7月4日、エルメスジャポンから「知的財産保護についてのお願い」と題したメールが届いた。(※右の背景画像:エルメスジャポンの広告)⇒
内容を要約すると・・・①2011年9月、日本の特許庁において、「BIRKIN(バーキン)」と「KELLY(ケリー)」が立体商標登録されている。
②これにより、バーキンとケリーの形状に類似し商標権侵害とみなされる模倣品は、関連した法律にもとづき罰則の対象になる。
③加えて今年1月17日から、国内で流通している商品に加えて、海外から輸入されるバーキンの形状に類似した模倣品についても税関において差し止められることになった(ケリーは現在申請中)。
ラグジュアリー・ブランドにおいては、ロゴと並んで、アイコンは、他のブランドと自らのブランドを区別する重要な存在だ。
ロゴ(マーク)は、ズバリそのブランドを表す平面商標として、各国で登録されており、これを模造するのは確信犯的な罪であり、何の申し開きも通じない。一方、アイコン(立体商標)については、従来からその模造品は堂々と市場を闊歩して来た。
「エルメス」のバーキン風、ケリー風は言うに及ばず、「グッチ」のウェブやホースビットを用いた類似商品は、有名ブランド、無名ブランドを問わず、そのデザインに採り入れられて来た。
最近では「フェンディ」のバゲット、「クロエ」のパディントン、「セリーヌ」のラゲージやトラペーズの類似品が市場に所狭しと並べられている。もはや取り締まりを考えても途方に暮れるほどのおびただしい量になっているのは周知の通り。
アイコンバッグで有名なあるブランドの関係者は、今回の「エルメス」の立体商標登録について、「工業製品では当たり前の立体商標登録だが、ファッションの世界では『エルメス』が初めての例で画期的なことだと思う。我々も立体商標登録の申請を考えているが、弁護士に相談するとかなり難しいという答え。実際にその形状が現在もピーク時の勢いをキープしているかというとそういうわけでもないし」という答え。
「エルメス」の「ケリー」と「バーキン」は、それぞれ、1935年、1984年(「バーキン」の原型になった「サック・オータクロア」の誕生は1892年)にその原型が誕生している。その人気は年を経るごとに高まっており、世界中で入荷待ちの状況が続いており、今でも「商品があればすぐに売れる」。
日本の特許庁でも、こうした歴史が他のアイコンバッグとは決定的に異なり、流行を超えた普遍のアイコンとして認定がなされたのではないかと推察される。もちろん今回の立体商標登録が、模倣裁判での絶対勝利を保証するわけではないが、少なくとも立体商標登録という「お墨付き」は模倣者たちの戦意を喪失させるに十分な「抑止力」である。
日本の特許庁の今回の立体商標登録に、驚いてはいけない。アメリカでは、すでに「ティファニー」がそのショッパーやパッケージに使用している「ティファニー・ブルー」の宝石、時計に関する商標登録が認可されている。
2色、3色での登録は、一種のロゴ(マーク)登録とも言え、珍しくはないが、単色での商標登録には、特に日本では困難が伴いそうだが、前出のエルメスのオレンジなど、ブランドが特定の単色を、ブランド・カラーとして強烈に訴求する例は最近増え、ロゴ、アイコンに続くブランド表現として注目されている。
単色の商標問題では、昨年靴底の「赤」をめぐって、「クリスチャン
ルブタン」が「サンローラン」を訴え、部分勝訴する裁判があった。
ラグジュアリー・ブランドにとって、ロゴやアイコンやブランド・カラーは、それぞれのブランド独自の個性として、その模倣や模造については、その対抗姿勢を強めているような印象を受けるし、その法廷闘争の数も年々増加している。
最近では、「グッチ」と「ゲス」のGマークをめぐる裁判が話題になっている。
ニューヨークではグッチが勝訴し、お膝元のミラノでは「グッチ」の訴えは棄却され、グッチは上告している。
長い歴史と消費者からの支持を基に商標登録によって模造品を駆逐していくような高度な戦略は、いかにも21世紀的である。
ラグジュアリー・ブランドの今後の戦略として、さらなるグローバル化の推進があげられるのは言うまでもないが、もうひとつ知的財産権の徹底した取得も、大きくクローズアップされているように思われる。
かつては「コピーされてこそ本物」と模倣品の氾濫を黙認する大らかさが有力ブランドにはあったが、そうした20世紀的な優雅さはグローバル化が進む現代のラグジュアリー・ブランドにはない。
今回の日本の「エルメス」の立体商標権の取得はそうした流れを強く感じさせる。
(2013.8.3「岸波通信」配信 by
葉羽&三浦彰)
|