◆私はドアの鍵をあけ、彼女を私の私室に通した。新しくもないくすんだ赤いじゅうたん。緑色の書類箱が五箱。…その中の三個にはカリフォルニアの空気だけが入っている。(レイモンド・チャンドラー『大いなる眠り』)
◆事件についても僕についても忘れてくれたまえ。だが、その前に、僕のために「ヴィクター」でギムレットを飲んでほしい。」(レイモンド・チャンドラー『長いお別れ』)
◆「金銭的余裕がなくても、希望すれば尋問を受けるまえに弁護士を依頼することができる。おまえにはこれらの権利がある。警官が教えてくれるのはここまでだが、ほかにもいくつかあるだろう。だがな、おまえには、おれを虚仮(こけ)にする権利はないんだ」…そうまくしたてるなり、もう一発殴った。(ダグラス・E・ウィンター『撃て、そして叫べ』)
◆「あなたみたいな冷血動物、見たことないわ。フィルって呼んでもいいでしょう? 私のこともヴィヴィアンって呼んでいいわよ」
「ありがとう、リーガン夫人」
「地獄でも行きなさいよ、マーロウ」
(レイモンド・チャンドラー『大いなる眠り』)
◆「あなたの仕事は、どのくらいのお金になるの?」
「普通は25ドル」
「一日25ドルなのね」
「哀れな、悲しいドルさ」
「とても淋しい?」
「燈台のように淋しい」
(レイモンド・チャンドラー『かわいい女』)
◆ハードボイルドは、爛熟した、ややアブノーマルですらある都会の世界を一人の探偵役が醒めた眼で見つめながら苦笑いとともに洩らすワイズクラックの切れ味にこそ値打があるので、その辺を理解できぬ人には永遠に無縁のものだろう。(ミステリ翻訳者:小泉喜美子『やさしく殺して』) |