「windblue」 by MIDIBOX


昨日(11月16日土曜日16時開演)、サントリーホールで、アンドリス・ネルソンス指揮ウィーン・フィルのコンサートを聞いた。

 6月のチケット争奪戦に敗れ、仕方なくこのCプログラムのA席(4万円!)を選んだ。第1希望は、Aプログラム(五嶋みどり独奏のプロコフィエフバイオリン協奏曲第1番とマーラー交響曲第5番のS席4万5000円)だったがすぐに無くなっていた。

 ミュンヘン・フィル、ロンドン交響楽団、フランク フルト放響に見向きもせずに、ネルソンス指揮ウィーン・フィルに賭けたのにCプロのA席とは。着いてみると、LDの2列目ー10。これはちょっと遠すぎないかな。

 しかし、この席がなかなかだった。まるで妙なる美音を天上から聞くという感じなのだ。バランスも素晴らしく、金管の咆哮はちょうど良いくらいなのだ。ここは穴場なのかもしれない。

 演奏は、第1曲のムソルグスキー(ショスタコーヴィチ編曲)の歌劇「ホヴィンシチナ」から第1幕への前奏曲「モスクワ河の夜明け」から信じ難い弦楽器のシルキーな音、フルート(シュッツ)、オーボエ、クラリネット(オッテンザマー)の素晴らしい技巧と美音。5分ほどの曲だが、夢の世界にすでに入った。

 第2曲は、ショスタコーヴィチの交響曲第9番。これも文句なし。軽やかで、哀しくて、しかも深い音楽。第3楽章のファゴット(ソフィー・デルボー)が超弩級のソロ。第4楽章の速度を急速にあげるところも一糸乱れぬアンサンブル。こんなに凄いウィーン・フィルは、2020年(ゲルギエフ)、2021年(ムーティ)、2023年(ソフィエフ )では聞かれなかった。私が聞いた中では2006年のアーノンクールのブルックナー交響曲第5番に匹敵する。

 第3曲のドヴォルザーク交響曲第7番はもう自家薬籠中のレパートリーだろう。第2楽章のヤネシッツのホルンには落涙しそうになった。今回の来日公演のマーラーの交響曲第5番ではホルンは不調だったようだが、そんなことが嘘のような快演。

 上手い上に絶対に真似のできないウィンナホルンの渋い音色。2021年のシューベルト交響曲「グレイト」や2023年のブラームス交響曲第1番で不満だった鬱憤を晴らした思い。さらにピッコロ、

 オーボエ、フルートが鳥の鳴き声に聞こえる瞬間があって驚かされた。こんなことは初めての経験だ。ドヴォルザークはそういう狙いで作曲したのがはっきり分かった。

 いやあ、お腹いっぱいのコンサートだった。その上にアンコール2曲。もっともこれは私には余計だったけれども。

終演後にカーテンコールに応じたネルソンス
(クラシックジャーニー氏のブログから借用)

 50kg痩せたというが、たどたどしい歩き方や禿げ上がった頭髪などを見ると、病気ではないのだろうか。

 現在ウィーン・フィルを操れる指揮者はネルソンス(1978年 ラトヴィア生まれ)しかいないのをこの日のコンサートで確信した。

 他のコンサートの出来は知らないが、この日のコンサートは今年では間違いなくベスト。チケット争奪戦に敗れたのが逆にラッキーだった。

 やはりウィーン・フィルは世界一のオーケストラだ。クラシック・ファンだった幸運に浸った夜だった。

(2024.11.22「岸波通信」配信 by 三浦彰 &葉羽

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