こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
乗客5000人
目的地まで120年
90年も早く
2人だけが目覚めた
理由は1つーー
公式ホームページのニュアンスをできるだけ再現してキャッチコピーをアレンジしてみました♪
3月24日封切りの『パッセンジャー』を翌25日土曜日に、ケイ子と福島フォーラムで観てまいりました。
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パッセンジャー
(C) 2016 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved. |
結論から言えば、とても素晴らしい作品。なぜ福島イオンシネマではラインナップに入っていないのか、不思議でなりません。
まあ、春休みの「お子ちゃま週間」ということもありますが…。
それにしても、このキャッチコピーにはちょっと異議アリです。どこかと言いますと、最後の『理由は一つ』の部分。
これでは、宇宙旅行中に勃発した危機を「二人の人間が救う」ために目覚めさせられたという運命論的な意味合いになってしまいますもの。
実際そうではないし、「そうでない」部分に大きなストーリー上の大きな意味の一つが込められているのですから、全くのミスリード。
僕はかねがね、ダメなキャッチコピーによって作品がスポイルされる弊害を訴えているのですけれど、今回はそこまでとは行かないものの「多少難アリ」でしょうか。
(閑話休題)
さて…そこはさておき、この映画の内容は?
今回の映画の冒頭は、漆黒の宇宙の大海原。
そこになにやら遠方から近づいてくる物体が…これはおそらく宇宙船か。
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パッセンジャー
(C) 2016 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
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『大海原』と表現したのにはワケがあります。
宇宙が描かれる時、ともすればべったりとした暗い闇の中に星が点々…という工夫も何もないシーンが登場しがちですけれど、この映画は違う。
上の写真でも分かるとおり、星間ガスや光の反射などが描かれ、それはあたかも深海や曇天をイメージさせる造りなのです。なるほどこれは新しい…。
そして気になったのは、斬新なデザインの宇宙船の舳(へさき)に針のようなものが突き出ていること。何だコレは…?
間もなく大規模な浮遊隕石群に突っ込むと、その機能が明らかになります。実はこれはバリアの発生装置で、超高速で前方からやってくる隕石群を粉々に砕いて本船を守るための機構だったのです。
確かに、超高速で航行している(設定)のですから、こうした強力バリアは必須。最初はただの奇をてらったデザインかと思いましたが、なかなかに考えられている…「うむっ、できるな」~と思わず姿勢を正し、座り直してしまいました。
この船は、5000人の移住者を載せた宇宙移民船アヴァロン号。光速の1/2近いスピードで、120年をかけて目的の星にたどり着く…ということですから、当然人間は冷凍睡眠に入っている。
船の航行は全てコンピュータで制御され、隕石群のような障害物があれば自動的に進路を選択し、バリアが強化されるのです。
ところがっ!! 行く手から超大型の小惑星が。
アヴァロン号の制御装置は最善の選択をするものの、破壊しつくす事ができずに管制室内に響くアラート!
このアクシデントで、アヴァロン号は各所にダメージを被り、一人のパッセンジャー(乗客)の冷凍睡眠装置が誤作動を起こすのです。あらららら・・。
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パッセンジャー
(C) 2016 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
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誤作動により覚醒させられた人物は技術者のジム・プレストン。あれ、最近見たぞ…と思ったら、これが『マグニフィセント・セブン』で流れ者のギャンブラーを好演したクリス・プラット。売れてますね~
ジムは、案内装置に誘(いざな)われるまま船内を移動しますが、やがて違和感を感じます。「いったい他の乗客は?クルーはどこに!?」
そう…彼の睡眠ポッドだけが誤作動したのですから、他に起きている者がいるはずもありません。
冷凍睡眠装置
やがてインフォメーション装置までたどり着き、今いる場所はどの辺なんだ?あと何年で到着する?と聞くと…『目的の星まであと90年』という衝撃の事実が告げられます。
動転し混乱するジム。「もう一度ポッドに戻らなくては!!」
しかし…やっと見つけたマニュアルには、解除の方法はあっても起動の仕方はありませんでした。
冷凍睡眠ポッドは睡眠を維持する機能のみで、冷凍睡眠に導入する機能はそもそも備わっていなかったのです。
巨大な移民船の船内をくまなく探索するも、再度眠りに入る方策は見つからず。せめてクルーを起こして異常事態を告げようとするも、クルーが冬眠する区画は厳重なセキュリティで守られていて物理的にも突破できず。
絶望に捉われながらバーのような区画に入ると…「いらっしゃいませ!」の声。
何とそこにはバーテンダー(=アーサー:マイケル・シーン)が。
アーサー(マイケル・シーン)
自分の身に起きた事件を話しますが、どうにも話が噛み合わない。ふと気づいて、カウンターから身を乗り出し、バーテンダーの下半身を見ると、それは機械…
「ロボットか!?」ジムを襲う二度目の絶望。
ジムは結局、冷凍睡眠を断念し、この豪華客船並みの設備を備えた船内で一人生きていくことを決意するしかありませんでした…。
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パッセンジャー
(C) 2016 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
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どうですか、こういう状況?
