一体、このEnsemble MUSIK QUELLCHEN という団体は何を考えているのだろうか?
音楽の小さな泉のようなアンサンブルという意味だが通称EMQ。ジャズの団体じゃあるまいし、もう少しマシな名前があるのじゃないかな。
早稲田フィルのOB・OGを中心にして1995年に誕生したが、当初は室内楽が中心だったようだが、最近はオーケストラ曲を定期で演奏している。今回は第30回の記念演奏会だという。

私がEMQを聞くのは今回が初めて。会場の杉並公会堂のある荻窪までドアツードアで50分。酷暑の中、遠くはないが、近くはない。
それでも今回行こうと決めたのは、なんと曲目が交響曲の最高峰であるブルックナー交響曲第8番ハ短調。私の最愛の曲である。
え、この曲をやるの?いい度胸してるじゃないか!しかも、入場無料、全席自由で「なるべく早めの入場をお勧めします」。
杉並公会堂
馬鹿にしてるのか?ブルックナー交響曲第8番をやるほどのアマチュア・オーケストラなら3000円出しても行くというのに(最近だと坂入指揮東京ユヴェントス・フィルのマーラー交響曲第5番が3000円で大名演)。
というわけで、全く期待もせずに杉並公会堂へ。荻窪なら旨いラーメンがついでに食べられるし、身の程知らずなアマチュア・オーケストラを聞きに行ってみるか、タダだし(笑)。しかしタダほど高いものはないとも言うが。
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しかし、これが大変な名演だったのである。アマチュア・オーケストラとしてはこれ以上は望めないような水準だったのである。
もちろん弦楽器はもっと洗練された味わいが欲しいし、金管楽器が完璧と言うわけではない。しかし、この異形の大交響曲の本質と核心を捉えていたことは間違いないのだ。
死の告知、大自然の慰藉、神の恩寵、闘争と昇華と言った内容を余すところなく表現している。アマチュア・オーケストラの金管はコントロールが難しいので咆哮しがちなのだが、その金管の咆哮が素晴らしいのだ。
まさに恩寵という感じで音が溶け合う。プロのオーケストラでは味わえない高揚感があった。オーケストラの全員がこの曲が好きで好きでたまらないのが分かる。
指揮者の征矢健之介
オーケストラに加えて、指揮者の征矢健之介(そやけんのすけ)という人物がちょっと凄い。経歴はこんな感じだ。
◆征矢健之介の経歴
1954年、長野県生まれ。早稲田大学教育学部中退、武蔵野音楽大学器楽科ヴァイオリン専攻卒業。これまでにヴァイオリンを萩原耕介、ルイ・グレーラー各氏に師事。東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団第一ヴァイオリン奏者をつとめた。
早くからアマチュアオーケストラへの教育指導活動にも熱心に取り組み、早稲田大学フィルハーモニー管弦楽団のトレーナー兼相談役を務め、早稲田大学OBオーケストラ、Ensemble Musikquellchen(EMQ)、ニューイヤー祝祭管弦楽団、伊那フィルハーモニー管弦楽団、東久留米交響楽団のなどの指揮・指導を行ってきた。近年では音楽評論家としても活躍中。東久留米交響楽団へは長年指導者として参与し、2023年より常任指揮者としてタクトをとっている。 |
左半身に麻痺があるようで、杖を突いて歩くし、椅子に座ることもあるが大半は立って指揮。まるで晩年のクレンペラーとかジェフリー・テイトみたいな感じだが、指揮ぶりはもっと情熱的。
ブルックナー休止が実によく決まっていた。オーケストラのメンバーが慕っているのを感じた。このブル8を自家薬籠中にしているのは、演奏前のオーケストラを使ったプレトークででよく分かった。
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しかし、このブル8、本当に凄い曲である。なお今回はハース版を使用し、シンバル&トライアングルは第3楽章で2発。第4楽章では使っていなかったような気がする。
なお楽団名の件や指揮者の読み方の表示がないことなど、EMQの段取りは悪かったなあ。無料なのも面倒くさいからではないのかな。
終演後は募金箱が置かれていたけれど、そんなことをするぐらいならチケットをちゃんと売ればいいのに。
私は19列目のほぼセンターで聞いたが、この良席でも解像度が今一つ。この杉並公会堂は2階で聞くべきホールのようだ。
(2025.9.26「岸波通信」配信 by
三浦彰 &葉羽 )
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