「windblue」 by MIDIBOX


神尾真由子(ヴァイオリン)と萩原麻未(ピアノ)のデュオ・リサイタルを三鷹の武蔵野市民文化会館大ホール(定員1400人)で聞いた(12月11日木曜日19時開演)。

 神尾は11月7日にトリフォニーホールでチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲(藤岡幸夫指揮新日フィル)を聞いたばかり。なかなか面白いヴァイオリニストで、ソロリサイタルを聞いてみたいと思っていた。

 武蔵野市民文化会館でリサイタルがあったが、ホームページではチケットは売り切れ。まさかと思って電話したら、「ありますよ」とのことでまさに天の思し召し!「求めよ、されば与えられん」である。しかも、9列目のセンターだった。評論家席か関係者席のようだ。この席がなんと1500円(全席同額)だった!評論家か関係者がキャンセルしたようだ。

 この2人は、最近よく共演しているようで、そのプログラムは、前半がシンディングのヴァイオリンとピアノのための組曲「古い様式で」とグリークのヴァイオリンソナタ第3番で、後半は名曲集。

 12月6日(名古屋市・宗次ホール、全席6000円)12月7日(東京都あきる野市S&Dキララホール、全席5500円)ともにそのプログラムだったが、今回は前半がベートーヴェンの「クロイツェル・ソナタ」。

 これがアザトサ全開の「クロイツェル」で、古典派ベートーヴェンの格調やバランス感などは薬にもしたくない疾風怒濤の激烈な演奏。最初こそやや不安定だったが、その後は神尾の超絶技巧と気迫が炸裂。とにかく弓圧が強くて切れ味鋭い音。痛快と言えば痛快なのだが、批判もありそうなベートーヴェンだ。

 第2楽章にはもっと沈潜した深さが欲しかったが、やはり強烈な打鍵の萩原のピアノも相まって大いに興奮した。この萩原麻未は実演では初めて聞くピアニストだがたいへんな実力者だ。

 後半の名曲集は、どの会場でも以下の7曲を演奏しているようだ。今回も同じ。美音(使用楽器は宗次コレクションから貸与の1731年製ストラディヴァリウス「RUBINOFF」)。この宗次コレクションは、カレーハウスCoCo壱番屋の創業者の宗次徳二氏が保有する楽器のコレクションだ。

 神尾&萩原がリサイタルをしていた前述の宗次ホール(名古屋市)もクラシック音楽好きの宗次氏がオープンしたものだ。カレーチェーンで大成功した宗次徳二氏(1948.10.14 ~)は孤児なのだが、立志伝中の人物だ。すでにCoCo壱番屋の株の51%はハウス食品グループに2015年売却している。興味あればWikipedia参照。

 話が脱線したが、神尾真由子のテクニックは筋が実にいいのだ。こういう演奏家は小曲の方がいい。最近のコンサートでは以下の7曲をコンサート後半に演奏しているが、今回も後半は同じだった。

 

 軽い弓使いであっさり弾くというのも巧いが、「中国の太鼓」「熊蜂の飛行」「ツィゴイネルワイゼン」などはピッチカートの巧さや速いパッセージの均質性など驚異的な技巧を遺憾なく披露。

 難しくなればなるほど冴えてくるという天性のテクニシャンぶりを発揮してくれた。ちょっと唖然。

 

 アンコールは2曲。バッツィーニの「踊る妖精」がトドメという感じ。あまりの見事さにのけぞってしまった。

 こういうタイプのテクニシャンは久しぶり、というよりよくよく考えるとあまり聞いたことがない。ヴァイオリニストの「アーティスト化」が進んでいるのかもしれない(笑)。

 晩年のサルヴァトーレ・アッカルド(「パガニーニの再来」と言われた)でパガニーニのコンチェルトを東京で聞いたことがあるが、失望したのを記憶している。神尾は現在39歳、超絶技巧をベースに気迫で奔放に弾きまくるスタイルでは今が絶頂ではないのだろうか。

 そう言えば、このホールで10月16日に、ヴェロニカ・エーベルレのヴァイオリン、三浦謙司のピアノで「クロイツェル」を聞いていた。エーベルレもテクニシャンだったがタイプが全く違う。

12月6日の宗次ホールでの演奏後の神尾真由子と萩原麻未
(KAJIMOTOのXより)

 偏見だと言われるだろうが、神尾真由子(1986年6月12日大阪府豊中市生まれ39歳)はなんとなく大阪のオバチャンを感じさせるのだ(笑)。

 この日もアンコール演奏前にスピーチ。「今回私は初めてこのホールで弾きましたが、来年3月に私の夫(ミロスラフ・クルティシェフ)がこのホールでピアノリサイタルをします。私はチャイコフスキーコンクールのヴァイオリン部門最高位(第1位)ですが、夫も同じコンクールのピアノ部門の最高位(第1位なしの第2位)でした。夫婦揃って最高位はそうそういません。是非チケットを買ってください」。なんのこっちゃ(笑)。

 これ大阪のオバチャンじゃないとまず言いません(笑)。それとステージ衣装がやっぱりそれっぽくて、ベートーヴェンの「クロイツェル」をフューシャピンクのしかもかなり深いスリットが入っているロングドレスで演奏していた。

 後半は着替えてアイボリーの、前半ほどスリットは深くないロングドレスだった。ちなみに萩原は前半がラメ入りの黒のロングドレス、後半は白のロングドレスだった。

(2025.12.26「岸波通信」配信 by 三浦彰 &葉羽

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