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「彼は冒険者」(音楽の卵)
by 岸波(葉羽)【配信2017.7.6】
 

◆この記事は作品のストーリーについて触れています。作品を実際に楽しむ前にストーリーを知りたくない方は閲覧をお控えください。

 こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。

 織田軍1万人 vs オレ1人?

 入院していたケイ子の手術が無事終了し、去る7月2日には外出許可が出ましたので、話題作「忍びの国」を二人で観てまいりました。

 監督は「白ゆき姫殺人事件」「予告犯」の中村義洋氏、主演は嵐のリーダー大野智君。

 大野智君は「映画 怪物君」以来6年ぶりの映画主演。原作は和田竜による同名の歴史小説でございます。

 しかし、気になったのはこのキャッチコピー…。

忍びの国

(C)2017 映画「忍びの国」製作委員会

 『織田軍1万vs俺1人?』って、いくら何でも荒唐無稽でしょ?

 近年観た時代劇では、福島県いわき地方にあった湯長谷藩の騒動を描いた「超高速!参勤交代」(2014年)が捧腹絶倒に面白かったのですが、その続編「超高速!参勤交代リターンズ」(2016年)は、いきなりポシャリました。

超高速!参勤交代リターンズ

 だって、1000人もいる悪老中の軍隊にたった7人で戦いを挑むんですよ。いくらフィクションだって、勝てるワケないじゃないですか。(勝つんですが:笑)

 やはり、ある程度まではリアリティを追及してもらわないと、感情移入もできないじゃないですか。

 「忍びの国」のキャッチコピーを見て、この時の悪夢が脳裏をよぎったのです。

うむむむむ…。

 さて、僕の悪い予感は杞憂となるのでありましょうか…?

 

 映画の冒頭、忍者の軍団同士の闘いが繰り広げられています。

 堅い城門の館(たて)に籠るのは伊賀の下山甲斐(でんでん)一派。これを攻めるのは百地三太夫(立川談春)の一派。

 攻め手はそれなりに奮闘していますが、張り巡らされた深い壕に阻まれて次々と矢玉の犠牲に。

 もはやこれまでと思われたところ、三太夫が口を開く。

「待て、もうすぐ城門が開く」

忍びの国

(C)2017 映画「忍びの国」製作委員会

 その時、颯爽と現れた一人の忍者が、内側から城門を開いて現れるのです。もちろん、我らが大野君。

 彼の前にはどんな門も意味をなさないということから、付けられた二つ名が「無門」…なんかカッコイイ。

 館へとなだれ込む攻め手側の忍者たち。接近戦の大立ち回り…いやぁ時代劇の醍醐味はコレですね!

 しかし無門は闘いからリタイア。三太夫から報奨を受け取るとサッサと去ろうとします…どうやら無門は一匹狼の傭兵のようでございます。

…それを呼び止める三太夫。

「もう、ひと働き頼みたい。下山の息子、次郎兵衛を討ち取ってくれ。報酬は10文!」

…聞こえないフリをして去ろうとする無門。

「いや、50文!」

…ちょっと考え、やはり去ろうとする無門。

「ええい、100文でどうだ!」

「受けた!」 ←ええ~!

忍びの国

(C)2017 映画「忍びの国」製作委員会

 無門は見事、次郎兵衛(満島真之介)を討ちとって100文をゲット。その過程で『川』と言われる決闘の流儀が登場します。

 血気にはやった次郎兵衛が無門(大野智)に一騎打ちを申し込むのですが、この時、地面に長さ5メートル、幅3メートルほどの平行線を引いたのです。

 すると、乱戦のさなかにあった忍者たちが闘いをやめ、「川だ!川!」と言って、線引きの外側に集合したのです。

 ルールは単純。一騎打ちは平行線の内側だけでやらねばならない。もしそれをはみ出せば、敵味方全員から攻撃を受ける…ということらしい。

 するとどうなるか? …間合いをとることもできないですから、超・接近戦でひたすら剣を振るうしかないのです。まさに超・高速の切り合い!圧巻!

