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「Blue Island」(TAM Music Factory)
by 岸波(葉羽)【配信2019.3.2】
 

◆この記事は作品のストーリーについて触れています。作品を実際に楽しむ前にストーリーを知りたくない方は閲覧をお控えください。

 こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。

 正義を、語れ。

 池井戸潤の原作による「七つの会議」をケイコと観てまいりました。

 何年前になりますか「下町ロケット」にハマってから池井戸潤ナンバーをコンプリートしている僕としては、必ず劇場に足を運ばなければならない作品でございます。

七つの会議

(C)2019映画「七つの会議」製作委員会

 「七つの会議」は2012年5月から一年にわたり日本経済新聞の電子版に連載されていた作品。

 翌2013年には、東山紀之主演によりNHKでテレビドラマ化されました。

 今回の主演は狂言師の野村萬斎。

 彼は僕が務めていた福島県文化振興財団の主催事業の古典劇場にも毎年来ていただいており、昨年11月にも野村万作・萬斎親子による狂言公演がありました。

 そんな縁の浅からぬ野村萬斎氏が大好きな池井戸潤作品の主演を務めるというのですから、これは行かないわけにはいきません。

 ということで、早速、映画の内容は?

 

 映画の冒頭、都会の朝に激しく行き来する車の渦が映し出されます。

 最初の視点人物は中堅電機メーカー東京建電の営業第二課長原島万二(及川光博)。

 原島万二(及川光博)

 万二の名前の通り(笑)何をやっても二番手にしかなれないイマイチうだつの上がらない管理職。

 上司の営業部長北川誠(香川照之)からはいつも厳しいノルマを課せられ、達成できずに叱責を受けています。

部長に叱責されて椅子ごとコケる原島課長(及川光博)

(C)2019映画「七つの会議」製作委員会

このシーンが重大な意味を持っていたことが後に判明します↑

 この朝の会議でも目標未達の成績にさんざん悪態をつかれ、「いや、自分の担当する白物家電は夏に売れた反動で消費が冷え込んでおり…」などと言い訳をしたものだからたまらない。

 隣に並んだ営業一課のメンバーが常に前期を上回る成績を残していることと比較され、「景気のせいにするな!」と一喝される始末。

 次に営業部のエースである営業一課長坂戸宣彦(片岡愛之助)が誇らしく成果を説明して着席すると・・・突然のイビキ!!!?

 それは、部長と同期でありながら未だに万年係長の席を温めている八角民夫(野村萬斎)のイビキでした。(ええ~どうなるの!?)

八角は「ヤスミ」と読みますが、ストーリーの中では「ハッカク」と呼ばれ、「居眠りハッカク」という異名があります(笑)

坂戸宣彦(片岡愛之助)と居眠り八角(野村萬斎)

(C)2019映画「七つの会議」製作委員会

 冒頭からこんな感じ。グイグイと観客を引き込んでいきます。

 しかもこのメンバー…香川照之、片岡愛之助と来れば堺雅人のTBS系ドラマ「半沢直樹」を思い出さずにはいられません。

親会社の社長役で北王寺欣也も出てきます。

 となれば、この作品は「半沢直樹」のキャストが舞台を替えて池井戸原作に挑戦ということになりますから、当然にあの半沢直樹・堺雅人の強烈な個性と八角を演じる野村萬斎の演技対決が最大の見どころと言えましょう。

 半沢直樹(堺雅人)

 結論から言えば、今回の野村萬斎は堺雅人に匹敵する個性を打ち出すのに成功しています。

 最近では池井戸作品を映画化した「空飛ぶタイヤ」で長瀬智也が主人公を演じましたが、半沢直樹の「倍返しだ!」のようなカタルシスを得られなかったのは、主人公が「普通のイイ人」だったからでしょう。

