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「AUTUMN」(Music Material)
by 岸波(葉羽)【配信2021.6.12】
 

◆この記事は作品のストーリーについて触れています。作品を実際に楽しむ前にストーリーを知りたくない方は閲覧をお控えください。

 こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。

 死者の記憶を 覗き見る 勇気はあるか?

 これは2016年公開、生田斗真と岡田将生がコンビ主演した『秘密 THE TOP SECRET』のキャッチコピー。

 まだ二回目のコロナ・ワクチン接種が終わっていないので、最近はAmazonプライムのサスペンス映画を中心に見まくっています。

 そんな中、5年前にケイコと観に行ったこの映画を見つけたので懐かしさのあまり再鑑賞しました。

 ところがっ!!

秘密 THE TOP SECRET

(C)2016「秘密 THE TOP SECRET」製作委員会

 何と言う事でしょうか、実はこの映画のことをあまり思い出さなかったのは、あまりにも『最低・最悪』の映画だったので、その忌まわしい記憶を封印していたせいだったのを忘れていたのです。

 ということで、今回は岸波版の『絶対に観てはいけないシリーズ』でございます(笑)

 では、どんだけ酷かったのかと言いますと・・。

 原作の『秘密 -トップ・シークレット-』は清水玲子が1999年から2012年まで漫画誌「MELODY」に連載した人気シリーズ。

 近未来を舞台にした警察サスペンスで、死んだ人間の脳から生前見た映像を再現する『MRI技術』が開発され、それを犯罪捜査に応用する警察の専門機関「第九」のメンバーの活躍が描かれる。

秘密 THE TOP SECRET

(C)2016「秘密 THE TOP SECRET」製作委員会

 単行本化に当たっては緻密な加筆修正が施され、第一巻の発売当時は販売・即・売り切れ。

 再販時も同様の事態となったため、掲載誌「MELODY」誌上に謝罪文が掲載されたほどの超人気作品でした。

 今回、記憶を呼び戻すために、こちら原作の方も読み返しました。

 MRI捜査でシリアル・キラーの異常な精神世界を除き見たために、メンバー5人のうち2人が発狂・自殺、1人が長期療養入院。

 そして、もう一人の部下であり学生時代の親友だった鈴木(松坂桃李)を撃ち殺さざるを得なかった「第九」の警視正薪剛(まきたけし:生田斗真)の苦悩が蘇りました。

原作の薪警視正と青木刑事

 この原作の魅力ですが、極めて陰惨な殺人事件と重い真実(暴かれる「秘密」)を扱いながらも、決して暗さ一辺倒ではありません。

 新人刑事青木(岡田将生)の天然ボケ、武闘派なのに薪警視正には頭の上がらない岡部刑事(平山祐介)、”死体と寝る女”と呼ばれる監察医の三好雪子(栗山千明)の突飛な行動など、ユーモアを失わずに描かれています。

 今回の映画で扱った事件は、美少年ばかり28人を狙ったシリアル・キラー貝沼(吉川晃司)の『28人連続殺人事件』、そして父親が家族を惨殺して死刑になる『露口一家惨殺事件』の二件・・で、まずコレが失敗。

映画の薪警視正と青木刑事

 ただでさえ緻密に描かれた原作を2時間内外に圧縮するのは困難なのに、無理やり2本も詰め込んだ。

 しかも原作では全く別個の話で関係性が無い真犯人貝沼と露口絹子(織田梨沙)に関係があったエピソードを無理やり設定して、更に尺を圧迫している。

(それでも2時間半近いんですが・・)

秘密 THE TOP SECRET

(C)2016「秘密 THE TOP SECRET」製作委員会

 そして、さらに酷いのは主要な登場人物のキャラ変。

 警視正薪剛(生田斗真)は、原作では言葉遣いこそゾンザイですが、実際は部下思いの優しい心根を持った人物。

 なのに映画では、ひたすら「上から目線」で共感できる部分がどこにもない。

 天然ボケの若手青木刑事は、本来、暗くなり過ぎないムード・メーカー(原作の魅力の部分)。

 なのに映画の青木刑事(岡田将生)は、エリート臭プンプン・・そのくせ急場ではパニックしまくりの情けなさ。

錯乱する青木刑事(岡田将生)

 最も年上で武闘派ながらも、実際にはメンバー全体に目配りしている優しい刑事岡部(平山祐介)に至っては殆ど存在感なし。(というか殆どセリフ無し)

 ああそれなのに、それなのに・・主要人物の「いいトコ」を減らした代わりに映画だけのオリジナル・キャストを二人も投入して、これがストーリーをぶち壊す。

 薪剛(生田斗真)の過去を知るという精神科医リリー・フランキーって、あれ必要だったの?

