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「「魔笛」より パパゲーノのアリア」(Windy)
by 岸波(葉羽)【配信2010.12.3
 

◆この記事は作品のストーリーについて触れています。作品を実際に楽しむ前にストーリーを知りたくない方は閲覧をお控えください。

 こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。

 さぁ、人生を奏でよう。

 この秋はリアル業務の「会津・漆の芸術祭」にかかり切りで、中々cinemaにまで手が回りませんでした。

 では「観ていないか」というとそんなことはなく、二週間にいっぺん福島に帰るたびに映画館に足を運んでいたのですが、もっぱら気晴らしのエンターテインメントとして観ていたので、「cinemaアラカルト」を書く心の準備がなかったのであります。

 そんな中で・・・森晶緒ちゃんが見るに見かね、二本を投稿してくれました。

 その一つが、この「オーケストラ!」。

オーケストラ!

オーケストラ!

(C) 2009 - Les Productions du Tresor

この春に全国公開された作品ですが、『寄せ集め楽団が巻き起こす奇跡の物語。沸き起こる拍手に温かい涙が流れる、笑って、元気をくれる作品。』なのであります。

 主人公の劇場清掃員アンドレは、実はかつてボリショイ交響楽団の天才指揮者の誉れも高かった人物。

 ある日パリのシャトレ劇場から、出演できなくなった楽団の代わりの出演依頼FAXが来たのを目にして、あることを思いつくのです。

 それは、クビになったかつての楽団仲間を集めて偽のオーケストラを結成し、何食わぬ顔で出演してしまおうというもの。

 さて、アンドレの思惑はどんな結末を迎えるのか・・・?

 それでは、森晶緒ちゃんお願いします。

 

森晶緒森晶緒 今晩は。もしくはおはようございます、今日は(^o^)/

 もう既にDVD化されているので、ご覧になった方もいらっしゃるかと思いますが、11月に、余りの人気のためか、地元の映画館で再上映された「オーケストラ!」を念願叶って観て来ました(*^_^*)

 物語は旧ソ連ブレジネフ政権下で、解散を余儀なくされた、天才指揮者アンドレイ・フィリポフの指揮するオーケストラが軸になり、清掃員としてかつて舞台として立った同じ劇場で働く、アンドレイの指揮への30年経っても冷めぬ情熱から始まります。

オーケストラ!

オーケストラ!

(C) 2009 - Les Productions du Tresor

 劇場のボリショイオーケストラにフランスパリでの公演依頼がFAXで舞い込むのが発端。

 偶然清掃中にその依頼書を見付けたアンドレイが最初は独断で、その依頼をチャンスと捉え、かつての楽団員を集め、にわかオーケストラを結成してフランスに乗り込む前半は、主にドタバタコメディとドラマが混在しています。

 スポンサーの獲得のために必要なシーン、ロシアマフィアの結婚式やデモ隊のサクラを派遣手配する仕事をするアンドレイの妻や、フランスにいざ渡ってからの楽団員達の四方八方さっさとこれ幸いに、引っ越しや仕事に就いたり、路上商売をする様は、コメディで笑えるシーンとわかってはいても、実際にそういう商魂たくましい精神は、ペレストロイカを経験した現代ロシアの一面を見れる様で、笑えるけれど妙に説得力もある。

 金金金と、フランスの興行主のスタッフにギャラをせびる辺り、たくましい様なかしましいような、何とも言えず生きるための主張力みたいなものが各所にあるけれど、それだけの表現では無く、ジプシーの様に自由にヴァイオリンをかき鳴らすシーン演出、飛行場で偽造パスポートを作る恐れ知らずの図々しさなどは、見ていて笑える気持ち良さもあり(ここら辺のシーンは実際は前後してます)、この30年ぶりの、にわか楽団がどうするんだと不安を持たせながらも期待は膨らんでくるo(^-^)o

オーケストラ!

オーケストラ!

(C) 2009 - Les Productions du Tresor

 そして物語のもう一つの主軸である、アンドレイの悔恨。鍵を握るのは、ソリストとして絶対条件の元指名した、アンヌ=マリー・ジャケと言う押しも押されぬトップスターヴァイオリニスト。

 この方が実に美しく、観ると分かる、ラストの回想の演奏シーンは実に素晴らしく美しいのです。( ̄○ ̄;)

 話戻って、どうやらジャケが深くアンドレイ達と関わっているのが分かり、私的に憶測したのは憶測でしかなく、ジャケの育ての親でマネージャーのギレーヌ、アンドレイの親友で楽団のチェリストのサーシャ、アンドレイの妻、オーケストラが演奏中にKGBに打ち切られたチャイコフスキー協奏曲が絡み、音楽の様に複雑な人間関係が織り込まれ、チャイコフスキー協奏曲の演奏でクライマックスへと向かう。

