易に過ぎるだろう?
するとトムは、街中のカフェでトリニティと再会を果たす。(展開ハヤ!)
しかし・・・彼女はティファニーと名乗り、既に結婚して子育ての最中だと言う。(あらららら・・)
トリニティ/ティファニー
トム(キアヌ・リーヴス)とティファニー(キャリー=アン・モス)の関係性もよく分からぬまま、ある日、事件が勃発する。
トムの会社があるビルに爆破予告がなされ、他の社員とともに逃げ出そうとすると、突然、通信が入る・・「真実を知りたいのなら、その先のドアに入れ」!?
モーフィアス
果たして、そこに待っていたのはモーフィアス!?・・しかし彼は、トムが制作した『MATRIX』のキャラクターそのものなので、トムはその実体化に激しく動揺。
モーフィアスは赤いピル(錠剤カプセル)を示し、「これを飲んで、現実世界に戻れ」と促す・・。
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マトリックス レザレクションズ
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物語が進行すると、『マトリックス・レボリューションズ』で描かれた先の世界が展開してることが分かってきます。
ネオとトリニティは、マトリックス世界を創造した旧三部作の支配者「アーキテクト」と対決し、勝利する代わりに命を落としています。
救世主ネオ/マトリックス
人類はマトリックス世界の「生体電池」の役割を解かれて、現実社会に帰還したのですが、機械(AI)たちは圧倒的な電力不足に陥り、機械(AI)同士が少ないエネルギーを奪い合って、戦いとなりました。
生体電池にされた人類
その戦いに巻き込まれ、人間たちの最後の砦だった地下世界ザイオンも壊滅。
生き延びた人類の子孫たちは、一部の機械(AI)と同盟を結んで、新たな生息地アイオを建設したのです。
そんな現実世界にアーキテクトの意志を継ぐ新たな創造者「アナリスト」が現れ、進化したマトリックス世界を再起動させます。
新たな創造者「アナリスト」
そのエネルギー源は再び捕えられた人間たちに加え、何と死んだはずのネオとトリニティ。(!)
ネオとトリニティは、巨大なエネルギーを生産できる選ばれた人間であったため、「アナリスト」が再生して命を与え、再びポッドに収容していたのでした。
そう・・ネオとトリニティが倒れてから、実に60年の年月が流れていたのです。
モーフィアス(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世)
ネオを救世主と信じたモーフィアスは既に存在せず、彼らの前に現れたのは、モーフィアスの人格をアップロードした幻影です。
そして、モーフィアスの意志を受け継ぎ、存命が明らかになったネオを再び救世主として救い出そうとしているのが、冒頭のシーンで「モーダル」を外部から覗き見ていた「アイオ」の戦闘艦ムネモシュネ号の船長であるバッグス(ジェシカ・ヘンウィック)とそのクルーたち。
バッグスは今回のストーリーを引き廻す主要人物で、緑色の髪をしている。
バッグス(ジェシカ・ヘンウィック)
さて、現実世界に帰還したネオとバッグスたちは、捉われのトリニティを救い出せるのか?
はたまた、新たなマトリックスの支配者「アナリスト」との闘いの帰結や如何に!?
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マトリックス レザレクションズ
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映画を見終わってどう感じたか?
