TV録画(NHKBS)していた映画「戦場のピアニスト」(2002年 ロマン・ポランスキー監督 2時間30分)を見る。
名作の誉れ高い映画だが、今まで見ないで来た名画のひとつだった。
ポランスキー監督(1933年8月18日〜)が母国ポーランドのユダヤ人の悲劇を呵責ない克明なリアリズムで描き尽くしている。
ユダヤ人はゲットーという町はずれの特別地域に隔離されるのだが、そのゲットーでも上から下までちゃんとした階層化が確立されているのだ。
また武装したユダヤ人がナチに無駄としか思われない抵抗をしている。
もちろん非ユダヤポーランド人のレジスタンスの報われない戦い。本当に胸が締め付けられる。
ナチのユダヤ人虐殺を描いた映画は枚挙に暇がないが、この映画は、ワルシャワに住むひとりのユダヤ人ピアニストを取り上げ、彼が奇跡的な生還を遂げる実話小説を基にしているが、見事な構成だ。
そして、それを映像化するポランスキーの映像作家としての腕の確かさに驚かされるのだ。
自身が、ポーランド・クラクフのユダヤ人ゲットーに押し込められ、父親の機転で脱出した経験が隅々まで生かされているようだ。
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音楽好きのナチ士官の気まぐれでピアニストは死地を脱する。 |
ポランスキーというと処女作の「水の中のナイフ」(1962)から、「反撥」(1965)、「袋小路」(1966)、「ローズマリーの赤ちゃん」(1968)、「チャイナタウン」(1974)、「赤い航路」(1992)「告白小説、その結末」(2018)など、最近に至るまで常にヒネリを効かせる映画監督という印象なのだが、この「戦場のピアニスト」は、まさに体験を基にしたヒネリのない正統派の映画で、ポランスキー自身が「墓場にもっていくとしたら、この映画」と選んだ映画なのだというのも分かる。
妻だった女優シャロン・テートが虐殺される事件、自身の幼児性虐待によるアメリカ追放など、私生活ではスキャンダルで有名なポランスキーだが、この映画を見て、その映画監督としての稀有の才能に改めて気付かされた。
(2020.9.18「岸波通信」配信 by
三浦彰 &葉羽)
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