初台のオペラパレス(中劇場)で「三文オペラ」を観た。昨年10月にびわ湖ホールで行なわれ好評だった公演を「地域招聘オペラ公演」の対象として、オペラパレスが招聘したものだ。
「三文オペラ」は有名だし、内容も面白いのだがあまり上演されないようだ。私も今回が初めての体験だった。
(※右の背景画像:三文オペラのポスター)⇒
この「三文オペラ」はオペラなのかオペレッタ(軽歌劇)なのか、ミュージカルなのか歌入りの芝居(歌われる歌は音域的にはプロの歌手ではなくても十分に歌えるもの)なのか判然としない。判然としないから格式のあるオペラハウスではちょっと敬遠されるのかもしれない。
そもそもは、18世紀にジョン・ゲイが台本を書いて、ペープッシュが作曲して大ヒットした「乞食オペラ」("The Beggar's OPERA")を、1920年代に社会主義演劇の旗手ベルトルト・ブレヒト(1898-1956)がリメイクして作曲家のクルト・ワイル(1898-1950)に音楽を付けさせて、今日の形になったもの。
今回の上演は、ブレヒト&ワイルの「三文オペラ」の完全上演が売りで、普通はカットされるロンドン監視総監の娘で主人公のメッキ―・メッサーの愛人であるルーシーの「殺してやる」の超高音アリアも歌われた。
「三文オペラ」は全3幕だが、今回は20分間の休憩をはさんだ2部構成で、第1部1時間30分、2部1時間30分の長丁場。正直に言えばちょっと長い。しかし、ノーカットで観たこの「三文オペラ」、なかなか面白かった。
ブレヒトの社会主演劇というフレームをはずして観れば、ここには、社会の底辺に生きる乞食、泥棒、娼婦と言った人間の「本音」つまり、少々過激ではあるが人間の本質が語られていて、歌詞の含蓄に肯くことたびたび。
3時間の長丁場だが、やはり主役の泥棒団首領であるメッキ―・メッサーは儲け役である。迎肇聡が悪の論理をスタイリッシュに演じていて惚れぼれする。
それとメッキ―を争う3人の女の中では、一度ならず二度も愛するメッキ―の居場所を警察に密告する娼婦ジェニーが、女優なら一度は演じてみたい役だろう。
中嶋康子がまるで昔の浅川マキ(古いか)みたいに歌い演じたが、実に味が濃くて楽しめた。
「三文オペラ」は1928年8月31日にベルリンのシッフバウアーダム劇場で初演されているが、この1930年あたりのベルリンという街は、芸術の華が吹き乱れた世界に稀有な存在だったようだ。
しかし1年後の1929年10月にはニューヨーク証券取引所の暴落に端を発した世界恐慌が世界を暗く覆い、さらに1930年9月にはヒットラーのナチスが大躍進し、第二党になり、政権奪取に王手をかける。そうした意味で1928年は世界史の分水嶺とも言える年だったのかもしれない。
まあ、お気楽で平和ボケの日本に居てこの「三文オペラ」の切実さや怒りには、我々は少々縁遠いような気がするけれども、まあ楽しめるうちに楽しんでおかないと。
(2013.7.26「岸波通信」配信 by
葉羽&三浦彰)
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