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「COOL!」(TAM Music Factory)
by 岸波(葉羽)【配信2018.9.16】
 

◆この記事は作品のストーリーについて触れています。作品を実際に楽しむ前にストーリーを知りたくない方は閲覧をお控えください。

 こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。

 最後まで席を立つな。この映画は二度はじまる。

 大評判のインディーズ・ムービー「カメラを止めるな!」をケイコと観てまいりました。

 いやぁ苦労しましたよ、ケイコを連れ出すのに。だってコレ、ゾンビ映画と思われてしまったのです。

カメラを止めるな!

(C)ENBUゼミナール

「ヤだよ、ゾンビがいっぱい出てきて血しぶき上げるんでしょ?」

「違うんだよ、抱腹絶倒なんだってば!」

 …と書きながら、ちょっと後悔。

 だってこの映画ほど「ネタバレ厳禁」というか、ネタを知らないで観た方が絶対面白いに決まっているのです。

 だから、もしもこの映画を劇場に行って観たいと思っている方は、絶対にこの先を読んではいけません。

 …って断ったからね。本当だよ!!

 

 映画の冒頭、山奥の廃墟ビルでゾンビに追い詰められている女性が登場。しかし、見るからにチープなメイクと映像。

 もう逃げ場はない。もはやこれまでか、と思っているうちに「カーット!」の声が。どうやらコレは映画撮影のワンシーンらしい。

 登場した監督は実に不機嫌そう。

 スタッフが別のクルーに小声でささやく…これで何カット目?

「42カット目だよ…」 えええ~!!

カメラを止めるな!

(C)ENBUゼミナール

 女優に激しくダメ出しをする監督。ゾンビ役の青年が割って入る…しかし監督はそれに対しても逆ギレ。

「これは俺の映画だ!口を挟むな!」

 険悪な雰囲気に、メイク担当の女性が…「少し休憩しましょ!」

 と、まあ「42カット」は凄いとしても、ありがちな撮影風景。しかしココから驚天動地の展開が待っているのです。

 何と撮影クルーの前に本物のゾンビが襲来。野外に居た助監督が腕を引きちぎられ、その腕が建物内に放り込まれる。中に居たのはゾンビ役の青年と襲われ役の女性、そして女性のメイクさん…。

「良くできた作り物ね~」

「こんなのありましたっけ?」

 そこに扉を開けて倒れ込んできた助監督。もちろん、彼の片腕は失われている。

「リアルなメイクね~ ‥‥し、死んでる!!?」

 そこへ屋外から最初のゾンビ(カメラマンがゾンビ化したもの)が侵入。パニックになって逃げまわる三人。しかし、何とか屋外に押し出すことに成功。

カメラを止めるな!

(C)ENBUゼミナール

 と、思いきや、今度は絶命していた助監督がゾンビ化して三人を追い回す。

 辺りはもう阿鼻叫喚の巷。

 ちぎれた腕を外に放り投げると、助監督ゾンビはそれに釣られて屋外へ。ホウホウのテイで内側から施錠すると、何故か物陰から監督がカメラを構えていることに気づく…。

「何やってんですか!!」

「これが映画だよ!嘘が一つもない!俺はカメラを止めない!!」

 …ってオイ、なんだよそりゃ!?

 こんな進行で、ここまではどう考えても「ゾンビ映画を撮影していたらホントのゾンビが出て来ちゃいました」というゾンビ映画。

 ただ、いろんなところに違和感がある。

 セリフの合間に奇妙な「間」があって、普通なら2テイク目の撮り直しになるようなシーンがそのまま続行されたり(映画の中で42カット目と言うのは、あくまでも「映画」を撮影しているシーンなので別)、当然次に展開すべきシーンで役者が延々と無意味なセリフ回しをしてみたりとか…。

 「これは何か仕込まれてるぞ」と感じるのは当然の事(笑)

カメラを止めるな!

