昨日(2月8日木曜日14時)、初台の新国立劇場でガエターノ・ドニゼッティ(1797〜1848)のオペラ「ドン・パスクワーレ」を見た。2019年にこの劇場で初演した演目だ。
ガエターノ・ドニゼッティの晩年1843年に初演された喜劇だが、代表作のひとつだ。とにかく頭に残って離れないような名旋律に溢れているし、アジリタ(早口)唱法による声の技巧に魅了されるのだ。
イタリアオペラの絶頂はヴェルディだという「常識」は、もしかしたら誤りなのではないかと思えてくるのだ。
さて「ドン・パスクワーレ」のあらすじは以下の通りだ。
70歳のケチで頑固なドン・パスクワーレは、同居人の甥のエルネストに「遺産を譲るから、私の提案する縁談を受けてくれ」と強要。しかし、エルネストは「恋人(ノリーナ)がいるから縁談は受けられない」と断る。すると怒ったパスクワーレは「甥を追い出して、私が結婚する!」と言い出す。そこにパスクワーレのお抱え医師にしてエルネストの友人のマラテスタは「友人エルネストとノリーナを救う」ために計略を練る。パスクワーレがその策略にはまり、「エルネストとノリーナの結婚が認められた」ところでハッピーエンド。
いろいろと矛盾があり、都合よくできている。「ノリーナをそんなに愛しているなら、エルネストはさっさとドン・パスクワーレ邸での居候をやめて自立したらいいのに」というのが最も多い疑問だろう。それにとってつけたようないい加減な終結は一体なんだ!と思う。
しかし、登場人物たちの歌と声に免じて目をつむろうということになる。
まず今回ミケーレ・ペルトゥージ(バス)が演じたドン・パスクワーレ。押し出しのいいパスクワーレで声も歌唱も素晴らしい。もう少し遊びがあってもと思うが、そういう演出なのだろう。
パスクワーレのお抱え医師にしてエルネストの友人であり今回の謀りごとの首謀者のマラテスタを演じたのは上江隼人(かみえはやと、バリトン)。これがなかなかの好演だった。声量十分でアジリタの技巧も安定していて、演技も外人勢と互角にわたりあっていた。
エルネスト役は、アルゼンチン出身のファン・フランシスコ・ガデル(テノール)。前半は有名なアリアを含め、やや音程が不安定だったが後半は見事な歌唱だった。ファン・ディエゴ・フローレスを思わせるような甘い声が魅力的だ。
ノリーナ役はイタリアの新進ソプラノのラヴィニア・ビーニ。高音がキツくて苦しそうで叫びになっていたのが残念だったが中音域は美しかった。ノリーナの「変身」がこのオペラのキモだが、見事な演技だった。
オーケストラはレナート・バルサドンナ指揮東京交響楽団。前公演の「エウゲニ・オネーギン」でも見事だったが、今回も序曲の急速な出だしで合わなかったのと第1幕でのエルネストのアリアでのトランペット・ソロでちょっと乱れたのを除けば、イタリアベルカントオペラの伴奏になりきっていて感心した。
「ドン・パスクワーレ」という初心者には聞きなれないオペラだが、実態は初心者にも十分楽しめるオペラである。演出(ステファノ・ヴィツィオーリ)が割とハメをはずしていないのでちょっと笑える場面は少ないが、第3幕の厨房のシーンなど私は大笑いした。
2月10日土曜日14時から最終公演がある。