こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
ただいま。このひと言のために、旅に出る。
1969年の第一作「男はつらいよ」から50年目にして第50作の「男はつらいよ お帰り 寅さん」をケイコと観てまいりました。
一人の俳優が同じ役を長年演じてきたという輝かしいギネス記録のシリーズ。前作「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇」から何と22年の年月が流れたのですね・・(遠い目)
今回は50年・50作と重なるところが何とも嬉しい限りですが、もしかするとその「節目」を狙って企画されたのではありますまいか。
しかあしっつ!!
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男はつらいよ お帰り 寅さん
(C)2019 松竹株式会社
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映画としては50年目に当たりますが、もともとこの「男はつらいよ」は1968年にフジテレビ系列で放映されたドラマシリーズ。
ドラマ自体はヒットしましたが、最終回で車寅次郎(渥美清)が奄美大島でハブに噛まれて死んでしまうというあまりのバッドエンディングに視聴者が激怒。
これに応えて映画版で再スタートしたというのがウソのようなホントの話。
さて、映画版50本のうち何本観てきたかな・と考えてみましたが、マドンナの違いはあれ筋立て自体は(良い意味の)ワンパターン。どれがどれだったやら・・。
まあ、テレビの再放映なども入れれば10本は下らないはずですが、そのくらいで「寅さん」を語るのはおこがましい限り。(スイマセン)
しかし・・・今回の鑑賞では、涙が流れっぱなし。いやもう、映画が終わってからも目が真っ赤で外を歩いて非常に恥ずかしい思いをいたしました。
こんなに泣いたのは何年ぶりでしょうか。でも、僕の涙が止まらなかったのは僕自身の理由によります。
そんなこんな・・語らせていただいきたいと思います。
車寅次郎(渥美清)と言えばとにかく惚れっぽい。しかも相手は飛び切りの美人ばかり。
テキヤ稼業で全国を放浪し、旅先で意気投合した美女を連れて葛飾柴又帝釈天にある実家のだんご屋に帰郷し、そこで妹のさくら(倍賞千恵子)の一家とひと騒動というのが毎度お馴染みのストーリー。
まあ結局、寅さんの恋は実らないというのもお約束なんですが(笑)
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男はつらいよ お帰り 寅さん
(C)2019 松竹株式会社
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しかし今回は大問題が・・何せ、当の渥美清が亡くなっていて、寅次郎の新たな演技を見せることができないのですから。
そこで山田洋次監督が用いた秘策が、甥の満男(吉岡秀隆)を主人公として「その後」の物語を描き、回想シーンで寅さんを挿入する・というもの。
「その方法を提案したのは自分だ!」という騒動がありましたが、その件には触れません。誰でも思いつく方法だし、「ターミネータ―」などはCGで昔の俳優を動かすところまでやっていますから。
そういう手法を取ることにより、様々な時代の多くの恋~そしてマドンナたちを登場させることができる、まさに記念作品に相応しいものとなりました。
冒頭のシーン・・いつもの寅さんですと、いきなりフーテンの寅さんが登場する小ネタがあり、そこから「男はつらいよ」のタイトルバックになるのですが、今回は違う。
ラストで登場するはずの渥美清:歌唱による「テーマソング」が冒頭から流れる・・でもなんかおかしいぞ?
実は今回、冒頭で「♪オ~レがいたんじゃお嫁にゃ行けぬ わかっちゃいるんだ妹よ~♪」と歌っているのは、桑田佳祐。しかも歌唱シーンは実写で登場。
「違和感がある」というご意見もあるようですが、僕はまあ、よろしいんじゃないかと。
なにせ前作が22年・・ふた昔以上も前。この流れのはやい現代においてレトロ映画ファンならともかく、寅さんをほとんど知らない世代も多いでしょうから。
東京オリンピック2020のイメージソングを作詞・作曲して歌う桑田佳祐さんなら役者として十分。しかも桑田さん・・ものすごく頑張って歌っているのが伝わって来ます。
主題歌 桑田佳祐
むしろ本人の方が、とんでもないプレッシャーがあったと思います・・それが顔に出ているのです。
なぜこういう演出をしたか?
