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3月4日火曜日、初台の新国立劇場でビゼー作曲のオペラ「カルメン」(14時開演)を鑑賞した。5回公演の中日(中日)だ。

 平日のマチネーだというのにほぼ満員という盛況だ。さすがに「カルメン」である。こういう演目はほかに「蝶々夫人」「椿姫」「トスカ」「アイーダ」ぐらいだろう。

オペラ「カルメン」 (C)新国立劇場

 そう言えば先月(2月20日から24日まで)は、二期会が日本人歌手&日本人女性指揮者(沖澤のどか)で「カルメン」を4回公演していた。

 今回の新国立劇場も2月26日から5回公演。いくらドル箱でもやり過ぎではと思ったら、今年は「カルメン」初演150周年&ビゼー没後150周年だという。

 ビゼーは「カルメン」の初演の大失敗で失意のうちに心臓発作で37年の短い生涯を閉じたのだった。

 まあ聞く側からしたら、そういう周年はあまり関係ないから、東京でこの2週間余りに9回の公演は、「カルメン」というオペラの魅力によるものだろう。

 

 さて私が鑑賞した新国立劇場のカルメンは、コロナ禍真っ只中の2021年の新制作されたアレックス・オリエ演出による舞台の再演である。

 原作では煙草工場の女工であるカルメンを早逝した実在のポップスターのエイミー・ワインハウスに見立てた演出で、これはなかなか面白い。

 許嫁ミカエラがありながらカルメンに翻弄される伍長のドン・ホセはカルメンが出演するコンサートの警備員である。

 やがてカルメンとホセは麻薬の密売組織の手先に落ちていく。現代でも闘牛士は人気稼業であり闘牛士エスカミーリョはそのままだ。

 この置き換えはなかなか巧くて成功している。観客は最初何が起きているのか戸惑うだろう。それにパイプで作ったコンサート会場が実に巧みに変化していく。最後の第4幕ではホセの入る牢獄をイメージしている。

 左上から、指揮者のガエタノ・デスピノーサ、演出のアレックス・オリエ、カルメン役のサマンサ・ハンキー、下段左から、ホセ役のアタラ・アヤン、エスカミーリョ役のルーカス・ゴリンスキー、ミカエラ役の伊藤晴。

  デスピノーサ指揮の東京交響楽団が実に素晴らしい演奏を聞かせた。このところの東京交響楽団はピットに入ってもコンサートでも絶好調だ。

 新国立劇場合唱団(指揮:三澤洋史)も相変わらず見事だ。TOKYO FM 少年合唱団も少年合唱としてはこれ以上望めないぐらいの合唱を聞かせた。

 

 主役のカルメンを歌ったサマンサ・ハンキー(メゾ・ソプラノ)は1993年生まれの31歳。バイエルン州立歌劇場、メトロポリタン歌劇場などで今売り出し中のソプラノだ。

 美人だしスタイルもいいし、アメリ人ということで今回のカルメン役にはまさにピッタリの存在だ。ただしカルメンを演じるのは今回が初めてということで、最初のアリア「ハバネラ」からかなり慎重な歌唱と演技だったように思う。

 声が届いて来ないのはちょっと不調なのか。ただしさすがに第4幕では迫真の演技を見せていた。

オペラ「カルメン」 (C)新国立劇場

 ホセ役のアヤン、エスカミーリョ役のゴリンスキーは水準以上の歌唱だったが、それ以上に拍手を浴びていたのはミカエラ役の伊藤晴(いとうはれ)。

 ここ3回ほど新国立劇場のミカエラは砂川涼子が歌って好評を得てきたが、注目の伊藤が初めて歌った。ミカエルという役はそもそも得な役だが、見事な歌唱だった。

 伊藤と並んで注目されたのが、今回新国立劇場初登場のフラスキータ役の冨平安希子(ソプラノ)だ。

 

 カルメンに寄り添う2人のロマの女はフラスキータとメルセデス(十合翔子)だが、「カルメン」は10回以上聞いている私だが、いまだにこのフラスキータとメルセデスの違いが分からなかった。

 しかし、今回ついに分かった。目が自然にフラスキータばかり追いかけてしまうのだ。それぐらい冨平はオーラとフェロモンがを発していたのだ。

  冨平安希子

 私は、昨年二期会の「影のない女」で皇后役の冨平を聞いているが、この難役を好演していた。ひょっとしたらカルメンもやれるのではないか。

 ちなみに冨平の夫君は新国立劇場合唱団指揮者の冨平恭平だ。

(2025.3.21「岸波通信」配信 by 三浦彰 &葉羽


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