こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
どれだけ祈れば、
あの子は帰ってくるの---?
Amazonプライムで2008年のサスペンス映画『チェンジリング』を鑑賞いたしました。
監督はあの名優・名匠クリント・イーストウッド、主演はアンジェリーナ・ジョリー。
そう・・例によって全く事前情報なしに、アンジーのアクションを期待して見始めたのです。
しかあしっ!!
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チェンジリング
(C) 2008 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED. |
実はこの映画、アンジェリーナ・ジョリーのアクションは存在せず、彼女の意外な一面を見直す作品となりました。
うん、考えてみれば、監督としては超社会派のクリント・イーストウッドが安易にアンジーのアクション映画を撮るはずがない(笑)
ということで、さっそく映画の内容は?
映画の冒頭、古めかしくムーディな音楽とともに「CHANGELING」のタイトルが現れ、その後に「A true story 真実の物語」という字幕が。
ん? どう考えてもこれはスパイ・アクションの趣きではない。しかも実話ベース!?
さらにファースト・シーンでは「1928年3月9日 ロスアンゼルス」の文字と共にモノクロ映画のような古い街並みとクラシック・カーが走る風景。
そして、シリアルで朝食を摂る母親のアンジーと小学生くらいの息子・・どうやら二人は大恐慌前のアメリカで生きる母子家庭のようだ。
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チェンジリング
(C) 2008 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.
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息子のウォルターをロースクールへ送り届け、母クリスティン・コリンズ(アンジェリーナ・ジョリー)は電話会社へ。彼女はアナログの電話交換機を大勢の女性社員が手動で繋いでいるフロアのマネージャーという事が分かる。
翌日、早速事件が起こる。仕事の帰りに一寸したことでひと電車乗り遅れて帰宅すると息子のウォルターの姿が見えない。
警察に捜索を依頼するが「一晩くらい姿が見えないくらいで警察は捜査しない。明朝になればきっと帰ってくる」と取り合ってくれない。
結果、これが悲劇を生むことになり、ウォルターはそのまま行方不明に。
そして5年後、警察から息子が見つかったという嬉しい報せが。
連絡をくれたジョーンズ警部(ジェフリー・ドノヴァン)と共に、息子が送り届けられる駅へ向かうクリスティン。
しかし、列車を降りてきたウォルターを名乗る少年は全くの別人。「彼は息子ではない」と訴えるも警部は耳を貸さない。(何でそんなことに!?)
「貴女が気が動転しているせいだ」と一蹴され「とにかく家へ連れて帰れ」と。殺到する報道陣を前に無理やり笑顔の親子写真を撮らされ、少年を連れて帰宅。
「貴方は本当は誰なの?」と問い詰めるも少年はウォルターだと言い張り、次第にクリスティンは自分の記憶がおかしくなっているのかと思い始める。(あらららら・・)
しかし少年を入浴させると、その性器にはある筈のない「割礼」の跡が・・もしやと思い、失踪前に身長を測った柱の傷と並ばせると7センチも少ない・・やはり別人だ!
警察に抗議するも、警察は全く聞く耳を持たない。むしろクリスティンが育児放棄をする異常な母親だとして、精神病院に強制入院させてしまう。(酷いなコリャ・・)
強制入院・・
と、まあ、いったい彼女の周囲に何が起こっているのか、さっぱり分からない急展開。
いったいこの警察の対応はどういうワケなのか? はたまた精神病院に放り込まれた彼女の運命は? そして、ウォルターの安否や如何に?
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チェンジリング
(C) 2008 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.
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タイトルの「チェンジリング」は、WikiPediaによれば「取り替え子。ヨーロッパ民話に登場する妖精、人間の子供をさらった後に置いていく身代わり(妖精の子供)」だそうな。
そしてこの話は、タイトルバックにあったように実際に起きた『ゴードン・ノースコット事件』と呼ばれる事件がベースです。
と言うか、(クリスティンの強制入院なども含め)ほぼ忠実に再現しており、90年以上も前の事件であることから、登場人物もみな実名のまま。(なるほど)
現実のゴードン・スチュアート・ノースコットは何人もの少年を誘拐し、性的虐待の後で殺害を重ねていたシリアル・キラー。
少年らを自らの歪んだ性欲のはけ口にしたばかりでなく、金銭目当てに同様の嗜好を持つ「客」に貸出し、飽きて必要がなくなると撲殺して生石灰で身体を溶かして骨を自分の牧場に埋め、次々と別の子供を誘拐するというまさに鬼畜の所業。
実際の誘拐殺人犯ゴードン・ノースコット
何故、犯行が露見したかというと、ゴードンは引き取っていた14歳の甥サンフォードを脅して殺害を手伝わせていたのですが、耐えらなくなったサンフォードが警察にタレこんだのです。
映画の中では、甥のサンフォードが「20人以上殺した。その後は数えるのをやめた」と。
それにしても、ロス市警のムチャクチャな対応はどうしたことか?
実は、当時のロス市警は極度に腐敗しており、麻薬や売春を「目こぼし」するための賄賂は当たり前でした。
むしろ、自分たちの「あがり」を確保するためには、商売敵のギャングを問答無用で撃ち殺すなど、信じられない腐敗ぶりだったと言います。
映画の中でも、捉えたギャングらを(裁判なしで)並ばせて撃ち殺す「狙撃隊」のエピソードが描かれており、キリスト教会が市警の無法を糾弾していました。
屈辱的な局部の検査
これらロス市警と悪徳政治家、精神病院の医師らは金で結託しており、映画の中で強制入院させられたクリスティンの運命は実に過酷。
入院に当たっては全ての情報と外部との連絡を遮断され、素っ裸にされて消防ホースで冷水を浴びせられ、足を開かされて局部を検査される・・もう人間の尊厳などあったものではない。
さらに望まぬ薬物を無理やり投与され、次第に無気力になっていく。それでも勇気を振るい起して医師や看護師に抗議すると、全身を拘束されて気絶するまで電気ショックを与えられる。
しかも・・こうした運命にさらされたのはクリスティンばかりではなかったのです。(ええ~!)
