「ひとり旅」読み続ける程に
 眠っていた記憶の引き出しが開いてくる

 久しぶりに見る児童公園のSLに
 雪の中、カメラ担いで歩いた宇津峠を思い出す

 頭に入れた運行表を頼りに
 長いトンネルを歩いて、ようやく出口の明かりが見えてきた頃
 遠く汽車の汽笛が聞こえた
「…⁉️」
 まさかの臨時列車だった

 

 カメラ肩に慣れぬ線路を出口に向かって走った
 汽笛鳴らしながらトンネルへ入る列車と
 出口から飛び出したのが同時だった
 ギギギ〜と止まる列車
 運転手が降りてきて 「大丈夫かァ❓」

 半ば雪に埋もれながら
「大丈夫ッス‼️」
 元気な声に安心したのか、何も聞かずに
 煙をモウモウと吐きながら走っていった
 頭の中には始末書という文字が浮かんではいたが
 いまだに通知は来ない…

 オホーツクの海では
 流れ着いた流氷の上から一番列車を撮っていたら
 後から駅員に叱られた
「落ちたら死にますヨ」って

 足元から聞こえていたギシギシという音に
 気がつかないってのは無謀な若さかもしれない

 あの当時のフィルムは
 幾度となく繰り返した引越しの最中に
 何処へ消えてしまったが
 目を閉じると
 今でも雪原の中を煙をたなびかせながら走る
 SLの姿が見える

大和伸一【2025.4.10掲載】

 Photo by 大和伸一
 MP3 by 甘茶の音楽工房「ブナの森に舞う雪」
 Essay by 大和伸一
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