シリーズのお約束は、冒頭の小ネタがあり、そこで寅さんによる自己紹介~『私 生まれも育ちも葛飾柴又です 帝釈天で産湯を使い 姓は車 名は寅次郎 人呼んでフーテンの寅と発します・・』があり自ら歌うテーマソング「男はつらいよ」に繋がります。
つまり、この三つはワンセット。
しかしながら「新たな」小ネタを撮影する術がない以上、パターンを崩すしかない・・そこで指名されたのが、今や日本を代表する桑田佳祐氏だったのでしょう。
ここはひとまず「よくやった桑田!ビバ桑田!」・・エールを送りたいと思います。
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男はつらいよ お帰り 寅さん
(C)2019 松竹株式会社
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映画は、脱サラし小説家として芽が出始めた甥の満男(吉岡秀隆)が亡くなった妻の七回忌の法要から。
おいちゃん(車竜造:森川信)とおばちゃん(車つね:三崎千恵子)は既に亡くなり遺影として登場。
妹のさくら(倍賞千恵子)とその夫のヒロシ(前田吟)は健在だけれどもかなり歳を取った様子。
当の満男(吉岡秀隆)は亡くなった妻との一粒種ユリ(桜田ひより)との二人暮らし。
満男とユリ
シリーズも22年ぶりですが、キャストも同じだけ歳をとっているワケで、時の流れを感じます・・。
そんな満男(吉岡秀隆)が新作出版記念のサイン会をすると、現れたのが、かつて満男が思いを寄せていたマドンナの泉(後藤久美子)。
寅さんの思い人ではないので、厳密には「マドンナ」とは言えないでしょうが、今回のヒロイン役です。
泉はダメダメな両親の下での悲惨な生活から抜け出すために、満男の思いを知りながら海外留学で新生活を始めました。
今は海外で結婚して子供も授かり、国際環境NPOのような仕事に携わっていましたが、母親(夏木マリ)と離婚して入院生活を送る元・父親(橋爪公)が危険な状態となり、看取るために帰国していたのです。
と言うわけで、満男と泉の再会をきっかけとし、互いにお世話になった寅次郎の思い出を辿りながらストーリーは進行します。
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男はつらいよ お帰り 寅さん
(C)2019 松竹株式会社
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さて、その後藤久美子ですが、実生活でもフランス人F1レーサーのジャン・アレジと結婚し、ジュネーヴの古城を改装した邸宅に住む長い海外暮らし。
何と23年ぶりのスクリーン復帰となったのです。
女優業から離れていたこともあって、今回の復帰出演は嬉しさ半分、困惑半分だったのではないでしょうか。
「セリフ、棒読み!」
ええ~!! ヾ( ̄0 ̄; )ノ
~と、ケイコから厳しいダメ出しがありましたが、確かに歴代の寅さんマドンナから見ると、バリバリのキャリアウーマン過ぎる・・。
もちろん今でも美しいのですが、一個の人間として社会と対峙する生き方をしてきたからでしょうか、人情味たっぷりの愛されるキャラとは別のキャラになっているように思います。
かつて「男はつらいよ 僕の伯父さん」(1989年公開)に登場した30年前のゴクミといったら、それはもう可愛らしいお嬢さんでした。
寅次郎紅の花(1995年)
今回の設定からすれば、どうしてもかつて泉を演じた彼女でなくてはならなかったのでしょうが、寅さん映画には馴染まないマドンナとなったことは否めません。
ご本人は・・「自宅に山田監督からお手紙が届きまして、こういう作品を作りたい。だから君が必要だと、どうにか考えてもらえないだろうかと長い手紙を読んでいる時に山田監督の『男はつらいよ』という作品への大きな愛情と新作への情熱というものをひしひしと感じられて手紙を読み終えるころには、はいと一つ返事で行くしかないという想いでした。久々というのはなくて、“おかえり”、“ただいま”という感覚です」とのことでしたが、ちょっと準備期間が足りなかったかな。
まあ、歴代のマドンナたちはそれぞれの時代を代表する大女優だったわけで、ストーリーの都合上、急遽女優に復帰した彼女を責めるのは酷なようにも思います。
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男はつらいよ お帰り 寅さん
(C)2019 松竹株式会社
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一方、本当のマドンナ役として登場したのは第11作「寅次郎 忘れな草」から前作「寅次郎 ハイビスカスの花特別編」まで通算5回と言う最多マドンナを演じてきた浅丘ルリ子。やっぱり彼女はいいなぁ・・。
今回、満男は泉に「君に会わせたい人がいる」と言って連れて行ったのがリリーさん(浅丘ルリ子)の経営する小さなジャズ喫茶。
寅さんとの思い出を語る中、過去の出演作の名シーンがバンバン出てきます。若い頃のリリーさん、いえルリ子さんがどんだけ美しかったか知ってますか?
