10月に入り、最高気温が25度を切り始めると、これはもうラーメンの季節である。
銀座に行列のできるラーメン屋が久方振りに現れたという情報を得て、銀座での仕事を終えて、現場に急行。
何々、晴海通り「グッチ」ビルと「アクリス」ブティックの間の薄暗い路地を歩いていくと右手に行列が見えてきます、だと。
禁煙という張り紙が何枚も貼られているにもかかわらず、作業着姿のおじさんやワイシャツ腕まくりのサラリーマンが紫煙を燻らしている暗く狭い路地を歩く。
ところどころに昨夜の大雨の水溜りができている。ここが天下の銀座のど真ん中(4丁目)とはとても思えない。
2分も歩くと確かに行列が見えてくる。最後尾に回る。なんのことはない、いわゆる松屋通りを入ってすぐのところ。
あんな路地を歩かなくともよかったのであるが、まあなんか銀座の探検みたいで、それはそれで、よかったのだが。銀座には、こうした迷路のような路地がまだ残っている。
太宰治がスツールの上で立膝している有名な写真の舞台になったBAR「ルパン」とかベトナムラーメン「八真茂登」とか寿司の名店「寿司仙」「小笹寿司」なんかはみな路地裏である。
銀座は好きな街だが、とくに路地裏の名店にたまらない郷愁を感じる。
また路地裏の名店が誕生するのか、期待が膨らむ。午後2時30分、私の前に8人の行列。
店の名前は「篝(かがり)」。(※右の背景画像)⇒
店は白木で囲まれ洗い晒しの白い暖簾が清々しく、どう見ても割烹、小料理屋の風情。30分待って白木のコの字カウンター8席の一番奥に通される。
店員は合計3人。どうもこの行列はしばらく続きそうなので、再訪してまた並ぶのも嫌なので一気に2杯、煮干醤油SOBA(800円)、鶏白湯SOBA(850円)を注文(私もまだ若い!)。
「どちらを先にお出ししますか?」と作務衣姿の接客係が尋ねるので煮干醤油を先に。待つこと10分で着丼。
スープを10口。思わず唸り声が出るほど旨い。
煮干などの魚介風味が効いてうまく豚骨などの動物系とマリアージュし、しかも煮干し特有のエグミがまるでない上品な味わい。
和食の出汁の基本を知っている料理人なのではないのか。これほどの高水準の醤油スープは久し振りだ。
また三河屋製麺の中細ストレート麺が小麦の旨みを感じさせると同時にスープによく絡む。
これは久しぶりの90点。
これに比べるといわゆる昨今ブームの鶏ポタ(鶏出汁ポタージュラーメン)の鶏白湯SOBA(客の70%が注文)は鶏の臭みを見事に消してはいたが、バターの風味が勝ちすぎてちょっともたれた。
2杯目だったためかもしれないが。70点。
蛇足だが、煮干醤油SOBAの具材のローストビーフ(チャーシューにプラス)、鶏白湯SOBAのイクラ、ヤングコーンは一食完結主義だとしても余計ではないか。
たしかに久方ぶりの銀座の行列ラーメン店である。志の高さが感じられる店だ。また「グッチ」と「アクリス」の間の薄暗い路地を歩いて来ることにしよう。
(2013.10.18「岸波通信」配信 by
葉羽&三浦彰)
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