こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
もう、ひとりじゃない。
ケイコの体調が戻ったので、ようやく細田守監督の新作アニメ『竜とそばかすの姫』を見てまいりました。
全世界で50億人以上がアカウントを持つという巨大なインターネットの仮想空間「U」を舞台に、絶大な人気を博す"そばかすの歌姫"ベルと謎のお尋ね者「竜」にまつわる物語。
驚異の歌唱力を持つベルが歌う劇中歌はいずれもがチャートを駆けのぼり、7月15日の封切りから3日間で観客動員60万人、興行収入8億9000万円を超える大ヒットとなっている作品です。
本作は細田守監督の6作目のアニメ作品となるわけですが、特に『おおかみこどもの雨と雪』辺りから、ネットを中心に細田作品に対する賛否両論はかまびすしく、嫌う人は徹底的に嫌うという現象が起きています。
果たして今作はどうなるのか?
ということで、さっそく本編でございます。
映画の冒頭、仮想世界「U」で歌うベル姫が空飛ぶクジラに乗って登場。
ロックバンド「King Gnu」の常田大季が率いる音楽家集団millennium paradeとBelleによる目下大ヒット中のメインテーマ「U」が歌唱・演奏されます。
で、これはイオンシネマ福島ばかりではないと思うのですが、映画の「音量」にビックリ。「U」だから・・という事でもなく、全編、音楽部分のボリュームはかなりアゲてある感じ。
この「竜とそばかすの姫」にとっての音楽は、決してただのBGMではなく、映画そのもののテーマに大きく関わっていることに気づかされます。
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主人公である歌姫ベルの実体は、高知県に住むごく普通の女子高生すず(声:中村佳穂)。
幼い頃に、増水した川に取り残された子供を助けるために母が命を落とし、父親(声:役所広司)と二人暮らし。そのトラウマから、すずは人前で歌が歌えないほどの対人恐怖症になっている。
唯一の親友ヒロちゃん(声:幾田りら/IKURAちゃん)に誘われ、インターネットの仮想世界「U」へのデビューを飾ると、その世界では歌えることに気づき、瞬く間に謎の歌姫として「U」の寵児となります。
ヒロちゃんとすず
この「U」の中でのアバターは「As(アズ)」と呼ばれ、システム側がオリジン(ユーザー本人)のキャラクターを分析して自動生成。
操るのではなく自身の認知機能をAsと同期させる事で、「U」の世界を自由に動き回ることができるのです。
一方、実体のすずは、見た目も普通で内気な女子高生。同級生の中で美人でスタイルもいいルカちゃん(声:玉城ティナ)に憧れつつも話しかけることもできない。
そんなすずを陰ひなたからフォローしてくれる幼馴染のシノブ君(声:成田凌)の事を「小さい時にプロポーズされた」と勝手に思い込んでいる。
けれど、人気者に成長したシノブ君と仲良くすることで妬みを買わないよう周囲に気遣っている・・まあ、とにかく引っ込み思案なのです。
さて、「U」の世界では別人のように大胆に振舞えるすず(ベル)は、いよいよ人気沸騰。何億人もの聴衆を対象とする初ライブを開催することに。
ところがそこに、「U」の世界の警察を自認する「ジャスティス」のメンバーに追われたお尋ね者の「竜」が乱入。
お尋ね者の「竜」
激しい両者の闘いで会場はメチャクチャ・・ライブを中止せざるを得ない事態となります。あらららら・・。
以後、「U」では「竜」の正体探しが始まり、すず(ベル)も全身傷だらけで見た目恐ろしげな「竜」に興味を持ち、親友ヒロちゃん(声:幾田りら)の助けを借りて、「竜」の正体を探し始めます。
さて、お尋ね者「竜」とはいったい何者なのか? はたまたベルと「竜」の未来に何が待ち受けているのか??
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この「竜とそばかすの姫」には、細田監督とスタジオ地図はもちろん、世界から有名クリエーターが結集しました。
今年3月のアカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートされた『ウルフウォーカー』をはじめ、これまで5本の映画をノミネートさせてきたアイルランドの「カートゥーン・サルーン」スタジオのトム・ムーア監督がスタッフを引き連れて参加。
また、歌姫ベルのキャラクター・デザインは『アナと雪の女王』など数々のディズニー映画でデザインを手がけたジン・キムが担当。
細田監督とジン・キムはかつてロサンゼルスで邂逅し意気投合。今回のメインキャラのデザインをということで、細田監督自らオファーして参画が実現しました。
「U」の世界
そして、巨大インターネット仮想空間「U」のデザインを担ったのは、ロンドン在住の建築デザイナーエリック・ウォン。
まさに世界のキラ星の如き才能たちが本作に集結しているのです。
また、声優陣も超豪華。すずの父親に役所広司、幼馴染みのシノブ君に俳優・モデルの成田凌、すずの親友ヒロちゃんに幾田りら(IKURAちゃん)、竜の正体ドメスティックバイオレンスを受けている14歳の少年恵(ケイ)に佐藤健、人気者の同級生ルカちゃんに玉木ティナ、そのルカちゃんが密かに思いを寄せている一人カヌー部のカミシンに染谷将太などなど。
でも、僕が注目したのは、すずがベルである事を知りながら本人にはナイショで「U」の世界で応援しているご近所コーラスグループのオバサンたち(笑)
こんな端役(失礼!)に、森山良子、清水ミチコ、坂本冬美、岩崎良美、中尾幸世などの芸達者が顔をそろえているのですよ。
う~ん細田監督、手を抜くことを知らないな(笑)
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ヒロちゃんと合唱隊のオバサンたち(一部)
(C)2021 スタジオ地図
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そして、何と言っても今作のサプライズは、主人公すずの声を担当し、そばかすの歌姫ベルとして素晴らしい歌声を披露したシンガーソングライターの中村佳穂さん。
やさしくハスキーな歌声で透明感のある高音が突き抜ける・・誰もが惹き込まれてしまう魅力的な声。
彼女は1992年の京都生まれで、20歳から音楽活動を開始して、主にライブを中心に活躍してきた人物だそうです。(全く知らなかった・・)
声のタイプとしては、ジブリの『ゲド戦記』で歌った僕の大好きな手島葵さんに近い感じ。
『ゲド戦記』
今回の『竜とそばかすの姫』で歌った数々の歌は、それぞれヒットチャートを駆け上がっている訳ですが、映画館の大音響で聞く歌唱はまた格別。
この数々の挿入歌は(決してBGMにとどまらず)、登場人物の心象風景をセリフを使わずに表現している・・まるで歌劇やミュージカルのような重要な役割を果たしているのです。
ついつい、どんな人なんだろうとつぶやきましたら、うちのケイコが「あまり期待しない方がいいわよ」と。(えええ~!?)