まず、映像についてですが、1999年に最初の『マトリックス』が登場した時には、弾丸をのけ反って交わす「バレットタイム」(スローモーションで弾をかわす映像を見せる手法)など斬新な表現、スタイリッシュな映像に酔いしれたものですが、今や当たり前の撮影技法。
むしろそれを20年、先取りしてた事には敬意を表しますが。
バレットタイム/マトリックス
そして、この20年で主演のキアヌ・リーヴスもキャリー=アン・モスも歳をとりました。
キャリー=アン・モスは、未だにあのスタイルを維持している事には驚きですが、膚の衰えは隠すべくもない。
また、キアヌ・リーヴスに至っては、彼のもう一つのシリーズ・ヒット作「ジョン・ウィック」の彼、そのままなんですよね・・表情もヘアスタイルも。
キレのいいカンフー・アクションは素晴らしいものがありますが、20年前の見た目のスタイリッシュさと比べてしまうと、どうしても落差を感じます。
ネオ(キアヌ・リーヴス)
それと、「ネオとトリニティが接触をすると大変な事になる」と繰り返し煽っていますが、映画の終盤、実際に手が触れ合うと、ビルの一角が吹き飛ぶくらい。
こちらは原子と反原子の「対消滅」とかビッグバン級の大事件を予想しましたが、完全に肩透かし。
やはり『マトリックス』は旧三部作で完全に完結しているので、どうしても『大いなる蛇足』感を抱くのです。
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マトリックス レザレクションズ
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逆に。いい所を見つけようとすれば、旧三部作のファンにとっては、かつての名シーン・・冒頭の格闘や生体電池の人類のポッドが地下の果てまで続いてい居るシーンなどがふんだんで、懐かしさ満載でした。
『リローデッド』のメロヴィンジアンやザイオンの長老ナイオビ、さらには『レボリューションズ』で地下鉄の駅で出会った少女サティが大人になって再登場する(俳優は別)のは嬉しい限りでしたね。
地下鉄の少女
大人になったサティ
そして今回、思わぬ「良い役」をやったのがエージェント・スミス。
彼はプログラムの束縛から解き放たれて、新たなマトリックス世界では放浪者のような自由な存在となって姿を表すのですけれど、新たな支配者「アナリスト」の束縛を良しとせず、これに敵対する。
ネオらとは決して「味方」ではありませんが、「敵の敵は味方」のような関係性で、幾度となくネオらの危機を救う結果に。
俳優も旧三部作のヒューゴ・ウィーヴィングではなく、ジョナサン・グロフに交代し、(結果的にですが)水戸黄門の風車の弥七のような強力助っ人となって好感度アップです(笑)
エージェント・スミス(ジョナサン・グロフ)
逆に嫌らしさを増したのが、新たな創造者の「アナリスト」(ニール・パトリック・ハリス)。
彼は、(おそらく意図的に)ミソジニー(女性蔑視者)として描かれており、新しいマトリックスでのトリニティの名前を「ティファ二―」としたのは、フェミニズムの観点から批判されることも多い映画『ティファニーで朝食を』から選んだのだとうそぶきます。
アナリスト(ニール・パトリック・ハリス)
他の場面でも何度も女性蔑視発言をする・・例えば、ラストの対決シーンでは、「自分たちでこの世界を支配したいのなら、まず、あの空に虹をかけたらいいんじゃないのか(笑)」と明らかにLGBT蔑視を意図したジョークを飛ばす。
レインボーカラーは、セクシャル・マイノリティの尊厳と多様性のシンボル。彼は女性蔑視にとどまらず、トランスジェンダーも蔑視していることが分かる。
まあ、最後の最後には、覚醒したトリニティにボッコボコにされ、実際に改変権を手にしたトリニティは、空を虹色に染め、こう捨て台詞を言い放つ。
「二回目のチャンス(another chance)をありがとう」
ん? このセリフ・・どういうことか考えました。
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マトリックス レザレクションズ
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旧三部作でメガホンを取ったウォシャウスキー兄弟は、その後、性転換して姉妹となり、今回の第4作は姉のラナ・ウォシャウスキーが単独で監督となりました。
そして妹のリリーは、昨年のインタビューの中で「『マトリックス』はトランスジェンダーの人々の物語。当時の社会と業界はまだ準備ができていなかった」と述べています。
トランスジェンダーを考えながら制作に入った二人は、おそらく『マトリックス』の中にもそういう要素を盛り込みたかった・・しかし、当時の社会理解の中で断念した、と読み解けないでしょうか?
ラナ・ウォシャウスキー監督
考えてみれば、旧三部作のテーマは「今見えている社会は偽物。自分の選択によって本当の現実を生きる事ができる。」というものだったと思います。
あれから20年の月日が流れ、社会の理解も変貌しました。
だからこそ、ラナ・ウォシャウスキー監督は、二度目のチャンスで空を虹色に染めたのではないか? ・・そう思えてならないのです。
/// end of the “cinemaアラカルト283「マトリックス レザレクションズ」”///
(追伸)
岸波
そうそう・・大切なことを言い忘れていました。
ネオは結局、救世主の力を取り戻すことはできず、代わりにトリニティが救世主の能力を覚醒させて空を飛び、「アナリスト」を倒すのです。
つまり、今回の真の主役、"救世主"は女性であるトリニティ。
このあたりも、白人男性(ネオ)がヒーローとなって世界の危機を救ったステロタイプな物語と対比して、ラナ・ウォシャウスキー監督によるトランスジェンダー賛歌が読み取れるのではないかと感じます。
では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See you again !
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プレミアイベントの模様
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be continued⇒ “cinemaアラカルト284” coming
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