(C)ENBUゼミナール

 実はこの”違和感”は、37分間の掌編映画のエンディング・ロールが流れ終わった後にネタばらしが始まり、こちらが本当の映画というオチ。

 つまり、冒頭のゾンビ映画は「劇中劇」だったのです。

 だから『最後まで席を立つな。この映画は二度はじまる。」というキャッチコピーになっているのです。

まあ、30数分で席を立つ人もいないでしょうが。

 エンディングの後、画面がホワイトアウトして「一か月前」というテロップが流れ、そこからが本編。

 本当の本編が始まると、さきほどのゾンビ映画で芸術家肌の激しい気性をしていた監督が再び登場。名前は「日暮」。

 どうやらTV番組の再現映像を撮影している模様。そこにプロデューサーらしき人物が現れ、別室で待つ女性幹部の部屋へ。そこで、トンデモナイ提案が。

カメラを止めるな!

(C)ENBUゼミナール

 今度ゾンビ映画の専門チャンネルを立ち上げることになり、そのこけら落としの記念作品に「30分の生中継で、全編カメラを止めないワンカットのゾンビ映画を流したい」と。ドラマのタイトルは「ONE CUT OF THE DEAD」。

 驚く日暮。なんせ彼はTVの再現映像やカラオケの映像しか撮ったことがない自他ともに認める三流監督。

 撮影にアクシデントは付き物。それをワンカットの生中継だなんて狂気の沙汰。冗談だろうと思って聞いていると、幹部はマジ顔。えええ~!!?

 結局、そんな無茶ぶりを受けざるを得なくなり、いざ撮影に入ると数少ない出演者の一人が当日ドタキャンに。どうすんだよ、間もなく生中継が始まるのに!!

 …こんなネタばらしが入ってから、もう一度「ゾンビ映画」の劇中劇撮影シーンが始まるともう大変。

 「ゾンビ映画」撮影の裏側で、いくつものアクシデントが発生しながら、ワンカット生中継が続いていくところはまさに抱腹絶倒の面白さな♪

カメラを止めるな!

(C)ENBUゼミナール

 この「カメラを止めるな!」は、監督&俳優養成スクール・ENBUゼミナールのシネマプロジェクト第7弾作品。

 もともと素人監督・素人俳優が実験的に作った「習作」と言っていいでしょう。

 2017年11月に先行公開した後、2018年6月から新宿・池袋の2館で劇場公開。はい、たった2館です(笑)

 ところが捧腹絶倒の面白さが口コミで広がり、同時に出品していた国内・海外の映画祭で立て続けに賞を取って大グレイク。

 今年8月以降、全国の映画館で立て続けに上映が拡大され、8月下旬時点で延べ200館以上、動員100万人を突破しました。

カナダ・ファンタジア映画祭では審査員特別賞など受賞、ロサンゼルス日本映画祭で最優秀賞作品賞を受賞。

 脚本も手掛けた監督上田慎一郎にとって初の劇場長編作品が、いきなりのセンセーションを巻き起こしたのです。

カメラを止めるな!

(C)ENBUゼミナール

 この映画の出演者たち…みんな無名です。(だって養成スクールの学生ですから(笑))だけどインパクトが凄い。

 実質主演の監督日暮役の濱津隆之は、「劇中劇」で思い込みの激しいちょっとサイコな監督を演じていましたが、「本編」の売れない監督役で登場すると演技が一変。

 日暮隆之(濱津隆之)

 「あれ?コレってもしかしてさっきと同じ監督?」と気づくまで数秒かかりました。表情から物言いまで全く別人としか思えない素晴らしい演技力。

 その奥さん日暮晴美(しゅはまはるみ)。

 日暮晴美(しゅはまはるみ)

 彼女は、「元女優で、役に入れ込み過ぎるため廃業し、直前のアクシデントによる代役で映画出演」という設定も面白いですが、その役柄の通り、「役に入れ込み過ぎて」ゾンビたちをちぎっては投げちぎっては投げするシーンなど、もう誰も止められない(大笑い)

