「windblue」 by MIDIBOX


8月15日は終戦記念日(敗戦記念日)なので TVでは戦争映画のオンパレードであるが、我が畏怖するスタンリー・キューブリック監督(1928〜1999)の「フルメタル・ジャケット」(1987年 キューブリック監督 1時間56分)を TVではあるがやっと 見ることができた。

「非情の罠」(1955年)以降が商業映画だが、その商業作品の中では唯一見ていなかった作品だったので、本当に嬉しい。

キューブリック監督

 ちなみにその作品を列記しておくと: ・「非情の罠」(1955) ・「現金に体を張れ」(1956) ・「突撃」(1957) ・「スパルタカス」(1960) ・「ロリータ」(1962) ・「博士の異常な愛情」(1964) ・「2001年宇宙の旅」(1968) ・「時計仕掛けのオレンジ」(1971) ・「バリー・リンドン」(1975) ・「シャイニング」(1980) ・「フルメタル・ジャケット」(1987) ・「アイズ ワイド シャット」(1999) やはりこうして列記すると「2001年宇宙の旅」が冠絶したベストワンだとは思う。

 しかし、本格化した「博士の異常な愛情」以降の7作には駄作はない。

 ちなみに私が全作見ている映画監督は、アンドレイ・タルコフスキー(1932〜1986)とピーター・グリーナウェイ(1942〜)、タル・ベーラ(1955〜)しかいない。

 さて「フルメタル・ジャケット」は、キューブリックの最後の前の作品だが、晩年という感じはしない。しかし二部構成というのがちょっと衰えと言えば衰えか。

 とは言え、並の戦争映画にはないヒネリが素晴らしい。そしてブラックな味わいが堪らない。

 この海兵隊新兵訓練所の教官役(R・リー・アーメイ)は本来演技指導でやってきた経験者で素人だが、キューブリックがその迫力に圧倒され起用した。これがこの映画の成功の最大原因になった。

 後半のベトナムでの戦闘シーンにもヒネリがある。簡単に言うと、人の死を実にシニカルに描いているのだ。神の冷笑と言っていいかもしれない。そしていつもながらの素晴らしいカメラワークに感嘆させられる。

 そして、日本語字幕ではスラング、卑猥フォーレターワードのオンパレードで、「え、これいいの?」と心配になるレベル。

 この映画は最初、映画翻訳の女王こと戸田奈津子(1936〜)が日本語字幕を担当したが、キューブリックがその英訳を読んで、お上品で穏当な翻訳に「バカヤロー、何考えてんだ‼️」となって、即交代。

 それで、このスラング、卑猥フォーレターワードのオンパレード状態になったのだという。

 そんなことも含め、キューブリックのベトナム戦争映画をすっかり堪能した敗戦記念日だった。

(2020.8.21「岸波通信」配信 by 三浦彰 &葉羽

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