5月28日水曜日14時から初台の新国立劇場でロッシーニ作曲「セビリアの理髪師」を鑑賞。
オーケストラはコッラード・ロヴァーリス指揮東京フィル、演出はウィーン生まれのヨーゼフ・E.ケップリンガー。ケップリンガーの演出は新国立劇場では2005年の初登場以来2006年、2012年、2016年、2020年と上演され続けている。
ヒロインのロジーナの住む家をカラフルな2階建て&部屋ごとの分割&回り舞台にした凝ったもので、それぞれの部屋で様々なことが同時に展開される。この劇場の自慢のプロダクションのひとつだろう。
キャストは以下の通りだ。

何と言っても2020年に続いて、ヒロインのロジーナを歌うメゾソプラノの脇園彩(わきぞのあや)が注目だった。5年前に比べて進境は明らか。
他の主要登場人物は外人歌手だが、これに伍して、歌唱も演技も一歩も引けをとらないどころか圧倒気味なのだ。
ほかの部屋でメインストーリーが展開するのををよそに自室で目覚めのセクシーなヨガ体操?を披露する余裕さえある。主役が日本人のスター歌手だとやっぱり盛り上がりが違う。
 |
街の何でも屋フィガロ役の名歌手カンディア、ロジーナの後見人でその遺産を狙った結婚をたくらむバルトロ役のマストロト-タロも驚異的アジリタなど芸達者ぶりを発揮している。
ロジーナに求愛するアルマヴィーヴァ伯爵は冒頭スーツ姿で現れるが、その後バルトロ邸での宿泊許可証を持った酔っ払い兵士、音楽教師ドン・アロンソと2回変装をするが、これを演ずる小柄な黒人テノールのローレンス・ブラウンリーがちょっと違和感があるのだが、これがまた逆に面白かった。

特にサングラスをかけた酔っ払い兵士ぶりはラッパーかDJみたいで見ただけで噴き出してしまった。私は人種差別主義者ではない、念のため。ブラウンリーの歌唱が定評通り立派なのは言うまでもない。
脇を固めるのは、日本人歌手でみんないい仕事をしているが、もっとハメを外してもいいと思ったが。
その中では、バルトロの女召使ベルタ役の加納悦子の虚無的と言えるほどの白けた演技がやはり良かった。バルトロ邸の近くの売春宿をなんと経営しているというヤリ手婆!アイロンもかければ、雇い主バルトロの膝に載ったり、アリアまで歌うのだ。
2016年、2020年もベルタを演じていたが、新国立劇場のバイプレーヤー列伝では、今回も2012年、2016年に続いて音楽教師バジリオを演じた妻屋秀和は別格にしても、特筆すべき存在になっているのではないか。

毎度褒めるが、ロヴァーリス指揮東京フィルには今回も大満足。このイタリア人指揮者は新国立劇場では2019年「ドン・パスクワーレ」、2023年「ファルスタッフ」でも腕達者なところを見せたが、今回も巧みなサポートぶり。これに応える東京フィルも反応よく好調だった。しかしまあ、ロッシーニの音楽の天才的なところを今回も存分に味わえて幸せだった。
気になったのは、フィナーレで、兵隊がバルトロ邸のフランコ将軍の肖像画を外してゴミとして捨ててしまうところ。時代設定が「フランコ政権下の1960年代のセビリア」というケップリンガーの演出なのだろうが、なくもがなではないだろうか。
 |
平日のマチネなのに、9割がたの入りだった。高校生が見学でかなり入っていた。「魔笛」「蝶々夫人」がよくオペラ鑑賞演目として選ばれているようだが、これは断然「セビリアの理髪師」がお薦めだと思う。
「兵隊のひとりがロジーナの部屋を捜索しているときにブラジャーを盗んでいた」などと高校生たちは幕間に楽しそうに感想を話していた。
もし私がこんな本格的なオペラの舞台を高校生の時に見ていたら、間違いなくオペラ制作を職業にしていたと思う。
(2025.6.13「岸波通信」配信 by
三浦彰 &葉羽 )
|