出不精というわけではないが、現在私はあまり旅行というのをしない。言ってみれば、私にとってアマチュア・オーケストラのコンサート(土曜日、日曜日、祝日開催が殆ど)を首都圏の様々な演奏会場で聞くというのが、小旅行みたいなものなのである。
例えば今回(8月15日土曜日14時開演)は武蔵小金井の小金井 宮地楽器ホール(大ホールは1階385席&2階184席の計569席)でクレッセント・フィルハーモニー管弦楽団の演奏会を聞いた。
武蔵小金井駅(東京都小金井市)で降りるのも初めて、演奏会場(同駅南口徒歩5分)も初めて、このアマチュア・オーケストラを聞くのも初めてだった。
このクレッセント・フィルは2002年に中央大学管弦楽団のOG・OBによって結成されたという。なんと全席自由で無料だった。13時45分ぐらいに入場して、2階センターの最前列に座った。客の入りは8割程度だった。やはりこの会場の広さでは音が飽和気味で、ヌケが悪い。
記憶を辿ると今回第1曲目のベートーヴェン交響曲第2番は、我が人生では初めてコンサートで聞く。信じられないが多分間違いない。
クレッセント・フィルのレベルはBクラスの中~上というレベルだろうか。弦楽器編成はは10ー8-6-7-4。コントラバスがあと1~2台欲しいが、聞いてみると4人が頑張っていた。管楽器は基本2管編成。ホルンとヴィオラ、チェロがちょっと不安定。コンサートの最初の曲はやはり慎重になるのか?調子が出ないのか?それともこのベートーヴェン2番というのが難しい曲なのか?
昼飯を食べ過ぎたためか私自身も第2楽章は曲調もあって失礼ながらちょっとウトウトしてしまった。第3楽章、第4楽章はそれなりに盛り上がっていた。
20分の休憩後は、シューベルトの交響曲第8番「ザ・グレート」。第7番とか第9番とか表記されていた曲だが、最近はこの8番で定着したようだ。この曲もアマチュア・オーケストラはあまり演奏しない曲だ。私もアマチュア・オーケストラでは初めて聞く。最近だとムーティ指揮ウィーン・フィル来日公演(2021年11月サントリーホール)で聞いたり、鈴木優人読響(2021年10月29日サントリーホール)で聞いたのが最後だから5年ぶりか。
さて、クレッセント・フィル、冒頭のホルンはやはり自信無げな感じ。当然何十回となく練習したはずだが。もっとも、ウィーン・フィルでも読響でもここはイマイチだった。
しかしその後は、指揮者の佐藤寿一が指揮台を踏み鳴らして𠮟咤激励、次第次第に熱を帯びて来て、早くもズーム状態に入る。なかなかのものである。こうなってくると下手上手いの問題ではなくなってくる。ここがアマチュア・オーケストラの良いところだ。
指揮者の佐藤寿一
第2楽章のオーボエのソロは表情が明るすぎて今ひとつに思えたのだが、繰り返すうちに哀し気な色調を帯びて来て、これも演奏設計だったのか。この辺りからこちらも上気してきて、何か目頭が熱くなってくる。
最初のベートーヴェン交響曲第2番作曲時ではもうベートーヴェンには難聴の兆候が表れていたとプログラムには書かれているが、恐らくこのシューベルトの「ザ・グレート」ではシューベルトは梅毒に侵されて死を意識する段階にあったはずである。
両作品とも作曲者の「もがき」みたいなものを聞こうと思えば聞こえないわけではない。そうしたことを感じさせる演奏だった。第3楽章のスケルツォの荒々しさと中間部の憧れに満ちた静けさの対比が見事だった。間の取り方が絶妙だった。
そして、いつ果てるともない終楽章の「憧憬」「闘争」。その果ての圧倒的な勝利。
(※下は、演奏会終了後の指揮者の佐藤寿一とクレッセント・フィル。(小金井 宮地楽器ホール)
繰り返しは全部演奏したのか、演奏時間は1時間を超えていた。ヴィオラ奏者と第2ヴァイオリンが演奏中に弦を切ってしまうほどの力演・熱演だった。いやあ、これは良い演奏会だった。この佐藤寿一という指揮者、タダモノではない。そして、クレッセント・フィルの名も心に刻んでおこう。
ただし、アンコールのシューベルトの「楽興の時」第3番の管弦楽編曲版は弦楽器の音程が怪しくて、完全に余計だった。
(20260.9.11「岸波通信」配信 by
三浦彰
&葉羽
)