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 Sydneyからの下り最終電車
 友人と飲み過ぎたおかげで
 発車時間に改札口をヨロヨロと走り抜けた
 事情を察した警備員が 「俺について来い❗️」と走り出した

 広い駅構内
 警備員の怒鳴り声で車掌がドアを閉めず待ってくれていた
 先の乗客達の覚めた目線の中 ようやく見つけた席に座ると、
 今度は睡魔が襲ってくる

 例によって車内アナウンス等は無く
 寝過ごせば、終点は遥か知らない街
 眠い目をこじ開けながら、
 通過駅の名前を確認しているうちに なんとか辿り着いたが、
 暗いひと気の無い駅舎から出た時、
 アッここは日本じゃないのだと思い出した

 

 タクシーが一台ポツンと止まっている
「何処に行くんだい?」
 返事もせず乗り込んで 「海の方!️」

 ホテルのある暗い海の方へ向かいながら
 ラジオから流れてくる音楽に 外国を感じた

 汽車が好きだ
 遠い昔、正月に里帰りしたものの 暇を持て余して、
 冬の日本海を旅した時の
 海沿いに走る汽車の車窓が忘れられない

 あたり一面暗い灰色の世界で
 空と一体化した海からは雪と風と波が吹きつけてくる
 その暗い夕方 遥か水平線と付いていた黒い雲が一瞬切れて
 真っ赤な帯が現れた

 カメラを手にしていたのに身体が動かない
 フィルムではなく瞼に焼き付いた夕陽だった

 

 トンネルへ入る汽笛でフッと我に返り
 不思議そうに見ていた隣の席の子供達に シャッターを切っていた

大和伸一【2025.3.27掲載】

 Photo by 大和伸一
 MP3 by 甘茶の音楽工房「ブナの森に舞う雪」
 Essay by 大和伸一
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