 敗れた方は平行線の中に横たわるので、上から見るとちょうど「川」の字に見えるという次第。

 ここで展開される殺陣のスピード感には驚きました。

 近年の時代劇の殺陣の進化には目を見張るものがあり、「るろうに剣心」の転げまわる超絶殺陣のド迫力には“目からウロコ”だったのですが、本作はさらにそれを上まわるでしょう。

 "目にも止まらぬ”という言葉がありますが、本当に目では追えません。

 その昔、ブルース・リーの「燃えよドラゴン」で“アチョー”から始まる超高速拳法にも度肝を抜かれましたが、本作は剣です。しかも二刀流。

あまり凄いんで「CG」かと思いました…違いますけど。

 この決闘シーンの撮影には三日かかったといいます。そりゃそうでしょう、一か所でも段取りを間違えれば殺陣として成立しませんし、何たって大怪我必至!

 とんでもない緊張感の中での撮影だったことでしょう。

しかも、この「川」の決闘はクライマックスでもう一度出てくる…。

 このハードな撮影をやり切った大野君らには惜しみない拍手を送りましょう。

下山平兵衛(鈴木亮平)

(C)2017 映画「忍びの国」製作委員会

 忍者同士の闘いは思わぬ形で終了します。

 突如、伊賀の里に鐘が鳴り響くと、両軍の頭領は「招集だ」と言って戦闘をやめさせたのです。

 ええ~ コレって模擬戦!? でも本当に死んでるじゃん…大勢!

 収まりがつかないのは、無門に「川」で弟を殺された下山平兵衛(鈴木亮平)。彼は親父である一方のボス下山甲斐(でんでん)に喰ってかかる。

「俺の弟が…お前の息子が死んだんだぞ!一言も無いのか!?」

「お前は上忍だが、あいつはただの下忍だ。何で悼む必要がある?」

「・・・・・・!!」

 下忍は人にあらず。平兵衛(鈴木亮平)は、一人その場を去ると慟哭します。

「コイツラは人間じゃねぇ!!」

 うむむむむ…急にシリアスな展開になってまいりました。

 映画の時代背景は、織田信長が勢力を広げ始めた戦国末期の天正年間。

 伊賀の国(現在の三重県西部)は、上忍からなる十二評定家の合議制で国の進路を決めていました。

 信長勢力に周囲の国が次々と落とされていく中、抵抗か服従か…その選択が喫緊の課題であり、この日の評定も、先鋒となって迫りくる織田信雄(知念侑李:Hey! Say! JUMP)の軍に対し、どう対応するかと招集されたもの。

織田信雄(知念侑李)

 模擬戦を闘っていた百地三太夫と下山甲斐は、この十二評定家の主要メンバーでした。

「織田はきっと正面から攻め込まず、逆に“守ってやる”と言って、国の中心に城を築こうとするだろう。そんなことになれば、我らは俘囚の身も同然。」

「しかし織田の軍勢は我らの3倍以上。ここは降るしかあるまい…。」

 館の外で警護を命じられていた下山平兵衛(鈴木亮平)も、このやり取りを聞いてしまいます。

 しかして… 織田信雄(知念侑李)へ恭順の使者を命じられたのは、平兵衛本人だったのです。

 さて、嫡男でありながら十二評定家に不信感を芽生えさせた平兵衛は、果たしてどう動くのか…?

伊賀の国/十二評定家

(C)2017 映画「忍びの国」製作委員会

 主人公の無門は、下忍でありながら伊賀の国で最強の実力を有し、皆から一目置かれています。

 そして、戦国時代なのに、現代の感性でものを考え、現代の言葉で語ります。それが飄々とした軽さにつながっています。

 ところが、一緒に住むヒロイン役のお国(石原さとみ)に対してはカラッキシで、全く頭が上がりません。

 もともと「お国」は、無門が任務により忍び込んだ京都の屋敷でたまたま見つけ、ひとめ惚れしてしまった相手。

 屋敷から攫ってくるのですが、気の強いお国から非難され、逆に「金には不自由させないから、どうか自分と一緒に暮らしてほしい」と懇願するのです。

 「最強」でもなく「飄々」でもなく、お国に対してはただの「恋する少年」のようになってしまうのです。ああ~この落差がたまらない(笑)

