最昨晩(8月9日金曜日)、サントリーホールでダニエル・ハーディング(1975年8月31日生まれ48歳)指揮都響(コンサートマスター:水谷晃)のコンサートを聞いた。当日10時にWEBチケットで14列25番(S席9000円)という良席が取れたこともあって、久しぶりに重い腰を上げた。
なんとハーディングは都響初登場だった。2021年7月に初登場の予定がコロナで中止になっていたのだ。
あれ?当日メインのマーラー交響曲第1番巨人ってハーディング指揮で聞いたことない?コンサート備忘録を探すと2018年12月7日のパリ管弦楽団で聞いていた!感銘度S(S、A、B、Cの4段階評価)だった。
札幌で転倒骨折し車椅子で登場し椅子に座っての指揮だった。恐ろしいことだが、その感銘度Sの公演内容が思い出せない。前半のイザベル・ファウストのベルクの協奏曲の方が印象に残っている。
さて昨晩の前半は、ニカ・ゴリッチのソプラノ独唱によるベルクの7つの初期の歌。この曲、リヒャルト・シュトラウス風の歌曲だが、作曲者晩年のオーケストラ伴奏が付くと新ウィーン学派風になる。
15分ほどの曲だが、youtubeで予習するとガランチャ(ラトル指揮ベルリン・フィル)、フレミング、ダムラウ、ジェシー・ノーマン(2種ともブーレーズ指揮)、アメリンク、バーバラ・ボニー(シャイー指揮コンセルトヘボウ)など百花繚乱。
ゴリッチはスロヴェニア出身の中堅歌手。スリムな美人でターコイズブルーのドレスが似合う。美声で音程はしっかりしているが、声のサイズが小さくて、私の14列中央でも聞こえない音があるぐらい。曲が良いので楽しめたが。
後半はマーラー巨人。ハーディングの十八番で「ハーディング・セット」というパート譜を持ち歩いて演奏していて、今回もそれを使用。第4楽章のホルンの立奏の脇にトロンボーン奏者が一人いつの間にか立って演奏していたり、いろいろ工夫が凝らされているようだ。
カーテンコールにて
第1楽章はモッサリした演奏で始まったがコーダ前から急アクセルがかかった。いやあ、都響って最近よく聞いているが、とにかく金管楽器にミスが少なく、全体のアンサンブルを支える弦楽器が素晴らしい意味深さを感じさせるのだ。それにフォルティッシモの決して空虚にならない迫力が素晴らしいのだ。
第2楽章、第3楽章も取り立てて新奇なことをしているわけではないし、アゴーギグが激しいわけではないが、充実感が漲ってくる。
第3楽章からアタッカで続く第4楽章もそうした特徴で第1楽章冒頭の回想もアザトさはないのに、実に自然な感銘につながる。名演奏とはこんな感じなのではないだろうか。要するに、オーケストラをこの指揮者に褒めてもらいたいと本気にさせるのが、指揮者の仕事なのだということなのだ。
なんとパイロット免許を持ち、2019年から指揮活動に加えてエールフランスのエアバスを定期的に操縦している。一時はパイロット業務に専念していた時期もあるが、今は指揮活動にも戻っている。
パイロットでもある
2024年10月からは、アントニオ・パッパーノの後任として、ローマのサンタチェチーリア国立アカデミー(オーケストラと合唱団)の音楽監督に就任する。イギリス・オックスフォード出身。17歳で指揮者デビューし19歳でベルリン・フィルを指揮した天才だが、そろそろ巨匠への入り口に立っているのを実感した。
ハーディングの指揮する日本でのコンサートにはプログラムの如何にかかわらず出かけたいが、ハーディングが操縦するエアバスには絶対に乗りたくないものである。