居住する環境はまあまあ満たされている。食事はロボットが運んでくれるし、シャワーを浴びることもできる。映画館やゲームセンター、ロボット・バーもあれば宇宙空間まで突き出た超豪華なプールもある。
生きていくことは出来そうです…たった一人で。変わり映えのしない日常。いったい何のために自分が生きているか悩んでしまう事でしょう。
ジムも初めは「一人で生きていく」という腹を決めて、船内施設をエンジョイしようとしましたが、それが三か月…一年と続くと、まず自分の外見を全く気にしなくなりました。
髭は伸び放題。裸のまま船内をうろつく…。クリス・プラットは1979年生まれの30代後半ですが、画面の中のジムの表情はどんどん生気を失っていきます。見た目はまるで老人。恐ろしい老け込みです。
精神にも異常を来たし始めます。宇宙遊泳装置で宇宙服を装着しないまま扉を開放し、自殺しようとさえするほどに…。
人間にとって『孤独』というものは、それほど恐ろしいものなのでしょう。
ジムはある日、乗客が眠るポッド・ルームを巡っていて、自分の理想の女性を発見します。興味を抱き、乗客プロフィールのデータを閲覧するジム…。
彼女の名はオーロラ・レーン(ジェニファー・ローレンス)。新天地での生活を記録しようとしているジャーナリストでした。
何度も彼女の元に足を運んでいるうちに、昏い欲望が込み上げてきます。「睡眠に導入するマニュアルはないが、停止方法は書いてある。」
でもそんなことをすれば、彼女の新天地での人生を奪う殺人にも等しい悪行…「それだけはやってはならない」と、何度も心にブレーキをかけるのでした。
しかし… ある日、ジムの心の糸がプツンと切れます。
ポッドを停止させるジム。目覚めるオーロラ。彼は恐ろしくなって、その場を逃げ出すのでした。
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パッセンジャー
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クリス・プラットは『マグニフィセント・セブン』の時に「いい役者だ」と感心しましたが、この映画の一人芝居で見せる人間の心の葛藤は素晴らしい。
人間がもともと素直なんでしょうか、演技にいやらしい部分がなくて自然に心に入ってくるのです。
彼が最初に主演を務めたのは2014年『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のピーター・クイル役。翌2015年には話題作『ジュラシック・ワールド』に連続して主演しました。どんな役でもこなせそうですが、悪役はまぁ無理かな(笑)
(クリス・プラット)
一方のジェニファー・ローレンスですが、彼女は写真によって全く別人に見えるのです。
弱冠17歳の時に『あの日、欲望の大地で』(2008年)に出演し、「メリル・ストリープの再来」と評された天才女優。その後、2010年の『ウィンターズ・ボーン』に主演すると、デトロイト映画批評家協会賞主演女優賞受賞、サンディエゴ映画批評家協会賞主演女優賞受賞ほか、20以上の国際映画賞でノミネート・受賞するなど本領発揮。
2012年の『世界にひとつのプレイブック』では遂にアカデミー賞主演女優賞を受賞した超実力派のシンデレラ・ガールです。
(ジェニファー・ローレンス)うむぅ別人…
今回のオーロラ役の彼女…知的で爽やかで心細やかで、とっても魅力的です♪
う~ん、これじゃジムならずとも一目惚れするのは当たり前だ(笑)
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パッセンジャー