 この無門という役、とても難しい役柄だと思うのです。

 表面的にはコミカルで軽快なストーリーですが、その背景はとても深くて重い。裏切り、暗殺、権謀術数、人の命が虫けらのように軽く扱われる…それらに翻弄され、懊悩する人たち…。

 コミカルなのにシリアスな本質を持っているこの映画では、無門の語る台詞も例外ではなく、時として、とても重い言葉をボソッとつぶやくシーンがあります。

 たったその一言のモノ言いで、演技者の人間性まで推し量れてしまう恐ろしい台詞が多々あるのです。

「忍びの国」ラッピング電車

 これを大野君は難なくやってのける。台詞が心にストンと落ちる。実際、こんな達者な人だとは思っていませんでした。(だってホラ…「怪物君」だったし。)

 しかも、CGと見まがうような超絶アクションを修練一つで自分のモノにできる…これはもう只者ではありません。

 そういえば、大野君はジャニーズのメンバーの中でも常に「あいつを見習え」と言われて来たのだそうです。まるで無門のように飄々としたキャラクターですが、その実力は誰もが認めている。嵐のリーダーを務めているのは、ダテではありませんでした。

 大野君、このまま演技者としてキャリアを積んで行ったら、いったいどこまで行けるのか…末恐ろしいような楽しみなような…。

忍びの国

(C)2017 映画「忍びの国」製作委員会

 この映画のもう一つの魅力は、ラスボスのカッコよさ。

 忍びの国(伊賀)と信長勢との軋轢は、信長の二男信雄が婿入りした伊勢国(伊賀の国の隣)の国司であり義父であった北畠具教(國村隼)を信雄(知念侑李:Hey! Say! JUMP)が謀殺することに端を発します。

 この実行犯が 伊勢谷友介演ずる日置大膳(伊勢谷友介)で、元・北畠具教の家臣で天下無双の豪傑でした。

日置大膳(伊勢谷友介)

 その後、盟友の長野左京亮(マキタスポーツ)と共に具教の娘婿である信雄に仕えることになったのですが、信雄が元君主の謀殺を企てる事に最後まで反対しています。

 これを押し切った信雄が義父具教を殺めると言うその場になっても、大膳は刀を抜こうとはしませんでした。

 しかし、先に手を出した盟友の長野左京亮(マキタスポーツ)が返り討ちにされようとした刹那、思わず身体が動き、具教を手にかけてしまうのです。

左京亮が切りかかるも…

 結果的に、大膳は伊賀の国忍群にとって最強の敵として立ちはだかるのですが、その本質は忠義の人。

 それを誰よりも知っている北畠具教は、彼の手にかかりながらも恨み言を言わず、逆に伊勢国の未来を大膳に託して息絶えるのです。(うっうっ…)

大弓の達人日置大善:右

(伊勢谷友介)

(C)2017 映画「忍びの国」製作委員会

 大弓の名手である大膳は、敵を貫いた矢が相手の身体を20メートルくらい吹っ飛ばすというくらい強大なラスボスぶりを発揮します。

 やはり「敵役が魅力的」というのは、対決モノが成功する条件でしょう♪

 伊勢谷友介は、NHK大河『龍馬伝』の高杉晋作役に抜擢されて以来、どんどん存在感を増してきた俳優さんですが、
「あしたのジョー」の力石徹は凄かった…
「るろうに剣心」の四乃森蒼紫もイメージどおり…
「ジョーカー・ゲーム」の結城中佐など彼以外に考えられない…
と、そのくらい大好きな俳優さん。

 いずれの役でも"内に秘めた迫力”とでも言いましょうか、黙っていても存在感が凄い演技者だと思います。

身を挺して姫を守る大膳

 もう一つ言えば、この伊勢谷友介氏、東日本大震災の復興支援にも尽力されていまして、福島第一原発の爆発事故でできなかった飯舘村の子供たちの卒園式や卒業式を自ら企画し実施しています。