 その30年ぶりのチャイコフスキーの演奏の始まりは、リハーサルも商売や勝手ちりじりしてメンバーがすっぽかしたため、ぶっつけ本番、もちろん音はバラバラ突拍子も無いオーケストラと呼ぶには程遠い演奏(; ̄Д ̄)

 ところが、アンヌ=マリーのヴァイオリンで、そのオケが一つのハーモニーを奏で出す♪

 アンヌ=マリーは演奏で実の両親の存在を知り、アンドレイは共産主義の対抗や主義と言うより、もっと強いイデオロギーであった音楽の高みへ手を伸ばしたため、そのために悲劇が生まれ、その全てを演奏で又手に取り戻す。

アンヌ・マリー

アンヌ・マリー

(C) 2009 - Les Productions du Tresor

 この演奏に伴う回想イメージシーンは、悲劇的であっても、精神の自由と幸せなのでは?と思わせる深い味わい。

 クラシックに疎い私も、ラストのチャイコフスキーのオーケストラのハーモニーと臨場感には、知らずに涙が一滴。

 ラストには演奏終了後、名を馳せたアンドレイと楽団が、アンヌ=マリーと世界中を演奏旅行したり、アンヌ=マリーに写真を見せて邂逅する様子や、音楽と言う真の自由を手に入れたメンバーがコミカルに描かれたシーンが差し込まれていて、最後までコメディを通した演出にはなっている(*^m^*)

 ただし、この演奏後のシーンは逆に高まったオーケストラの演奏の合間に入っているため、邪魔に感じるかもしれず、私はコメディの姿勢を貫いた作品として捉えたけれど、要らないかも?と言えなくもない(>_<)

 最後まで観て、とてもドラマがあり良質の作品だけれど、30年ぶりの一発演奏があんなに巧くいくかい?等々賛否両論分かれる所もあり、ご都合主義と捉えるか、巧く見せるか見せないかの手腕が見たかった気もするけれど、この作品は作品で成立してもいいかなと、個人的には思えた(o~-')b

 一度観て、あのオーケストラのギュッと詰まったラストに向けて、娯楽作品として見ても、人間ドラマか、共産主義社会での社会思想、人権問題も含めた見方をしても、それよりも音楽って凄いなあとはやはり思える、一度きり観るのが素敵な作品♪

オーケストラ!

オーケストラ!

(C) 2009 - Les Productions du Tresor

 ましてや映画館こその迫力と音楽への共感もあった気持ちがする。

 どちらにしろ、大人のコメディドラマ映画としては、後悔しない一本かとも思える(^-^)g

森晶緒(大人のファンタジーとの評もあった)

 知識無しに見ても面白いだろうけれど、もちろん背景の共産主義時代のソ連や、ペレストロイカ以降の混乱と自由のロシアの政治的背景、元KGB共産党員のパリでの一揆を目論むも現代社会とのズレの現実(この人は最後に重要な役割で面目躍如します)も知って観ると、又更に面白いo(^-^)o

 オーケストラ、音楽、コメディと入り易い入り口から大人のドラマが織り込まれた、一度はオススメなフランス映画では珍しい逸品です(フランス映画苦手なので)(^_^)v

 

/// end of the “cinemaアラカルト113「オーケストラ!」”///

 

(追伸)

岸波

 この映画には、もう一つの見方があるかもしれません。

 そもそも、“替え玉のオーケストラ”がやすやすとパリに行くことが出来た理由は、KGBのスパイであるイヴァンがパリで開催される共産党大会に出席するために、アンドレらのパリ行きを利用したことにあります。

 それこそがこの替え玉興行の“真の目的”だったのです。

 また、名指揮者であったアンドレが地位を失ったのは、30年前、公演しようとしたコンサートをKGBの手によって妨害されたことにありました。

 ところが・・・

 イヴァンがそこまでやって参加したパリの共産党大会は、30年前とは比較にならないほど閑散としたものでした。

 そして皮肉にも、かつての名指揮者アンドレがタクトを振るった公演には多くの観客が押し寄せたのです。

 これこそが時の流れ。

 かつて世界中に広まった共産主義は時の流れとともに支持を失ったのに対し、人々に感動を与える名演奏は時を超えて支持され続ける…。

 この光と影の対比。

 “歴史の審判”というのはよく言われることですが、本当に大切なもの・美しいものは、時を超えることができるのです。

 制作者の意図は、意外とそんなところにあったのかも知れません。

 

 では、また次回の“cinemaアラカルト”で・・・See you again !

アンヌ・マリー

アンヌ・マリー

(メラニー・ロラン)

(C) 2009 - Les Productions du Tresor

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To be continued⇒  “cinemaアラカルト114” coming soon!

 

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