こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
全員を疑え。犯人はこの中にいる。
皆様、本当にお久しぶりでした。この1月中旬に開催した国際シンポジウムの臨戦態勢に入って4か月、映画と無縁の生活を送っていたわけでは全くないのですが、書く気力がありませんでした(笑)
で、この週末に封切られた「マスカレード・ホテル」ですが、国際会議をコンプリートした上で初の劇場行きとなりました。
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マスカレード・ホテル
(C)2019 映画「マスカレード・ホテル」製作委員会 (C)東野圭吾/集英社
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映画の原作は2008年12月から『小説すばる』に連載された東野圭吾作家生活25周年を記念する同名のミステリー小説。
僕は、まだ東日本大震災の爪痕も残る2011年の秋に単行本を購入して読んでいます。
ミステリーのプロットもさることながら、シティ・ホテルという特殊な業界の様々なルールや約束事、どれだけ多様な目的で人々がホテルを利用しているのか、その緻密な取材の成果にグイグイ引き込まれました。
ホテルマンのポリシーを一言でいえば「お客様の味方」。どんなことがあっても、お客様のプライバシーを尊重し、お客様を信頼することによって、そのホテルもまた信頼を獲得しているのだということがよく分かったのです。
しかし…世の中にはこれと真逆な業界(?)が存在します。
それは刑事。犯人を突き止め真実を暴くためには全ての人を疑う。そうしなければ真実に迫ることはできないのです。
この映画では、全く逆の立ち位置にあるホテルマン(ウーマン)と刑事が共同作業を余儀なくされます。
うん、これで面白くならないワケがない!
ということで、早速、映画の本編について…。
映画の冒頭、警視庁捜査一課の丁場が立ち、都内で発生した3件の殺人事件について説明がなされています。
一人は品川で薬殺されたと見られるプレーボーイ、二人目は千寿新橋で絞殺された女性、そして三人目は葛西でバットで撲殺された男性。
これら3件の事件の被害者には全く繋がりが確認されず殺害方法も全く異なることから一見、連続殺人には見えません。
ところが、現場には謎の文字・数字を羅列した紙切れが残されており、それらは殺害現場の緯度・経度と殺害時刻であることが判明しました。
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マスカレード・ホテル
(C)2019 映画「マスカレード・ホテル」製作委員会 (C)東野圭吾/集英社
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つまり第一の殺人現場に残された紙切れには、第二の殺人事件が起きる場所と時刻が残されており、その現場にあった紙切れは第3の犯行の予告であったワケです。
ここまで判明すれば、三つの事件を繋げて考えるほかありません。
そして、さらなる問題は…
第3の殺人現場には、これから起きるであろう殺人事件の場所と時刻を予告する紙切れが!
その予告された場所とは、都内の高級ホテル「ホテル・コルシア東京」でした。
第4の事件を阻止し連続殺人犯を逮捕するため、警視庁捜査第一課の刑事たちがコルシアホテルのスタッフに扮して張り込むことになります。
そのうち、最もお客様を第一線で迎えなければならないフロント・クラークには海外生活を経験し英語が堪能な新田浩介(木村拓哉)が抜擢。
新田浩介(木村拓哉)
彼の指導役としてベテランのフロント・クラーク山岸尚美(長澤まさみ)が付くことになります。
山岸尚美(長澤まさみ)
さてこのコンビ…というか、偽フロント・クラークの新田浩介(木村拓哉)が怪しまれずにホテルマンを務めることができるのか?
