こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
絶対、女を捨てない。
己を曲げない。
そして、どこまでも自由。
~その男、多襄丸。 ・・・観てまいりました、小栗旬くんの「TAJOMARU」。
剣の達人、多襄丸が悪人どもをバッタバッタとなぎ倒す痛快時代劇・・・と思っていたのですが、あらら、なんか違うぞ・・・。
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TAJOMARU
(C)2009「TAJOMARU」製作委員会 |
これって、暗い映画?
芥川龍之介だものね。
そっか、原作「藪の中」って書いてあったっけ。「藪の中」ねぇ…?
黒澤映画の「羅生門」よ。
ええー!! (リメイク?)
まあ「羅生門」のリメイクというよりは、「藪の中」のワンシーンをテーマに取り込んだオリジナル・ストーリー。
黒澤明の「羅生門」とは別な話が展開します。
さて、いったいどのような話なのか。
物語の舞台は、室町時代末期の乱世。
代々京都の管領職を担っている武家の名門畠山家には、二人の幼い兄弟がいました。
その次男・直光(小栗旬)が、許婚の阿古姫や兄・信綱とともに家に戻ると、なにやら家中が騒ぎになっています。
芋を盗んで家臣たちに捕らえられているのは、汚いナリをした同じ年頃の少年。
直光はそれを見て「おなかが空いているのだろう」と許してやり、「桜丸」という名前を付けて自分の家臣に召し抱えたのでした。
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信綱と直光
(C)2009「TAJOMARU」製作委員会 |
時は流れて成長した直光たちですが、阿古姫の父親である大納言一族が事故により急死。
畠山兄弟のもとを訪れた将軍足利義政は、「阿古姫と結婚し大納言家の財産を継いだ者を管領とする」と告げるのです。
阿古姫は次男・直光の許婚、しかし、畠山家の家督と管領職は、当然長男・信綱が継ぐものと考えていた兄弟は動揺します。
将軍の真意を測りかねると同時に、互いに疑心暗鬼に陥る二人。
兄の信綱は桜丸にそそのかされて、阿古姫をむりやり我がものにしてしまいます。
同じ桜丸から、そのことを密告された直光は、兄の館に乗り込んで阿古姫を奪い、そのまま駆け落ちをすることに。
ほくそえんだのは、桜丸。
直光が居なくなったのをいいことに、今度は兄・信綱を殺し、自ら「次男・直光」に成りすまして畠山家を乗っ取ってしまうのです。
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阿古姫と直光
(C)2009「TAJOMARU」製作委員会 |
森の中を逃げる阿古姫と直光。
ところがそこに、異様な風体をした盗賊が現れます。
盗賊は多襄丸(松方弘樹)と名乗り、姫と金目のものを置いてゆけと・・。
え? 松方弘樹が多襄丸?!
たしか、CMポスター(右の写真→)には、“その男、多襄丸。”と、小栗旬くんが写っていたはず?
何でだろうと思っているうちに、直光と多襄丸の一騎打ちが始まります。
しかし、多襄丸の強さは圧倒的で、殴られた直光はあえなく気を失ってしまいます。
そして、再び気づいた直光の目に飛び込んできたのは、多襄丸に陵辱されてしまった阿古姫の姿!
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多襄丸と直光の決闘
(C)2009「TAJOMARU」製作委員会 |
「お前が気に入った、ワシのものになれ」という多襄丸に対し、阿古姫の口からとんでもない言葉が。
「はい。でも一つだけ条件があります。あの男(直光)を殺して!」
あらららら・・・。
自分が畠山兄弟の確執に巻き込まれ、挙句の果て盗賊にまで陵辱されてしまったのは、元はといえば全て直光にかかわったせい。
あの男がいる限り、兄・信綱の追っ手に命を狙われ続けなければならないと。
いや、あの、ちょっと、その理屈はとんでもないんじゃないの~と頭の中がぐるぐる廻ってしまうのは、当の直光も同じ。
この言葉にあきれた多襄丸は、「とんでもない女だ。むしろ、あの女を殺してやろうか」と直光に。
ドサクサにまぎれて逃げ出した阿古姫。
慌てた多襄丸の隙をついて、今度は直光が多襄丸を刺し殺す。
虫の息となった多襄丸は、自分の宝剣を直光に託し、「今度は、お前が多襄丸と名乗るんだ。この宝剣は、代々そうやって受け継がれて来た」と・・。
こうして“多襄丸”を名乗ることになった直光は、やがて盗賊たちの御頭となるのですが、さて、謀反人桜丸との決着は?
そして、阿古姫との運命は・・・?