ディーン・フジオカや高橋一生まで投入しましたが、存在感イマイチ。

 だが、野村萬斎が演じる八角は違います。そもそも不良社員で唯我独尊。およそ池井戸作品で主人公を張るタイプの人物ではない。

 そんな八方破れの社員を、本当はこんなに紳士然とした野村萬斎氏が見事に演じきっていることに驚愕です。

 ←普段の野村萬斎

 第一の会議での居眠り事件以来、坂戸課長(片岡愛之助)の八角(野村萬斎)に対する風当たりは強まる一方。

 毎日のように処理しきれないほどの書類の整理を命じられ、遂には社員の権利であるはずの休暇願も、ビリビリに破られて頭からかけられる始末。

八角(野村萬斎)と坂戸課長(片岡愛之助)

(C)2019映画「七つの会議」製作委員会

 そんなある日、板戸課長がパワハラで訴えられているとの噂が。となれば訴えたのは当然に居眠り八角?

 しかし、日ごろの素行を知る同僚たちはてっきり却下される…と思いきや(!)板戸課長が更迭されて総務付きで自宅待機処分に。(なんでそうなるのー!?)

 第一課長の席に抜擢されたのは万年二番手の原島営業第二課長(及川光博)。命じる方も心配だが本人はもっと心配(笑)

 今回の件は八角(野村萬斎)が何か仕掛けたのではと疑う原島は八角の行動をリサーチ。

 すると・・・

 八角は今でこそ万年係長だが、もともと北川部長(香川照之)と同期で、若い時には驚異的な営業成績を残した敏腕社員であったことが判明。(なぜ…?)

 北川誠(香川照之)

 そして坂戸が失脚後、もともと坂戸が招き入れたベンチャーネジ工場トーメイテックを切って、元々の下請け町工場「ねじ六」に戻したことを突き止めます。

 この八角による「ねじ六」への発注替えに疑念を抱いた人物がもう一人いました。それは経理課の新田(藤森慎吾)。

 彼は、八角が提出した伝票を落とせないと本人に通告した時に、満座の中で逆襲されたことで恨みを抱き、八角のアラ探しをしていたのです。

 経理課の新田(藤森慎吾)

 ねじ六に発注していたのはチタン合金のUNJネジ。パイプ椅子などの家具にも使われるが新幹線や航空機の座席にも用いられる高強度のネジでした。

 板戸課長が着任した時に「これからは経費削減のため入札にする」と通告され、競争相手のベンチャー企業トーメイテックが半値近い安値で応札したことから、下請けを排除されていたのです。

「もう一度発注を戻すと言われても、あんな安値では元が取れません」

 ~と言うねじ六の工場長に対し、八角は「仕入れ値はそちらで言う値段で構わない」と、わざわざコストを上げて発注替えをしていました。

「きっと、バック・リベートを受け取っているに違いない」

 経理課の新田(藤森慎吾)は、いいネタを掴んだとばかりに調査を開始します。

七つの会議

(C)2019映画「七つの会議」製作委員会

 さてこの「七つの会議」、新聞連載した池井戸潤の原作では長編小説ではなく群像劇の「連作短編集」として書かれました。

 したがって、各話の視点主人公はどんどん変化していきます。

新聞連載では7話。単行本化にあたって1話追加され8話となった。

 実は今回の映画を見るにあたり、誰が主人公なのか掴めませんでした。

 それもそのはず、第1話はそもそも小説で営業第二課長原島万二(及川光博)が視点の話でしたし、映画で主人公に設定されている八角(野村萬斎)は登場するなり居眠り・サボタージュと主人公らしからぬキャラクターでしたから。

ちなみにTVドラマ版での主人公は、原島課長(東山紀之)でした。

 原島課長役(東山紀之)

 映画では、場面が進むにつれて八角が主人公であることが明確になって来るのですが、それは八角の不良社員ポーズがかりそめであったことと軌を一にしています。うまい造りだと思います。

 八角がモーレツ社員をやめた理由…「オレは人を殺しているんだ」の真意、彼の複雑な家族関係、他人には見えないところで(勝手に)会社のために重要な調査を行っている事実が次々と明らかになって来るのです。

 八角が気づいた事実は最初は些細なものでした。

 それはまさに、映画の冒頭で原島課長が部長の叱責を受けて椅子に座ろうとしたその時、パイプ椅子がバラバラに分解されたシーンでした。(※小説では別)

 特に強い圧をかけた訳でもなく普通に座ったのに椅子のネジが折れる…しかもその椅子は自社製品です。

 その折れたネジこそ、板戸課長が引き入れたベンチャー企業に安値で発注したもの…。

 八角民夫(野村萬斎)

 果たして、八角の極秘調査の結果は「強度不足」(!)