警察に反抗的な態度を取ったことで精神病院送りにされた女性たちは「コード12」と呼ばれ、クリスティンの収容された病院の中にも大勢いたのです。
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グスタヴ牧師とクリスティン
(C) 2008 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.
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クリスティンの窮地を救ったのは、警察の腐敗を糾弾する運動の先頭に立っていたキリスト教会のグスタヴ牧師(ジョン・マルコヴィッチ)。
悪人ばかりが出てくる映画の中で、彼の存在にはホントに救われた。
行方知れずとなっていたクリスティンの収容先を突き止め、彼女を解放することに成功。合わせて多くの「コード12」の女性たちも解放される。
また、この事件を動かぬ証拠としてマスコミを動かし、ロス市警を公開査問委員会の場で糾弾することに。
一方、警察内部でも組織ぐるみの腐敗に与せず、ウォルターの行方を追っていたヤバラ刑事(マイケル・ケリー)が、たまたま別件で捉えたサンフォード少年(連続誘拐殺人犯ゴードンの甥)の証言から全貌を知ることになり、遂に真犯人ゴードンを捕える事に成功。
しかし、事ここに至っても、ロス市警は事件を隠ぺいしようとする・・とりあえず、偽ウォルターを本当の母親の許に返し「真実が明らかになった」と美談で終わらせようとする。
この辺り「胸クソ」です。
「どうせウォルターはもう死んでいる」・・誰もがそう考えているが、遺骨が特定されないので母親のクリスティンだけは諦めない。
そして、誘拐殺人犯のゴードンは法廷でクリスティンに告げる・・「アンタのウォルターは殺していない。あいつは天使のようだったし」。(ええ~!)
ならばウォルターは、いまどこに・・?
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チェンジリング
(C) 2008 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.
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とにかく映画の中でのロス市警のクソっプリにはあきれるしかない。
それなりに平和に暮らしている現代日本から考えると、悪徳市長や警察、病院など公的機関が全部敵というクリスティンの置かれた状況に驚愕です。
もう、全く異世界の出来事のよう・・もしかすると現代でも、独裁国家や後進国家では同じような状況にあるのでしょうけれども。
こうした絶望的な状況の中にあっても、息子の無事を信じ続ける母親の強さ。まさにアンジー、一世一代の熱演です。こういう演技もできるのだと改めて刮目。
そして、この話が実話だということで、母親の気持ちを考えると胸が苦しくなる思い・・唯一の救いは、このクリスティン事件が契機となってロス市警の腐敗が一掃され改革が進んだと言う事でしょうか。
連続殺人犯のゴードンは取り乱し半狂乱のまま13階段を登らせられてクリスティンらの見守る前で絞首刑となりますが、現場となったワインヴィルという町は事件があまりにもマスコミで騒がれたために地名を変更し、現在は存在していません。
ただ、驚くべきことにゴードンの住んでいた家はそのまま現存しており、イーストウッドも映画の撮影前に現地を訪れたそうです。
かなり恐ろしい気もする。
クリスティンは三つの敵・・成りすましの少年、ロス市警(と政治家と病院などの一味)、真犯人ゴードンと戦うことになり、これがストーリーを複雑にさせています。
逆に味方となったのは、教会のグスタヴ牧師と執念で真犯人を追いつめるヤバラ刑事・・もし彼らが居なかったなら、きっと悲惨な人生だったでしょう。
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チェンジリング
(C) 2008 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.
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映画の終盤、ゴードンの魔の手から逃げおおせたという少年が登場します。
彼は実の母親と再会することができクリスティンも共に喜ぶのですが、ヤバラ刑事が事情を聴取する中で「ウォルターに助けられて一緒に逃げ出したが、バラバラに逃げたので彼の消息は知らない」という重要証言が。
それを聞いたクリスティンはヤバラ刑事に「まだ息子が生きているという希望がありますわ」と。(気丈だな)
そして歩み出し、もう一度振り返ってヤバラ刑事が帽子を上げて応えるところで映画は終わります。
今思うと彼女が「希望がある」と言ったのは、息子の生存だけではなく、こんな腐った世界の中でも真実を追及するヤバラ刑事のような人が居るという事だったかもしれません。
ハラハラドキドキのサスペンス、そして真実の重さ・・実に感銘深い映画でした。
/// end of the “cinemaアラカルト253「チェンジリング」”///
(追伸)
岸波
結局、現実のクリスティンは息子との再会を待ち続け、果たせない中で天寿を全うしました。
まだDNA鑑定など無かった時代の話ですから、消石灰で劣化した人骨だけでは個々の被害者特定には至らず、ウォルターの死はゴードンの証言だけが警察判断の拠り所でした。(うち3名の被害者が特定され、それを根拠にゴードンは死刑となった。)
一縷の望みがある限りは決して諦めない・・それが「母親」というものでしょうね。
それにしても重い映画でした。決定的なカタルシスもありませんし、年寄りにはちょっと応えますね。
アンジーのアクションもの・・という誤解がなければ、多分、観なかった映画だったと思います(笑)
では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See you again !
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