いやいやもちろんできませんよ、そんなに簡単には。まずはボサボサの髪型を整えて髭も剃ったりするのですが、どうしたって目つきが悪い(笑)
職業病とは言え、人を疑うのが仕事なワケですから…。
そんな新田刑事を叱咤激励し、一人前のフロント・クラークに仕立てていく山岸クラークの苦労たるや、もう笑い無しでは見ることができません(大笑い)
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マスカレード・ホテル
(C)2019 映画「マスカレード・ホテル」製作委員会 (C)東野圭吾/集英社
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この4つ目の事件(まだ発生していないが)には、決定的に欠けている情報があります。
それは犯人も分からなければ、狙われている被害者も不明であること。これはかなりキツイ条件です。誰を守ればいいのか分からないワケですから。
ということで刑事たちは、まずは「下見」に訪れるであろう犯人の目星をホテル客の中から付けなくてはなりません。
ところが… ホテルに訪れる面々たるや、いかにも怪しい人物ばかり。
結婚式の花嫁を付け狙うストーカー、夫の浮気現場を抑えようとする妻、ホテルで密会する政治家、超絶クレーマー…う~むぅ。
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マスカレード・ホテル
(C)2019 映画「マスカレード・ホテル」製作委員会 (C)東野圭吾/集英社
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最初の新田刑事の試練は、女連れで大きなバッグを抱えて退出しようとする怪しい男(髙嶋政宏)。
実はこの男、ホテルを退出するたびに部屋の高価な備品を持ち出している常習犯の疑いが。
山岸クラークは男をフロントに留め、その隙に部屋を確認すると、案の定、一着2万円もするバス・ローブが無くなっている…。
「お客様、申し訳ございませんが、手荷物の中に誤ってホテルの備品が紛れ込んでいないか確認していただけませんか?」
「俺が盗ったとでも言うのか!もし荷物の中に無かったらドースル!?」
髙嶋政宏
なおも抗弁しようとする山岸クラークを「もう一度、部屋を確認してまいります」と押しとどめたのが新田刑事。
新田刑事の直感の通り、バス・ローブは応接椅子の下に見えないように押し込んである…。
「ヤツは荷物を改めさせて、それをネタに金を要求する強請屋(ゆすりや)だよ。」
…さすが刑事の直感。
しかし、こういう客、実際の取材で居たんでしょうね。ホテル業も楽じゃないとつくずく感じました(笑)
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マスカレード・ホテル
(C)2019 映画「マスカレード・ホテル」製作委員会 (C)東野圭吾/集英社
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さて、この「マスカレード・ホテル」、こんな一癖もニ癖もある利用客が次々に訪れて捜査をかく乱していくワケですが、このプロットには大きなメリットがあります。
つまり、オールスターの俳優をチョイ役で大勢投入できるという事。そうそう三谷幸喜の「THE 有頂天ホテル」(2006年)がまさにそうでした。
今回も右(⇒)の背景画像のポスターにあるように、濱田岳、前田敦子、笹野高史、髙嶋政宏、菜々緒、生瀬勝久、宇梶剛士、橋本マナミ、田口浩正、勝地涼、松たか子らが珍客となって大いに捜査をかく乱してくれます(笑)
ただし… 全員を疑え。犯人はこの中にいる。
ってコレ、いいんでしょうか?究極のネタバレですよね(笑)
ところがっ!!!
このポスターって、結構アンフェアな作為が込められているのです。
「この中に居る」と言いながら、いつまでたっても登場しない人物が一人だけ居るのですよ。
しかも実はその人物、映画の結構最初の方から出ていて誰も気づかないように仕組まれているのです。
つまりは、その人物が真犯人であるという事なんですがね。
まあ、小説を読んでいても、さっぱり真犯人の見当が付かず、「誰だ?誰なんだ?」とグイグイ引き込まれるのも、それが理由なんですけど。
もちろん映画の中でも、しっかりと伏線は張られているのですが…気づかないだろうな(笑)
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マスカレード・ホテル
(C)2019 映画「マスカレード・ホテル」製作委員会 (C)東野圭吾/集英社
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ということでネタバレですが、最初に発生した3つの殺人事件は、実は連続殺人ではありませんでした。
これは現実にもよく起きている事件なので、感覚の鋭い方はピンと来るかもしれませんが、殺意を持った複数の人物が「闇サイト」で示し合わせ、あたかも同一犯と思わせて捜査をかく乱する手法だったのです。
もちろん「第4の殺人者」もその一員で、むしろほかの事件を利用して自分の犯行を目くらましする意図でした。
厳密にいえば、最初の3事件の犯人の一人が4つ目の犯行の実行犯です。
ただし、この全体構図が分かったとしても、4番目の被害者の特殊性から、本当に狙われている4番目が誰なのか予測するのは困難でしょう。
さて、4番目の被害者…これは、誰も予測できないと思います。というのも、彼女が狙われる理由について情報が開示されていないからです。
このへんはやはりアンフェア…なのかなぁ?