 仕様の半分程度しか満たしていない不良品だったのです。今回は社内のパイプ椅子だったからよかったものの、それは新幹線や航空機にも納入されている。

 露見してリコールをかければ、その間の新幹線や航空機の運航をストップしなければならない! …賠償費用も巨額のものになるでしょう。

「それでも事実を公表しなければならない。」

 八角の孤独な闘いが始まります。

七つの会議

(C)2019映画「七つの会議」製作委員会

 今回の映画「七つの会議」では、野村萬斎の熱演(怪演?)に引きずられて、俳優たちの熱がスクリーン全体に広がっています。

 映画の予告編にも使われている香川照之の咆哮シーンも物凄い迫力。

 北川誠(香川照之)

 親会社から東京建電に出向していた折に北川や八角の上司であった梨田元就(鹿賀丈史:現・親会社ゼノックス常務)は、成果至上主義を提唱して建電をブラック企業に変えた張本人。

 悪の黒幕という役柄なのですが、これが憎たらしいったらありゃしない。…それだけ加賀丈史が名演技だったということでしょう。

 梨田常務(鹿賀丈史)

 また、会長役の北王寺欣也もさすがの重厚演技。

実は今回は最終的に悪役っぽい…。

 ゼノックス社長(北王寺欣也)

 はたまた、お久しぶりの登場、世良公則。

 村西副社長(世良公則)

 彼は、エンディングロールを見るまで出演していることに気づきませんでした。…ってか、この村西副社長は別人と思ってました(爆)

七つの会議

(C)2019映画「七つの会議」製作委員会

 さて、たとえ会社が潰れても企業の社会的責任を果たすと決めた八角の闘いは功を奏するのか?

 決着の御前会議(親会社ゼノックス社長(北王寺欣也)を囲む最高意思決定会議では、思わぬ味方が登場して…。

 まさに息を持つかせぬ展開。いい映画でした。

 

/// end of the “cinemaアラカルト213「七つの会議」”///

 

(追伸)

岸波

 深刻になりかねないストーリーの中で、清涼剤というか箸休めというか、ホッとさせてくれた人が三人。

 一人目は原島課長役の及川光博さん。「何でも二番手」の情けない役どころですが、その”情けなさ”を上手に表現していました。

元々は二枚目なのにね♪

 もう一人が経理課の新田役、藤森慎吾さん。はい、チャラ男クンです(笑)

 本人はバラエティ番組で「自分の演技を見てくれ!」と力説してましたけど、突っかかって敢え無く撃沈する軽い男がとてもはまり役。←(演技を褒めてます)

 最後に、寿退社を考えている営業一課員の浜本優衣を演じた朝倉あきさん。

 浜本優衣(朝倉あき)

 実は寿退社というのは嘘で、歳も歳だし彼氏にフラれたしということで、見栄退社だったのですが、その彼氏というのが妻子持ちの新田(藤森慎吾)であったというオチ。

 でも、辞める前に会社で「何か一つ」やり遂げたいと、ブラック環境を癒すための無人スナック販売所を設置しようとするのです。

 この試みが、重要なストーリー進行のキーになってくる辺り、さすがに池井戸潤の創作は奥が深いです。

原作の第3話「コトブキ退社」の主人公:視点人物でもあります。

 やはり、良いストーリーというのは一本調子ではなく、実社会と同じように様々なタイプのキャラクターが絡み合うものだと思います。

 

 では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See you again !

「七つの会議」舞台挨拶

(C)2019映画「七つの会議」製作委員会

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To be continued⇒  “cinemaアラカルト214” coming soon!

 

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