そう言われると見たくなるのが身上。ネットをググりますと・・うん、確かにフツーの人でした(笑)
いやいやいや、結構可愛らしいと思うぞ。
竜役の佐藤健とすずの中村佳穂
また、映画の中では「大人たちの偽善」や「ネットの闇」も描かれています。
「U」の世界の警察を自認するジャスティスのメンバーは、恐ろしげな風貌の「竜」を"お尋ね者"と呼んで執拗に付け狙うのですが、それが決して「正義のため」ではなく単なる「支配欲」だとベルに看破され、逆にベルも「排除」の対象にしようとする。
彼らの武器はユーザーの正体を暴いて「U」世界の中でAs(アバター)の仮面を剥ぎ取り、本人を生で晒す「アンベイル光線」。 (ヤな設定ですね・・笑)
見た目はヒーローのようなイデタチをしているので余計タチが悪い。
ケイコいわく・・これはマグマ大使だと(笑)
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自警団ジャスティスのメンバー
(C)2021 スタジオ地図
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そして「竜」にお尋ね者というレッテルが貼られると、自分は安全な場所から付和雷同するネット住民たち・・。
まさに、現実のネット世界でも見られるような、気分の悪くなる景色がそこに展開されるのです。
自らを「正義」と声高に叫ぶヤカラのうさん臭さ、大嫌いです。
さらに「竜」の正体である少年恵(ケイ)にDVを振るう父親。
「竜」が恐ろしげな風貌をしているのは、決して彼が乱暴者だからではなく、彼のズタズタに引き裂かれた心をシステムが自動生成で具象化した姿に過ぎませんでした。
竜とベル
竜(ケイ)の本当の姿と苦悩を知ったすず(ベル)は、彼を父親のDVから救おうと立ち上がります。
この性格はきっと、自分の命を犠牲にして濁流の子供を救った母親から受け継がれたものなのでしょう。
逆上した竜(ケイ)の父親・・ケイに迫る危機。すずはリアルでケイの居場所を聞こうとしますが、ケイはリアルのすずが「U」のベルである事を信じません。
シノブ君が言います。
「彼にすずがベルだと分からせるためには「U」で素顔のまま歌うしかない。」
(ええええ~!)
この映画で、すずが竜の正体を知る経緯やその救出のストーリーについて、「ご都合主義」であるとか「そんな危険なことを女子高生一人に負わせる周りの人間たちの行動がありえない」などの非難がなされています。
でも僕は、彼女の勇気ある行動に感動しましたし、全体として素晴らしい作品に仕上がっていると感じています。
この点については、ご意見番のケイコがいい事を言っています。
「そもそもファンタジーに辻褄を求めてはいけない」
「ファンタジーは頭じゃなく心で感じるものよ」
~けだし名言ではないでしょうか。
細田監督は自分の作品の季節に夏を選ぶことが多く、そこには必ず入道雲が登場します。
彼の言によれば、その入道雲は少年や少女たちが成長してゆく”象徴”なのだそうです。
そう・・彼の作品に通底するテーマは、少年・少女の心の成長。
今回の『竜とそばかすの姫』で言えば、他人と関わりを持つことが不得手だったすずが母親の死のトラウマを乗り越え、少年「竜(ケイ)」を救うために、ベルのAs(アバター)を脱ぎ捨てて歌を届ける場面が最も重要なシーンです。
魂を震わせるその歌唱に僕の胸も熱くなりました。些細な辻褄に捉われるよりも"心で感じる"べきはその成長のメッセージなのではないでしょうか。
/// end of the “cinemaアラカルト263「竜とそばかすの姫」”///
(追伸)
岸波
日本で『竜とそばかすの姫』が封切られた同じ7月15日、第74回カンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクション「カンヌ・プルミエール」部門で、ワールドプレミア上映がありました。
これは細田監督にとって三年前の第71回カンヌ映画祭で『未来のミライ』が上映されて2作品連続の快挙。
ジブリや新海誠監督に続き、細田監督も日本を代表するアニメ作家の地位を確たるものにした感があり、とても喜ばしく思います
また『竜とそばかすの姫』はIMAX版も同時に公開されており、もしも福島市にそうした設備があったらと残念でなりません。
この作品は絶対に劇場で観ることをお勧めします。
では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See you again !
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