精神科医(リリー・フランキー)

 もう一人の追加キャラである所轄刑事の眞鍋(大森南朋)は怒鳴り散らすだけの暴力刑事。

 取り調べ中に平気で被疑者に暴力を振るうわ、現場に出れば平気で金目のモノをポケットに入れるわ・・。

 しまいに、逆上して犯人も上司も全部まとめて撃ち殺そうとする・・って、オイ!何しに出てきたんだ!(笑)

 とにかくムチャクチャなキャラ変をしでかしているのですが、それなりに場数を踏んできた俳優らが、この「変なキャラ」を必死に演じているところがまた痛々しい・・。

 そもそもですね・・アイキャッチで使われているMRIのこの画像↓

(MRI捜査中・・?)

 原作にはこんなモノ登場しません。何故かと言えば、MRIは「犯人の死体の脳」の方にこうした電極を繋いで記憶映像を再生する装置。

 だから捜査員が見るのはTVモニターなのです。記録しているから何回でも巻き戻して再生できる。

 ところが映画では、見ようとするたびにこの珍妙な電極を自分の頭に接続しなおしている・・って、理屈の上からもアリエナイのですよ。

 これはもう、脚本を書いた人(あるいは監督)が原作を理解していないのが歴然。(まともに読まなかったのじゃあるまいか?)

秘密 THE TOP SECRET

(C)2016「秘密 THE TOP SECRET」製作委員会

 この「原作の設定を理解していない」のがもう一つ・・薪警視正(生田斗真)を撃ち殺そうとして逆に正当防衛で撃たれてしまう鈴木(松坂桃李)の脳のMRI画像。

 何とその記憶映像の中には薪(生田斗真)と談笑する『自分自身の姿』が登場するのです。

 自分自身が見えるのは「鏡を見た場合」だけだけれども、もちろん「鏡」など無い。なんて杜撰な脚本・・。

 その極めつけは二つの事件の「解決」に関わる部分でしょうか。

錯乱する鈴木刑事(松坂桃李)

『28人連続殺人事件』で大事な部分は、犯人の貝沼が事件を起こした動機の解明です。

 実は彼には、かつて薪警視正に万引き犯として捕えられた過去があり、その時、余りにも哀れな身なりに同情した薪からポケットマネーを与えられ、犯行を見逃してもらったのです。

 ところが貝沼は少年しか愛せない・・しかも虐待することで性的快感を覚える異常者でした。

 この事件で、見かけ上は少年然とした薪警視正を「愛して」しまい、彼に似た少年たちを愛している(つまり虐待して殺害する)脳内映像をMRIで薪に見てもらう(つまりプレゼントする)ことが犯行の目的だったのです。

この身勝手で常軌を逸脱した思考は、理解を超える部分もありますが・・。

原作の"28人殺し"貝沼清孝

 その異常な「愛の告白」が全貌解明の最後のピースなのに、映画ではこれが省略されている。

 だいたい原作の貝沼はだらしなく太ったオジサンなのに、映画で配されたのは吉川晃司・・って、全然「愛の告白」に結びつく筈の無いミス・キャスト。

 だから肝心な「犯行の動機」は謎のままスルーされています。

貝沼(吉川晃司)

 もう一方の『露口一家惨殺事件』の方は、惨殺現場からただ一人行方不明となっていた長女絹子こそが真犯人。

 絹子は父親から性的虐待を受けており、その復讐のために家族を虐殺して父親に罪を被せ、死刑にすることが目的でした。

 なのに映画では、全ての出発点になる「父親による性的虐待」がスルーされ、単に好色な娘がいろいろな男を引き込んでその性的行為を父親に盗み見させることで挑発し、ついには父親とも関係を持ってしまう。

真犯人絹子(織田梨沙)

 そして、自分を愛した父親は絶対に自分を守るはずと確信を得た時点で、家族を虐殺する・・って、いやコレ、アリエナイでしょう。

 そもそも家族を殺さなくてはならない理由がありません。

 もういい加減うんざりなのですが、最後にもう一つだけ脚本のデタラメなところを。

 それは、絹子が連続殺人の真犯人であることの突破口となる全盲少年殺害事件。

秘密 THE TOP SECRETの全盲少年

(C)2016「秘密 THE TOP SECRET」製作委員会

 「第九」は交通事故に見せかけて殺されたであろう少年の脳をMRIで解析しようとするのですが、実は彼は「何も見ていない」・・つまり全盲であったという壁にぶち当たります。

 そこで起死回生のアイディア・・彼が引き連れていた飼い犬のZIP(主人に巻き込まれてトラックに引き殺された犬)の脳をMRIにかけることになります。

 この一番大事なシークエンスで、またも映画では大チョンボ。

青木刑事(岡田将生)

 犬の視野は人間とは違い「赤一色に偏光した濃淡」で見える~と原作でも映画でも(!)述べられているにも関わらず、再現されたZIPの記憶映像はフルカラーの総天然色!(笑)

「これは誰の脳だ・・この低い視点・・人間ではありえない・・飼い犬か!」ってコラコラ、なんだその脚本。

「犬と人間の目は違う」って自分で言ってんだろ・・つーかMRIに何の脳をかけたのか自分でわかって無かったのかい!?

