物心付いてから
夏といえば海だった
山へも登った
でも、やっぱり海だった
波打際で打ち寄せる波音に耳を傾ける
戯れる人々の嬌声も気にはならない
森で風の流れる音の中では人気を避けている
独り静かに屋根を打つ雨音に耳を傾けていても
自然の音以外に邪魔はされたくない
季節外れの海に独り佇んでいても
たまに現れる人影には何故か安堵する
不思議なものだ

初冬の暗い北極海で
轟音と共に打ちつける風と波には
海から拒否されている様だったが
それでも 何故か海に向かって安堵感があった

遠い昔 夜の吹雪の中、連絡船のデッキで
闇から現れては吹きつける雪に向かって
吸い込まれそうになった時も
恐怖感は無かった
ただただ海だァと感じていた
不思議なものだ
今、誰もいない海で
波音に耳を傾けながら
とりとめもなく海を想っている
大和伸一【2025.9.25掲載】
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