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盗賊の手下
(C)2009「TAJOMARU」製作委員会 |
さて、芥川龍之介の短編小説「藪の中」は、もともと「今昔物語」の説話を題材としたもの。
この説話は、盗賊に襲われて馬も弓も奪われ、挙句の果てに藪の中で木に縛り付けられて、目の前で妻が手篭めにされてしまうのをただ見ているという情けない男の話です。
「藪の中」では、この男が殺された様子を7人の証言者によって叙述されています。
しかし、この証言者たちの言い分は「男の自殺」、「盗賊による他殺」、「女房による他殺」と、ことごとく食い違うのです。
結局、真相が明かされないこの話の謎を巡って、これまで100編以上の論文が書かれたといいます。
また、真相がはっきりしないことを“藪の中”と言うようになったのも、これが由縁です。
映画「TAJOMARU」の最大の謎は、直光が目覚めた時、なぜ阿古姫の言動が豹変したのかということですが、ここを“藪の中”に終わらせたのでは、さっぱり分からないストーリーになってしまいます。
ということで、映画の終盤、多襄丸と直光の決闘の一部始終を見ていた証言者が現れて、その謎が明かされることになります。
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TAJOMARU
(C)2009「TAJOMARU」製作委員会 |
しかし、この映画では、ベテラン男優陣が渋い良い演義を見せてますねー。
まずは、足利将軍役の萩原健一。
盲目で僧形の老将軍、オマケに男色家というトンデモない役を怪演しています。
そのおどろおどろしさ、桜丸を操って大納言家の隠し黄金を狙うという憎たらしさ、右に出るものがいないでしょう。
そして、初代・多襄丸の松方弘樹。
決闘の場面、ワンシーンしか出てきませんが、この大盗賊は貫禄があって、それでいてひょうきんで、なおかつ性格が“いいひと”という複雑な役柄なのです。
おそらく、自分で役作りをしてしまったのだと思いますが、最後の謎が明かされた部分で、「なるほど、このためにそういう役作りをしたのか」ということが思い知らされます。
こういう解釈を出来る俳優、ざらにいるものではありません。
また、畠山家の人徳の篤い家老を演じている近藤正臣や所司代役の本田博太郎も好演です。
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足利将軍(萩原健一)
(C)2009「TAJOMARU」製作委員会 |
しかし・・・それにしても・・・・・・
阿古姫役の女優さんは、かなり荷が重かったのではないでしょうか。
謎解きされても、どうにも納得がいかないのです。
決闘シーン後の直光を口汚く罵る表情・・・真に迫っていてコワイです。
あれでは、いくら後で「本心ではなかった」と言われても、にわかに信じる気にはなれません。
“本当は相手を思い遣りながら心にも無いことを言う”という複雑な感情の機微が表現できていないのです。
また、ストーリー的にも疑問が。
これでは桜丸が悪人過ぎて、演じていた若い俳優が気の毒です。
彼の心をそこまで追い詰めた背景の説明が、あれだけ(内容はナイショ)では不十分でしょう。
さらに、演出では、地獄谷のシーンの異様さ。
そこに何時間、あるいは何日間居たのか分かりませんが、あんな状態になったのに、すぐに崖をよじ登って復讐を果たすなど考えられません。(特に阿古姫)
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TAJOMARU
(C)2009「TAJOMARU」製作委員会 |
と、いろいろ納得のいかない部分もありましたが、とにかくベテラン男優陣の演義は特筆もの。
小栗旬くんの演義は、一部酷評する向きもありますが、僕はそう思いません。
正義への熱い情熱、底知れぬ絶望、再び立ち上がろうとする決意の表情、どれもこれも素晴らしいものでした。
また、“謎解き”についても、一番肝心な部分(多襄丸の役割)は伏せておきましたので、そのことが明らかになった時のカタルシス・・・すっきりしますよ~!
ともかくも、旬ちゃんファンにはオススメですね。
/// end of the “cinemaアラカルト100「TAJOMARU」”///
(追伸)
岸波
この映画では、小栗旬くんの泣くシーンがたくさん出てきます。
この“涙”について、本人は「あれは目薬ですよ。隠れて(目の下に)ハッカ棒も塗っていたんです」と。
しかし、その真相はどうだったのか?
共演者たちによれば「本当に泣いていたに違いない」と。
その秘密について、中野監督は・・・
「旬くんは負けず嫌いだから、共演者に負けじと泣いていたんじゃないかな(笑)。多い時は一日20回くらい泣いていたよ」
~とバクロいたしました。
では、また次回の“cinemaアラカルト”で・・・See you again !
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初日舞台挨拶
(“新宿ミラノ1”にて) |
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