村上春樹(1949年1月12日生まれ74歳)の6年ぶりの長編小説「街とその不確かな壁」が4月13日に発売になった。初版30万部。新潮社が発行元。
どの記事を見てもなぜか値段が書かれていないが、アマゾンで調べると単行本、Kindle(電子書籍)ともに税込みで2970円!
最近最新本を買ったことがないので、この2970円には驚いた。
食料品や電気代の高騰は身につまされているのだが、672ページの長編(400字詰で1200枚)ではあるが、2970円ってどうなんだろう。
これで100万部は確実と言われているのだが、2970円×100万部=29億7000万円、印刷代・紙代1000円として原価は10億円。新潮社にとっては10億円以上の利益になるが、思惑通りいくのだろうか。
ある出版業界関係者は、「恐ろしく上質の紙を使っている。同じページ数でも半分ぐらいの厚さになっているが、それでも2970円とは爪を伸ばしたものだね。村上春樹も74歳。多分ノーベル文学賞は無理だし、今回も40年前に『街と、その不確かな壁』として『文学界』(文藝春秋)に発表されたもの。本人はあといくつ長編が書けるかと思うと、40年ぶりに決着をつけたかったという。それを今さらわずかに題名を変えて発表したわけだから、創作意欲の衰えは歴然としている」と語っている。
それにしても、村上春樹のタイトリングは下手だ。タイトリングのワースト1位は「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」だろう。
編集者に発言力があるなら絶対にこんなことにはならないから、村上春樹が悩み抜いて苦しまぎれに決めているのだろう。今回の「街とその不確かな壁」ももうちょっとなんとかなりそうなものだが。
村上春樹の長編の販売部数(単行本・文庫本の累計)をランキングすると以下の通り。
第1位:ノルウェイの森(1987年):約1000万部
第2位:1Q84(2009・2010年):約860万部
第3位:羊をめぐる冒険(1982年):約247万部
第4位:ダンス・ダンス・ダンス(1988年):約227万部
第5位:ねじまき鳥クロニクル(1994・1995年):約227万部
「1Q84」以降の「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」(2013年、長編13作目)、「騎士団長殺し」(2017年、長編14作目)が評判にあまりならなかったから「1Q84」が最後の輝きだったのではないかという声が多い。
しかし長編13作、長編14作についても、発行部数は100万部を楽々と超えている。とにかく村上春樹の小説はファンがいて売れるのだ。
一種のサスペンス仕立てのストーリーは凝っているし、随所に面白いエピソードや威言を散りばめ、そこはかとなく喪失感や不条理な運命を考えさせつつ、突如としてSEXに走ってしまう男女というオマケも付いて、これがウケないはずはない。これが村上春樹の小説である。今回も展開は大体予想がつくのである。
しかし2970円の値段はともかく、読み始めたら止まらなくなる小説であり、これで丸々2日はつぶれてしまう。
「コスパもタイパも悪いじゃないか」とムキになるのは若い証拠だ。もう会社勤めを辞め時間があり余っている「老人」には是非ともお薦めしたい。
村上春樹ファンもそうした50~60代がメインなのだろうから。