もうね・・この世のものとは思えない美しさだったんですよ!(ハァハァ…)
←(入れ込み過ぎ)
リリーと寅次郎
で、現在のルリ子さん・・もうかなりのお歳を召されているはずですが、スクリーンの中では相変わらずに可愛らしい。さすが大女優です。
しかも!
今回の映画の中では、「寅さんと一緒に暮らしたこともある」・「プロポーズもされた」・「自分も受け入れようと思った」・・けれども"お約束"で一緒になれなかった・という秘密も大暴露。
だよねぇ、やっぱり寅さんの最高のマドンナはこの人だよね。
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男はつらいよ お帰り 寅さん
(C)2019 松竹株式会社
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さらに、妹さくら役の倍賞千恵子さん・・初期の映画の回想シーンで登場したピュアな魅力に脱帽です。
「ええ~ こんなにキレイだったんだ!?」・・あれから50年後の現在、同じようにさくらを演じていますけれど、50年前の面影がたしかにあるんです。
第1作「男はつらいよ」のさくら
また、かつてマドンナ役も演じながら今回も泉の母親役で登場した夏木マリさん・・この人も老けませんね。
まあ、泉の母親はダメダメな人間なんですけれども、こういう役(ある意味の憎まれ役)を体当たりで演じる彼女、大したものです。
そして吉永小百合、三田佳子、長山藍子、松坂慶子、竹下景子、大地喜和子・・ラストシーンで歴代マドンナたちのフラッシュバックが続くのですが、まさに壮観。
「男はつらいよ」という映画が、時代の世相を映しながら日本とともに歩んできた・・まさにその証拠を見るようで感無量でした。
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男はつらいよ お帰り 寅さん
(C)2019 松竹株式会社
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そして・・この僕はと言えば、もう途中から泣きっぱなし。
いえ、懐かしさに酔ったわけではないのです。
寅さんの一家が、過去に色々な困難を乗り越えてきた場面を眺めるうち、自分とケイコが歩んできた人生が重ね合わせて見えたからです。
おそらく、そんな想いでこの映画を観た人は大勢いるのではないでしょうか。
どんな家族にもどんな人生にも困難はあるもの・・いや、あって当然。それを弱い人間どうしが支え合って今がある。
男はつらいよ純情篇
「男はつらいよ」では、ここ一番という時、もっとも頼りになるのがあの寅さんでした。
今回の映画の中では、若い時の満男の失敗を身を挺してかばうシーン・・渥美清さんの言葉って、なんでこんなに胸に届くのでしょうか。
「そいつを言っちゃぁいけねーよ」
いろいろな回で出てきたこのセリフも、そのシーン、その声、その表情で言われるとグサッと心に突き刺さるのです。
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男はつらいよ 寅次郎とハイビスカスの花
(C)1980 松竹株式会社
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この先にも「寅さん」の新作はあるのか?
それはもうあり得ないでしょう。22年ぶりの真・完結編として、大切なことは十分に出し切りました。
ラストシーンで、超豪華歴代マドンナのフラッシュバックも流れたことだし。
しかし、現在では少なくなった人情物の映画・・いつの日か、新たなコンセプトで寅さんを越えるシリーズが出て欲しいと思うのは僕だけでしょうか。
さよなら寅さん、そしてありがとう。
/// end of the “cinemaアラカルト233「男はつらいよ お帰り 寅さん」”///
(追伸)
岸波
最終最後のラスト(?)で、渥美清が自ら歌う「男はつらいよ」のテーマが流れます。
いま改めて聞くと、なんと味のある声なんでしょう。
彼の本気モードの真面目なセリフと同様、妹家族を思いやる優しい兄の想いが伝わってきて、ここでもまた泣きそうになりました。
こんなタイプの歌い手は、後にも先にも彼一人。孤高のオンリーワンでしょう。
映画の冒頭で当代を代表する桑田佳祐さんが同じ曲を熱唱して感じ入りましたが、やはりココは渥美清の勝ち。
それは誰も異論を挟めないところでしょう。
では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See you again !
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