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オーロラは自分のポッドだけが故障して覚醒したと絶望しますが、やがて同じ境遇(と考えた)のジムと出会い、二人で生きていくしかないと諦観します。
二人でレクリエーションをやり、二人で酒を飲み、ピアノを弾き、どんどんと距離が近づいて行きます。
極めつけは、二人で船外に宇宙遊泳。その圧倒的な宇宙の景観と闇に飲み込まれるようなスリルの中で心がしっかりと結ばれ、愛し合う事になるのでした。
(二人で船外へ…)
しかし… 夢のような日々は長く続かず、「二人の間に隠し事は何もない」というジムの言葉を素直に受け取ったロボット・バーテンのアーサーが、ジムがポッドを停めてオーロラを覚醒させたことを口にしてしまうのです。
逆上するオーロラ。「人殺し」とまでジムを罵ります。
しかし… 「二人の関係」以上の危機がアヴァロン号に迫っていたのです。
オーロラの気持ちを癒すため、ジムは惑星移植用に持ち込まれた樹木の苗を船内に植え替えます。その樹木を見に行ったとき、船内に怒声が響きます。
「誰だ、いったいこんな事をやったのは!」
人間の声に驚くジムとオーロラ。声の主は、このアヴァロン号の上級クルーであるガス(ローレンス・フィッシュバーン)でした。
その顔を見て、この僕も仰天!
「をっと!久々だなモーフィアス!」
多少歳はくいましたが、これは紛れもなく『マトリックス』シリーズのモーフィアス。懐かしさに涙が出そうです。(うっうっ・・)
『マトリックス』のモーフィアス
この頃、小惑星との激突事件がアヴァロン号に深刻な事態を引き起こしつつあり、その影響の一環で彼もまたポッドが停止したのでした。
「システムによって起こされた」とする解説もありますが、僕はそう解釈しません。なぜなら彼は「急激な解凍によって全身に細胞壊死が広がり、すぐに死んでしまう状態」だったからです。
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パッセンジャー
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足元がふらつくガスを少し寝ませようと個室に案内し、散会したその夜(?)、事件は勃発します。
アヴァロン号の重力発生システムが故障し、寝ていたジムやガスは空中に浮き上がって床に叩きつけられます。一方のオーロラはもっと悲惨で、プールで泳いでいる最中に無重力状態となり、水玉に閉じ込められ脱出できない状況になったのです。
(水玉に閉じ込められたオーロラ)
危機を脱出した三人は異常が頻発し始めたシステムの点検に着手し、宇宙船の核融合炉が暴走し始めている事に気づきます。
繰り返す停電、重力異常、ロボットたちは異常行動をとるようになり、バーテンのアーサーまでも機能停止に。
時間がない… そんな時に頼りのガスは力尽きて瀕死状態。最後に、船内のどこにでも入れるマスターIDを手渡して5000人の命を二人に託します。
(ええ~ モーフィアス弱っ! 今回はザコキャラ!?)
エンジン制御ルームに入ると、暴走が臨界点に達し核融合炉は爆発寸前。再起動をかけようとするが、排気口の扉が故障して開かず、再起動の前提となる「ベント」ができない!?
「仕方がない」
「どうするの?」
「僕が船外に出て、外側から手動で扉を開いてくる」
「ええ~!!」
さて、アヴァロン号の運命やいかに? 5000人の乗客たちの命はいかに?
そして二人の運命は??
