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「windblue」 by MIDIBOX


9月12日(土)14時から錦糸町のトリフォニーホールで沼尻竜典(1964年10月9日生まれ。結構若いと思っていたらもう62歳!)指揮新日本フィルのコンサートを聞いた。

 S席(1階16列33番)のシルバー割引で4150円(シルバー割引なしなら定価5500円。手数料150円)だった。

 このコンサートがあることに気づくのが遅かったので、2階前方センターとか1階ならもう少し後ろでセンター寄りが良かったが、仕方ない。やはり音が頭の上を飛んで行く感じで解像度がイマイチ。

 このコンサートはオールラヴェルという実に魅力的なプログラムで、シルバー割引があったので来てみた次第。この錦糸町とか川崎、池袋などはコンサートが無ければまず来ない街なのだが、よく来るようになると愛着が湧いてくる。錦糸町のように隅田川を渡るなんて両国で相撲見物でもなければ滅多にないことだ。

 

 ラヴェルの音楽というのは、哀しげで謎や秘密がある美女のように私は感じているが、嫌いな人間はいるのかしら。沼尻竜典指揮新日本フィルは同じプログラムの2日目ということもありミスの少ない整った演奏で、ラヴェル好きの私は十分楽しめた。

 もちろん予習で聞いたクリュイタンス指揮パリ音楽院管弦楽団の香り高い「シャルム」は望むべくもないが。一番良かったのは「ダフニスとクロエ」第2組曲の「全員の踊り」とアンコールの同第1組曲「戦いの踊り」かな。リズムのキレが素晴らしかった。

 

 ところで、前半2曲目の「クープランの墓」(管弦楽編曲の4曲)は、le  tombeau(トンボー)を「墓」と訳した誤訳は「クープランを讃えて」が本意なのはいいとして、第1次世界大戦で亡くなった知人への追悼も兼ねているというが、どう考えても追悼、哀悼、葬送というような曲調が感じられないのが不思議だった。

 Wikipediaで調べると、そうした曲調への批判は当時から確かにあったらしい。「死の事実以上に悲しみは要らないだろう」というラヴェル自身の反論がある。それとこの曲の1919年4月11日の初演(夫が戦死したマルグリット・ロンのピアノによる)の時に反ラヴェル派のある批評家が「ラヴェルの『クープランの墓』はたいへん結構だったが、これがクープランによる『ラヴェルの墓』だったらもっと結構だったろう」と皮肉ったというが、この批評は音楽史に残る胸のすくような「名批評」だと思う。断じて「迷批評」ではない(笑)。

 「クープランの墓」

 この批評家の名前は何というのだろうか?いつも可哀そうに「ある批評家」としか書かれない。何万回となく引用されているはずだが。たとえば有名な批評としてよく挙げられるのはエドゥアルド・ハンスリックのチャイコフスキーヴァイオリン協奏曲のウィーンでの初演についての批評だ。「この曲は安酒に混じっているフーゼル油のような嫌な匂いがする」。これはハンスリックという当時の最も高名な批評家ということもあり、ちゃんと実名入りで紹介されている。以上2例からも分かるが、歴史に残る名批評は「否定論」だということにも注目したい。

 20分の休憩後の最初の曲は久末航(ひさすえ・わたる。1994年8月19日生まれ32歳。2025年エリザベート王妃国際音楽コンクールピアノ部門第2位)のピアノで「左手のためのピアノ協奏曲 ニ長調」。

 予習はアルゲリッチ、ユジャ・ワンで同じラヴェルのト長調のピアノ協奏曲でしてきた。プログラムを見て「え、左手なの?」とビックリ。久末は一筋縄ではいかないピアニストのようだ。依頼者&初演者パウル・ヴィトゲンシュタイン(あまりに難しくて勝手に変更したためにラヴェルとは仲違いした)ならともかく両手があるピアニストなら両手で弾けばいいのにと思う馬鹿者は私ぐらいかな。注意深く観察したが、久末はもちろん左手だけで弾いていた。

 この曲、ゴダールの映画「パッション」の青空に飛行機雲が描かれる冒頭のシーンにこの曲の冒頭が使われているのを思い出す。冒頭はコントラバス、コントラファゴット、ファゴットなどの低音楽器による不気味な音楽だ。

「パッション」1982年

 今回この冒頭はちゃんと演奏されていたかな?久末の演奏は最初ちょっとモタモタした印象だったが、後半にかけて尻上がりに調子を上げて熱演になった。

 アンコールの「道化師の朝の歌」はよく弾けていたが、もっと弾んだリズムが欲しかった。席のせいなのか、ピアノ(スタインウエイ)の響に輝きが無かった。

 いろいろ注文はあったが、オール・ラヴェルのコンサートを満喫した。

(2026.10.9「岸波通信」配信 by 三浦彰 &葉羽)

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