 ・・・・・・・。

 と、まあ、本当にどうしようもない脚本。よくコレで映画を撮ろうと思ったものです。

秘密 THE TOP SECRET

(C)2016「秘密 THE TOP SECRET」製作委員会

 僕は映画に限らずストーリーを伴う『創作』には「感動」が必要だと考えています。少なくとも「共感」・・それが無ければ『創作』の意味なんかない。

 この映画「秘密 THE TOP SECRET」ではいったい何を観衆に伝えたかったのでしょうか?

 それ以前に、原作に対するリスペクトが決定的に欠如していると感じます。(まともに読んでさえいないのではないか?大事な事なので二度言った:笑)

 映画の登場人物の誰もが狂っており、理性的な人間は誰も居ない。伏線も回収しない。動機も解明しない。そもそも行動が矛盾だらけ。

 ただひたすら自分自身を哀しむ人間ばかりの暗い映画。

「どうだい?オレはこんなに悲しいんだ。アンタも泣けるでしょ?」ってか!

薪警視正(生田斗真)

 Amazonプライムの観客評価で★4になっていたのが不思議で、実際の評価コメントを覗いてみました。

 すると、書き込みをしているのは皆、原作のファン。「映画は酷いけれど、原作は素晴らしいから是非、原作を読んでほしい」というものばかりでした。(むべなるかな)

 というわけで、これこそが正に僕の『絶対に観てはいけない映画』のワースト・ワン。

 なにせ、観た記憶まで封印せざるを得なかった作品だったのですから(笑)

◆allcinema ONLINEから引用(※今回はストーリーを追っていないので)

 清水玲子の人気コミックスを「るろうに剣心」の大友啓史監督が実写映画化したSFサスペンス。死者の脳をスキャンして、生前の記憶を映像化するシステムが開発された近未来を舞台に、その技術を利用してある迷宮入り事件の解明に乗り出した捜査官たちを待ち受ける衝撃の運命をスリリングに描き出す。主演は「予告犯」の生田斗真と「ストレイヤーズ・クロニクル」の岡田将生。共演に吉川晃司、松坂桃李、栗山千明、リリー・フランキー、椎名桔平、大森南朋。

 死んだ人間の脳をスキャンして、その人物が見た映像を再生する“MRI”という新たな捜査手法で迷宮入り事件の解決を目指す特別捜査機関、通称“第九”。ある時、家族3人を殺害して有罪となり、死刑が執行された露口浩一のMRI捜査が行われることに。それは、今も行方不明となっている長女・絹子を見つけ出すためだった。第九の室長で、発足時からの唯一のメンバーである薪剛は、自らスカウトした新人捜査官、青木一行とともに露口の脳内捜査を開始する。しかしそこに映っていたのは、刃物を振り回す絹子の姿という予想外の映像だった。冤罪の可能性が濃厚となる中、薪たちは当時事件を担当した刑事・眞鍋を捜査に加え、絹子の行方を追うとともに事件の真相究明に乗り出すのだったが…。


/// end of the “cinemaアラカルト255「秘密 THE TOP SECRET”///

 

(追伸)

岸波

 実はこの『秘密 THE TOP SECRET』のほかにもう一つ、原作をスポイルしている映画化作品があります。

 それはあの『宇宙兄弟』。

 主人公の一人、南波六太(なんば むった)を演じた小栗旬クン・・彼は作品を選ばず、時々ヘンな映画に出てしまうクセがあるのですが、これもそう。

 原作は2008年から「モーニング」に連載されている小山宙哉氏による人気漫画ですけれど、これが映画化されたのが2012年。

 観に行きましたとも、ケイコを連れて。だって僕らは原作の熱狂的なファンですもの。しかあしっ!!

 何ですかこのチープな作りは?俳優たちの演技はまだしも、とにかく脚本がズサン。そして音楽も酷い。

 最悪なのはラストシーン。

 月面の滑落事故で取り残された弟、南波日々人(なんば ひびと:岡田将生)が救出されたシーンを描かず、クレーターの底から相棒をヨッコラショと背負って「ファイトいっぱーつ!」と、力技で全てを解決してしまったような演出。

 その後はフラッシュバックのスピード進行で、数年後に兄弟揃って宇宙ロケットに搭乗し、目出度しメデタシ・・って、舐めてんのか、オイっ!(笑)

 違うんだよ、あの作品のいい所は。夢を達成・・ソコじゃなくてそのために必死に努力している姿に泣かせられるんだよ。

 ん? 考えてみればコチラにも岡田将生クンが出てる!?

 キミもちょっと、作品をよく選ばないとヘンな俳優のまま終わっちゃうよ。気を付けようね(笑)

 

 では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See you again !

「秘密 THE TOP SECRET」舞台挨拶にて

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Give the author your feedback, your comments + thoughts are always greatly appreciated.

 

To be continued⇒  “cinemaアラカルト256” coming soon!

 

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