業界関係者の間で最近秘かに話題になっている路面店舗と言えば、ザザビーリーグが手掛ける千駄ヶ谷の「ロンハーマン」とジュンのアダム・エ・ロペ事業部による代官山の「メゾン
ド リーファー」であろう。
何が話題なのかと言うといずれも年商20億円と関係者が広言していることだ。私はその20億円という年商を聞いて、俄かには信じられなかった。
20億円ショップと一口に言うが、銀座や表参道といった東京を代表するショッピングエリアに店を構える100坪~200坪クラスの店、つまり有名なラグジュアリー・ブランドの店ということになるが、そうした店でも年商20億円を突破する店は稀だ。
仮りに1階100坪(月坪家賃20万円)、2階100坪(月坪家賃10万円)の店を銀座の中央通りに構えるとその店の家賃合計は1ヵ月に3000万円、1年で3億6000万円。家賃比率の採算点が年商の25%だとすると14億4000万円が損益分岐点になる。
しかし、200坪級の店で14億4000万円を売る店はほとんどない。つまり、大半は赤字店舗なのである。
それから見れば、千駄ヶ谷や代官山(家賃は銀座の4分の1とか3分の1という水準)の20億円店舗というのがいかに驚異的な存在かが納得してもらえるのではないだろうか。
この2店いずれもセレクトショップだ。やはり今の日本のファッション小売市場ではセレクトショップ業態が強いということなのである。
「ロンハーマン」は315坪(2011年夏に拡大リニューアルを果たした)の広さで今流行の西海岸テーストのセレクトショップの先駆け店だ(2009年8月オープン)。が、なにせ陸の孤島とも言うべき千駄ヶ谷に店を構える。
原宿駅からでも千駄ヶ谷駅からでも徒歩15分。とてもフリー客を望める店ではなく、来店者のほとんどは車を使っての来店。駐車場の車を見ると、品川ナンバーの高級外車が多い。
このコンセプトがうけてロイヤリティの高いファンがいるのだろうが、年間100万円購買する固定客が2000人いて20億円である。
とても信じ難い話なので業界の情報通に聞いてみたが、「どうもそうらしいんですよ」という声が大半で、「まさか、そんな売り上げのはずがないでしょう。ヨットやセスナでも売っているのなら話は別だが」という返答は1人だけであった。
ヨットやセスナを売っているかどうかは知らないがどうも本当らしいのである。すでに「ロンハーマン」は日本に8店舗を構え、今秋には新業態「RHC」がマークイズみなとみらいにオープンした。
一方の「メゾン ド リーファー」は、タレントの梨花を起用したいわゆるタレント・ショップである。
「タレント・ショップと呼ばないで欲しい」とジュンからは釘を刺されているが、品揃えはプロっぽい本格的なセレクトショップである。
代官山の八幡通り沿いにあり、3年前なら決して恵まれた立地とは言えなかったが、2011年、代官山に蔦屋書店を中核にしたT-SITEが出来たことで、代官山の商業地としての価値は一気にハネ上がった。
そうしたこともあって、代官山への来街者は一昔前の倍にはなっているのではないかと言われるほど。さらに今年3月東横線と副都心線が直結したこともプラスに作用しているのではないかと言われている。
「メゾン
ド リーファー」への来店者の多くは、20代~40代の女性でそのほとんどは東横線の代官山駅を利用していると思われる。ここが前述の「ロンハーマン」とは顧客背景が大きく異なるところだ。
もちろん、梨花人気によるところは大きい。梨花の生き方そのものが、20代~40代の女性の共感を呼んでいるのは彼女がカバーになった女性誌の号の売れ行きが格別良いことでもわかる。が、人気の理由は、店の商品セクションが受け入れられていることだ。
もちろん梨花自身のセレクションもあるが、アドバイザーとしてあるファッション誌の編集長や有力スタイリストが加わっていることも理由だという。
この「メゾン
ド リーファー」のすぐ近くには辺見エミリを起用したセレクトショップグループのベイクルーズによるセレクトショップ「Plage(プラージュ)」が今年オープンしている。
単なるタレント・ブランドやタレント・ショップの寿命は短い。今まで数々のそうしたブランド・ショップを見て来たが、その生存率はほとんどゼロに近い。
生き残っている数少ない例としては、神田うのによるパンティストッキング「Tuche(トゥシェ)」(グンゼ)が市場定着しているくらいだ。
ジュンでは今後この「メゾン
ド リーファー」の多店舗化に乗り出す予定だ。
かなりラッキーに恵まれた観はあるが、ただのタレント・ショップではないことが証明できるかどうか注目したい。
(2013.9.27「岸波通信」配信 by
葉羽&三浦彰)
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