 さらには監督日暮の娘役、日暮真央(真魚)。

 日暮真央(真魚)

 父と同様映像制作の道に進みながらも、一切の妥協を許さない激しい性格のため煙たがられているのですが、たまたまゾンビ映画の撮影現場に居合わせたことから、撮影のピンチに独特のセンスで解決策を提示し、遂には気弱なドラマ監督のディレクションを乗っ取って撮影を成功に導く「切り札」となって大活躍。

 カメラマン細田学(細井学)

 ほか、アル中で酒を止められているのに撮影前に飲酒してしまい、グダグダな演技をするカメラマン細田学役の細井学もいい味出してます。

カメラを止めるな!

(C)ENBUゼミナール

 本編が進行すると、「劇中劇」の裏側でどんなアクシデントが起きていたのか示され、「セリフの微妙な間」とか「無意味なセリフ回し」(時間稼ぎ)の理由が明らかになるという絶妙の構成。ここで観客は抱腹絶倒となる。

「トラブル つないで!!」というカンペが出ている(笑)

 しかし、すごい映画が出てきたものです。こんな映画、今まで見たことが無い。

 100万人を超えれば大ヒットとされる日本映画界で観客動員数は既に115万人突破。興行収入が15億円。

 しかもっ! …製作費300万円(笑)

 映画.comの駒井尚文氏は、同サイトの編集長コラムで次のように述べています。

 駒井尚文氏

「SNS全盛の今、金曜日に公開された新作映画の興行の行方は、日曜日の夜には結論が出てしまう時代になりました。ツイッター民が、わずか3日で映画の評価を確定し、拡散してしまう。マーケティング本位で製作された映画に、大量の宣伝費を投下して大ヒットをもぎとるという手法が通用しなくなり、真に面白い、SNSで拡散され得る映画だけがロングラン興行を続けられるという時代です。そんな時代だからこそ、超ローコストでとてつもないリターンを記録している「カメラを止めるな!」の出現は重要でした。「大ヒット映画の正しい作り方」を示した事例として。極端な話、これからの日本映画は「カメラを止めるな!以前」と「カメラを止めるな!以降」に分類される可能性すらあります。それぐらいのインパクトを残した、歴史に残る映画だと思います。」

…映画.com編集長コラム「「カメラを止めるな!」の爪痕が深い。映画ビジネスに強烈なインパクト」より引用。

カメラを止めるな!

(C)ENBUゼミナール

 ゾンビ映画のラスト、廃ビルの屋上に描かれた五芒星の中心で空を見上げる主演女優を上から見下ろすシーンがありますが、この絵をどうやって撮ったか?

 その裏側が本編で明らかになる(本編)のラストシーンは『笑いすぎ注意!』でございます。

 いやはや、本当に凄い映画が出てきたもんです。

 

/// end of the “cinemaアラカルト211「カメラを止めるな!”///

 

(追伸)

岸波

 当初、2018年6月の2館だけの劇場公開で監督・主要キャストらが初日舞台挨拶を行った折、たまたま会場にフジテレビアナウンサーの笠井信輔氏が来ていました。

 映画の宣伝担当者はこれを見逃さず、早速彼に声掛けして舞台上へ。笠井信輔氏は飛び入りで、舞台挨拶の進行をすることになったそうです。

 何かがブレイクする際に、こんなプラスに働くサプライズが次々に連鎖してくる「時代の熱」というものが必ずあります。

 この「熱」は、周到に準備された演出では到底作り得ないもので、SNSの爆発的な拡散のように、自然発生的に歓喜が拡散するところから生まれてくるものでしょう。

 ああ…もう一回言いたい。

 とにかくトンデモナイ映画が生まれてしまったものです。

 

 では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See you again !

「カメラを止めるな!」舞台挨拶

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To be continued⇒  “cinemaアラカルト212” coming soon!

 

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