 本当にありがとうございました。福島県民として感謝を申し上げます。

大弓の達人日置大善(伊勢谷友介)

(C)2017 映画「忍びの国」製作委員会

 一旦は恭順を示したかに見えた伊賀の十二評定家でしたが、実は全てが織田軍を引き入れて陥れるための罠でした。信雄軍の豪傑大膳は、信雄の命に背いても参戦しないであろう事も折り込み済み。

 ところが功を焦る信雄は、無理やりに出撃命令を。その無茶振りを諌めるため、大膳は主君である信雄を殴り飛ばします。あらららら…。

 信雄は錯乱しながらも、策無き総攻撃の無謀さを悟り、これまで大膳ら部下たちに対して行ってきた数々の非礼を泣きながら詫びるのでした。

 逆にこれが部下たちの心を一つにするきっかけとなり、大膳の策により、三路から攻撃を開始することに。

 一方、伊賀の里の下忍たちは、報酬なしに命をかけろという十二評定家の命令に反発し、大挙して逃げ出します。もちろん、無門とお国も(笑)

 こんな状態で、大膳が率いる織田軍に太刀打ちできるワケもなく、伊賀軍は総崩れに。

 ところがっ!! 京都へ向かって脱出中のお国は、一緒に逃げる民衆たちの中に、目をかけていた少年の姿が見えないことに気づきます。そして、少年を救うために引き返そうと。

 驚く無門。彼の中では、この戦いの帰趨は火を見るよりも明らか。しかし、お国の意思は固い…。

 結局、この説得は無門の負け。彼はお国を思いとどまらせる代わりに、自分が必ず少年を連れて帰ると宣言します。

 さて『織田軍1万人 vs オレ1人?』で本当に撃退し、少年を連れ戻すことができるのか? …いや、史実の「天正伊賀の乱」では、実際に三路から攻め込んだ織田軍を撃退しているのですが、いったいどうやって!?

一人で三路の敵って…? うむむぅ…。

 ここから後の進行は、ストーリー的にも映像的にもまさに佳境の部分なので…

 な・い・しょ・・・ですっ!!(大笑い)

忍びの国

(C)2017 映画「忍びの国」製作委員会

 佳境に突入してからの内容は、非常に濃いものがあります。しかもラスボス対決(?)はその場ではありません。真のクライマックス、二回目の「川」も残っているし、十二評定家もこのままにはしておけません。

 さらにっ… 無門の慟哭シーンも??(え?!)

 とにかく見どころ満載なので、是非、劇場に足を運ばれることをお勧めします。

 7月1日・2日の国内映画ランキングが発表され、「忍びの国」は「パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊」に次いで初登場二位に。

 「パイレーツ」は、今年度ロングランを記録した「美女と野獣」の初週二日間の観客動員数を凌駕しましたので、その中で堂々二位は立派な成績。もちろん邦画で一位。(観客動員数:40万4500人、興行収入:4億8500万円)

 笑いあり涙あり、そして痛快…これは観なっきゃ・でしょう!

 

/// end of the “cinemaアラカルト189「忍びの国”///

 

(追伸)

岸波

 書ききれませんでしたが、お国役の石原さとみちゃん、時代劇のいでたちもとても素敵でした。

 時代劇のさとみちゃん、見たことがなかったので、最初出て来た時「誰かなぁ…可愛いなぁ…ちょっと石原さとみにも似てるなぁ…」と。(笑)

 だけど、眠っているシーンで、セクシーな唇がアップになった時、「あ、さとみちゃんだ!」と♪ ←(おいおい)

 そういえば、大野君と石原さとみちゃんて、実家がすぐご近所で、ご家族同士もよく知った仲だそうですよ。幼少のみぎり、同じ習いモノにも通っていたとか。

 なので、本作のカップル役も堂に入ったものでした。

 …完璧にお尻に敷かれてましたけど(大笑い)

 

 では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See you again !

「忍びの国」ジャパンプレミア

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To be continued⇒  “cinemaアラカルト190” coming soon!

 

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