終盤で明かされる真犯人の女性は、かつて劇団で愛し合った恋人に妊娠させられた上で捨てられた人物。
その彼が泊っているはずのコルシアホテルを訪れ、フロントで彼の部屋番号を聞き出そうとしますが、客のプライバシーを重んじるスタッフによって情報開示を拒まれてしまいます。
思いつめた彼女は寒いホテルの外で一晩中待ち続け、その無理が原因で流産してしまったのです(涙)
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マスカレード・ホテル
(C)2019 映画「マスカレード・ホテル」製作委員会 (C)東野圭吾/集英社
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そう… それが第一の事件の犠牲者となった”品川のプレイボーイ”。
ところが、彼女の殺意はそれにとどまらず、情報開示を拒み、自分の流産の遠因となったコルシアホテルのフロント・クラークの女性にも向けられたのでした。
~というのが事件の全貌ですけれど、僕的には「そりゃないだろ~!」の一言です。
被害者の彼女…もちろん山岸クラーク(長澤まさみ)ですが、彼女は職務に忠実であっただけ。全くの”逆恨み”としか思えません。
真犯人は考えてみて下さい。「この中にいる」ポスターから(笑)
そりゃあ、「探偵役が被害者」という意表を突いた展開ではありますが、動機に納得できません。
画竜点睛を欠くと言うべきでしょうか、最後のプロットにはかなり無理があるような気がいたします。
ただ、話の救いとしては、4番目の犯行が未遂に終わったこと…もちろん新田刑事(木村拓哉)の活躍によってです。
犯人の身の上に同情すべき点があり、しかもあまり悪役を演じさせるのは気の毒な女優さん(笑)でもありますし、死刑または無期懲役の「二人殺害」まで行かなかったところに救いを感じました。
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マスカレード・ホテル
(C)2019 映画「マスカレード・ホテル」製作委員会 (C)東野圭吾/集英社
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こちらは、小説版「マスカレード・ホテル」の締めくくりのシーンですが、なかなかに風情のある終わり方です。
「とりあえず乾杯しますか」新田はグラスを手にした。
山岸尚美もグラスを持ち上げた。
かちんと合わせたグラスに、東京の夜が映っていた。
さすが東野圭吾。名文だと思います。
/// end of the “cinemaアラカルト212「マスカレード・ホテル」”///
(追伸)
岸波
東野圭吾の作家25周年記念作品としては、この「マスカレード・ホテル」のほかに「麒麟の翼」、「真夏の方程式」があります。
彼は第3弾となるこの「マスカレード・ホテル」の帯に以下のように記しました。
想像力の限りを尽くしたという実感があります。
それだけに手応えも十分です。
今後同じことをやろうとしても、
これ以上にうまくやれる自信はありません。
うん、それだけの自信作なんですね。
なお、2011年の東日本大震災に際して、第1弾「麒麟の翼」の増刷分の印税は全て義援金として寄付されました。
この「マスカレード・ホテル」に明石家さんま氏が友情出演しているということで話題になりました。
実は彼、撮影現場にふらりと現れ、「どうしても出たいなぁ」と言って参加することになったという事で、そのエキストラ出演がどの場面にあったかという事がネットのネタになったのです。
このことはテレビでも取り上げられ、役名は大竹であること…
上はもちろん映画のシーンではありませんが、この扮装を見ると、多分…
この場面で、フロントの王冠の真下に居た人物ではないかと。
まあ、こりゃ見えないわ。
てか僕、完全に見逃してましたけれど(笑)
最後にもう一つだけ。
タイトルの「マスカレード」は仮面のこと。客はそれぞれの仮面を被ってホテルを訪れます。
そしてまたホテルマンも、善きホテルマンとしての仮面を被りながら応接をしているのでしょう。
この映画のエンディング・ロールで席を立ってはなりません。エンディング・ロールは突然切り替わって「仮面舞踏会」のシーンになります。
客もホテルマンも仮面を被りながらかりそめの日常と言う舞台で踊っている…そんな暗喩でしょうか。
いや、そんなことよりも、山岸クラーク…というか長澤まさみのあでやかな仮面舞踏会スタイルを見逃してしまうのは、あまりにももったいないでしょう?(笑)
では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See you again !
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be continued⇒ “cinemaアラカルト213” coming
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