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伊勢丹新宿店は、久方振りの大規模リニューアルを完了し3月6日にグランドオープンした。

(※右の背景画像:伊勢丹新宿店)⇒

「世界初のファッション・ミュージアム」をコンセプトに、アーティフィシャルなアイデアを売り場に反映させたリニューアルで、単にモノを買う場所ではなく、アメニティに溢れた「また来たくなる楽しい場所」を目指した様々な工夫が見られている。

伊勢丹新宿店

伊勢丹新宿店

 3月16日に副都心線が東横線や東武東上線と相互乗り入れしたこともあり、副都心線の新宿三丁目駅は大変な賑わいを見せている。特に横浜方面や富裕層が多く居住している城南6区と言われる地区の人々が、渋谷駅をスルーして、新宿三丁目駅で下車しているという。

 新宿三丁目駅と言えば、伊勢丹新宿店である。改装効果と副都心線乗り入れ効果で、伊勢丹新宿店は大変な活況を呈している。加えて、5月のFRBのバーナンキ議長の金融緩和政策の終了発言で急落としたとは言え、日本の株式市場は第2次安倍内閣発足の12月から40%近い上昇を見せている。

 このいわゆるアベノミクス効果で、特選売り場のラグジュアリー・ブランドを始めとした売り上げも、伊勢丹新宿店の好調を後押ししている。なにしろ、同店は日本のラグジュアリー・ブランド消費の7%を占めていると言われている。

 さらに、尖閣諸島をめぐる領有権問題と東日本大震災の放射能汚染問題で、激減したと言われる中国人観光客が今年に入ってようやく増加に転じているのも同店にとってはプラス材料である。

 もっとも、来店の外人客は、ビザ発給の年収制限が下がったタイ人、インドネシア人、マレーシア人などが大きく数字を伸ばしているのが今年に入ってからの新しい傾向である。

伊勢丹新宿店

伊勢丹新宿店

 リニューアル、副都心線相互乗り入れ、アベノミクス、外人客急増の4大プラス要因があるのだから、同店の好調はしばらく終わりそうもない。同店の今回の改装は、今年10周年を迎えた同店メンズ館の成功をうけてのものだと考えられている。

 メンズ館は従来の大手アパレルメーカーのナショナル・ブランドによる「背広」中心のコンサバティブな売り場を、ユナイテッドアローズやビームスなどのセレクトショップの品揃えや雰囲気(アトモスフィア)を導入し、大改革したものだった。

 例えばメンズ館8階の男性専用スパ、男の趣味の世界を集めた「サロンドシマジ」、フラワーコーナーなどは、その同館のコンセプトを遺憾なく発揮したスペースになっている。この生活を愉しむ精神が、今回の本館のリニューアルにも受け継がれている。

 さらに、このメンズ館には「男の世界」にしかない、一種のマニアックな世界観が底流にあることを忘れてはならない。一種のウンチク好き、こだわりをすでに超えてしまったような専門家顔負けの、プロシューマー・スタンスとも呼ぶべき消費性向が同館には横溢しているのである。

 その伊勢丹メンズ館が6月26日から7月16日にまで、フィレンツェで開かれる世界最大のメンズ総合展「ピッティ イマジネ ウォモ」とタイアップしたイベントを開催した。

伊勢丹メンズ

伊勢丹メンズ

 周知のように、フィレンツェで年2回(1月と6月)開催される「ピッティ イマジネ ウォモ」が対象にしているのは、バイヤーとマスコミ。一般消費者は入場することはできない。次シーズンに向けたトレンド発信と受注商談会を目的にした完全にプロ向けの展示会である。

 この「ピッティ イマジネ ウォモ」を同館の顧客に見せようと言うのだから、その顧客のレベルの高さたるや!

 これには伏線がある。ここ最近、「レオン」を始めとしたメンズ誌がこの「ピッティ イマジネ ウォモ」に集まるオシャレ業界人をストリート・スナップしてこれを別冊として発行して、好評を博しているのである。本誌を上回るような販売部数になることもあると聞いている。

 もちろんこれは日本のメンズ雑誌が始めたことではなく、海外のメンズ誌が最初に仕掛けたことであるが、いまやファッション界の一大イベントになった感がある。「ピッティ ウォモ」(ピッティ イマジネ ウォモの通称)はいまや業界人だけのものではなくなっているのだ。

 このストリート・スナップ集が評判を呼んで、「ピッティ ウォモ」に商談や取材に行くときは、とびっきりのオシャレをしてストリート・スナップしてもらおうということになってしまったのである。雑誌の力は侮れないものである。

ピッティ ウォモ

ピッティ ウォモ

 一連のコレクション・サーキットの先陣を切るのが1月&6月の「ピッティ イマジネ ウォモ」であるが、ランウェイショーが主力で一種殺気立った気配のあるミラノメンズ・コレクション、ロンドンメンズ・コレクション、パリメンズ・コレクションに比べて、開催地が中世の名残を残す、中規模都市のフィレンツェであることも、こうしたオシャレコンテストの雰囲気を形成するのには一役買っているのかもしれない。

 いずれにしても、大画面ディスプレイで、「ピッティ ウォモ」の会場風景や来場者のファッション・スナップを放映したり、売り場で同館がバイイングしているピッティ ウォモ出展ブランドの展示を行うなどの今回のコラボイベントは、プロシューマーを大勢抱える同館のレベルの高さを遺憾なく発揮した催しと言えるのではないだろうか。

                

(2013.7.21「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)

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