「windblue」 by MIDIBOX


ピアニストのマウリツィオ・ポリーニ(1942年1月5日ミラノ生まれ)が3月23日にミラノで亡くなった。82歳だった。

 マルタ・アルゲリッチ(1941年6月5日〜)と並ぶ現役の大ピアニストだった。この2人が飛び抜けた存在と言っていいだろう。

 
 マウリツィオ・ポリーニ

 ポリーニは、2022年のザルツブルク音楽祭を健康上の理由でキャンセルし、同年10月16日のカーネギーホールを皮切りにスタートするアメリカツァーもその1カ月前に同様の理由でキャンセルしていた。心臓系の疾患だとされていた。2023年は復帰したが、10月30日の演奏会が最後だった。

 1960年のショパン国際ピアノコンクールで優勝したが、その後8年間の謎の空白があった。

2009年発売のアルバム「ショパン」のジャケット写真

 国際舞台に復帰後は「鍵盤の貴公子」として、圧倒的な成功を収めた。解釈は標準的で完璧なテクニックとクリスタルのようなクリアな音と強烈な打鍵が圧倒的だった。しかし、2000年以後はテクニックの衰えもあり、否定な意見も出始めた。

 私がポリーニの実演を聞いたのは、ただ一度しかなくて2002年11月22日(サントリーホール)。すでに衰えが見られ始めていたが、ショパンの前奏曲集とドビュッシーの前奏曲第2巻がメインだったが深い感銘を受けたのを覚えている。

 2月の小澤征爾続く大物音楽家の死で、自分の音楽受容の歴史を否が応でも振り返ってしまう。 

 なお私は2020年に以下のようなブログを書いていた。読み返してみると確かに幸せな晩年ではなかったような気がするのだ。合掌。

◆鍵盤の貴公子ポリーニはなんでこんなに酷い歳のとり方をしてしまったのだろうか?(2020-06-01)

 NHK BSのプレミアムシアターで2019年9月27日のヘラクレス・ザール(ミュンヘン)におけるマウリツィオ・ポリーニ(1942年1月5日生まれ 78歳)のピアノ・リサイタルを視聴した。曲は、ベートーヴェンの最後の3曲のピアノ・ソナタ30番、31番、32番。3曲を休憩なしで弾いたようだ。

 しかし、演奏は感心できるものではなかった。なんでこんなに弾き急ぐのだろうか。早く終わって帰りたいというのがアリアリと見える。ミスタッチはほとんどないのだが、速いテンポで一本調子、時折無意味なフォルテッシモが空虚に響く。味気ないこと夥しい。

 1970年代末期から80年代前半に気に入って繰り返し聞いていたポリーニのベートーヴェンピアノ・ソナタ後期3大ピアノ・ソナタはこんな感じだったっけ?そんなはずはない。

 

 ポリーニは1975年に30番、31番でベートーヴェンピアノ・ソナタ全集の録音を始め、1977年に32番を録音し後期3大ピアノ・ソナタをリリース(上の写真がそのジャケット)。

 全集は39年をかけて2014年に完成している。さらに後期3大ピアノ・ソナタについては、2019年6月、9月にミュンヘンで再録音している。今回のコンサートは、その再録音の直後ということになる。

 

 それにしてもポリーニは、見るたびに老け込んでいく。

 なにか、身体に悪いところがあるのだろうか。もうやめさせてもいいのではないか。もう引退させてあげて欲しい。 かつて鍵盤の貴公子と言われたポリーニ(上掲写真は1974年録音のショパン24の前奏曲のジャケット)の、こんな老いさらばえた姿を私は見たくない。

 ポリーニは、なんでこんなに酷い歳のとり方をしてしまったのだろうか。重い病を患ったか人生に絶望する何かがあったとしか思えない。

(2024.4.5「岸波通信」配信 by 三浦彰 &葉羽

PAGE TOP


  banner  Copyright(C) Miura Akira&Habane. All Rights Reserved.