「windblue」 by MIDIBOX


昨晩(11月18日)、初台の新国立劇場で藤倉大(ふじくらだい)作曲のオペラ「アルマゲドンの夢」の公演2日目を見た。

 原作は、1901年に発表されたH.G.ウェルズの「世界最終戦争の夢」という短編(「世界最終戦争の夢」という日本語タイトルで文庫本もある)だ。

 11月15日にゲネプロ(最終稽古)を見学していたが、本番の昨晩は細部がさらに作り込まれた舞台になっていた。

 客の入りは80%程度という感じだろうか。日本人作曲家による英語のオペラの世界初演だが、こんなものだろうか。1幕仕立てで休憩なしの1時間40分の演奏時間だが、過不足なし。

 一般に、第1幕が1時間20分、25分の休憩で第2幕が1時間15分でトータル3時間というのがよくあるオペラのパターンだが、ぶっつけ1時間30分程度のオペラはもっとあっていいのではないか。

 藤倉大の音楽を1週間ほどYouTubeで聞き続けてみたが、私の数少ない現代音楽体験では、類似の音楽が思い当たらなかった。

 プロファイルには師事した教師の名前がない。ルトスワフスキ、ペンデレツキ、クセナキス、リゲティみたいなところもあるし、ミニマルミュージックっぽいところもあるが、いずれでもない。

 まあ、藤倉大の音楽ということなのだろう。聞きにくくはない。陶酔的な旋律もあるぐらいだから。それに藤倉大の音楽性はオペラに向いているように思う。

 語弊があるが、映画的にオペラを捉えて成功しているようである。無いものねだりだが、もう1曲アリアがあっても良かったかな。台本、演出もよくまとまっていた。

 電車の中と夢で出てくる南の島を行き来する。どちらが現実でどちらが夢なのか、分からなくなってしまうという難しい設定を、奈落や回り舞台を駆使して巧みに表現していた。

 リディア・シャタイアーはなかなかクレバーな演出家である。そんな中、2、3気になったことがあった。

1.ベラが南の島での甘い生活から、一転して全体主義団体「サークル」に抵抗するようになるのが、かなり唐突で面食らう。

2.「サークル」の残忍性をもっと表現すべきではないか。映像と檻に入れられた1人が拷問だか処刑されるだけでは十分とは思えなかった。

3.翻訳のせいか、ベラと冷笑者の対話がよく分からなかった。

 このオペラは世界中でかなり上演されるようになるのではないかと思う。非常に今日的なテーマだし、何より音楽が素晴らしい。

 昨晩も大野和士指揮東京フィルのマッシブなフォルティッシモ、繊細なピアニッシモが冴え渡った。加えていつもながら新国立劇場合唱団の見事さには脱帽だ。

 余計なことだが、カルト集団「サークル」のメンバーを演じたこの合唱団員が顔にマスクをしているため、いつも日本人合唱に感じる役柄上の違和感がなく、自然にストーリーに入りこめたことを付記しておきたい。

 そして、遂に海外の歌手(主役の3人)が来日し、2週間の隔離生活を経て、ステージに現れたことに大拍手したい。やはり日本人歌手の英語歌唱とは一味違った。

 オーケストラでは先々週、先週のウィーン・フィル&ゲルギエフのコロナ禍での来日が大きな話題になったが、オペラでは新国立劇場が先鞭をつけた。

 またまた、感染者数が最高を連日記録して暗雲が漂っているが、シーズンが終わる7月までなんとかこのままいってほしいものである。

(2020.11.27「岸波通信」配信 by 三浦彰 &葉羽

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