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パッセンジャー
(C) 2016 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
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この映画における宇宙の造形には素晴らしいものがあります。
冒頭で述べた「宇宙を闇ではなく星間物質の海」になぞらえた描写もそうでしたが、例えば恒星の描き方。
アヴァロン号はスピードアップするために、途中の恒星を使って「スイング・バイ」するのですが、この時、宇宙船の窓からは恒星の表面が大写しで見えることになります。
(恒星スイング・バイ)
また、宇宙船の斬新なデザイン。三つの居住区間を載せた「腕」がそれぞれ回転しながら(中の者にとっての)「重力」を生み出しつつ推進するのですけれど、このデザインが美しい。
(アヴァロン号)
こんな宇宙船、今まで見たことがありません。
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アヴァロン号
(C) 2016 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
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さらには、宇宙船内の超豪華な設備。行き届いた案内システム、清潔を保つためのちょっとキュートなお掃除ロボット、広々としたホール。さらには自動修復システム。
まあ、120年に及ぶ5000人の旅(その大部分は寝ていますが)を支えるファシリティなので当然と言えば当然ですけれど、まるで豪華客船を100倍グレードアップしたような造形には目を見張るものがあります。
その一つ、オーロラがアクシデントで溺れた船内プールですが、このプールの端っこは全面ガラス…というか透明で、チューブ状に船外に突き出ているのです。
つまり「宇宙の中で泳ぐ」状態になるのです。
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船外に突き出たプール
(C) 2016 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
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映画の中だけでは、何世紀先のテクノロジーなのか分かりませんが、「なるほど、こうやれば実現できるのか」と思わせる夢のシステムが満載です。
そういう部分を楽しむだけでも十分に価値のある映画。
もう一つは思考実験。
僕が子供の頃には『15少年漂流記』などで、文明から隔絶された世界に放り込まれてしまったら、如何に生きるべきか・ということを学んだ気がします。それを大きくバージョンアップし、アップデートしたのがこの物語と言えましょう。
また、これまでの宇宙映画では、そういう異常な状況あるいはたった一人の状況に置かれたとしても、それはその後に続く大活劇の序章でしかありませんでした。
でも、この『パッセンジャー』では、絶対の孤独に置かれた人間の生々しい苦悩、一筋の光明、それを為すための良心のさいなみ、魂の救い、嘘、破局といった人間ドラマの部分にも焦点を当てています。
これはおそらく「スリルとサスペンス」・「血沸き肉躍る大活劇」だけを期待した人には退屈に映るかもしれません。
でもね…人間、歳を取ってくると分かってくるんです。エンターテインメントだけでは生きられない。他人との絆や共感という気持ちがどれだけ大切なのか…。
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パッセンジャー
(C) 2016 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
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さて、映画はまだ終わらない…。ここから後は、それこそ大活劇の世界。
少なくとも三度くらいは悲鳴を上げてしまうようなシーンが連続します。
『007』は「二度死ぬ」ですが、ジムは「三度死ぬ」!!?
そして90年後、アヴァロン号が目的の惑星に到着間近となった時、目覚めた5000人のパッセンジャーが目にする最後のサプライズとは!?
う~ん必見でしょ、コレ。
/// end of the “cinemaアラカルト185「パッセンジャー」”///
(追伸)
岸波
核融合炉の熱に溶かされ・・ 命綱が切れて宇宙に放逐され・・ 宇宙服が破れて本当に心肺停止し・・ ジムは三回死にますが、三度、奇跡的に生還(笑)
だけど、アヴァロン号のトラブルが終息してから、もっと大きな問題が持ち上がるのです。(まだ、来るのかい!?)
それは、ジムが蘇生した手術室の修復カプセルに、冬眠に導入できる機能が見つかった事。
なんだ、それでホントにめでたしめでたしじゃん…と言うなかれ。この器材で冬眠に復帰できるのは「一人だけ」なのです。
もちろん男前なジムは、オーロラにその権利を譲るワケですけれど、また再び「百年の孤独」いや「90年の孤独」に。(ってか、その前に死ぬでしょうが。)
傷心のジムは、機能が回復したバーテン・ロボットのアーサーに、大切に持っていた小箱を見せるのです。それは、彼がオーロラのために手作りしていたエンゲージ・リングでした。
「すばらしいですね。それをあげればよかったのに。」
フッ…と笑うジム。
その時、バーのドアを開ける音が…。 ←(えっ!まさかっ!?)
では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See
you again !
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クリス・プラットとジェニファー・ローレンス
(※ジェニファーを背景と見比べて。全然違うでしょ!)⇒
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be continued⇒ “cinemaアラカルト186” coming
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