2013-14年秋冬東京ファッション・ウィークは、中核の「メルセデス・ベンツ ファッション・ウィーク東京」(以下MBFWT)に「ルームスリンク」「シブヤ ファッション フェスティバル」を加えて、約70ブランドが3月17日から23日までの7日間、ショーやインスタレーションを披露した。
場所は、主会場のヒカリエホール、ベルサール渋谷ガーデン、宮下公園など、3月16日の東横線と副都心線直結に沸く渋谷が中心。「ファッションの街」渋谷復活を印象付けようという熱い意欲を感じた。
さらに期間中の3月20日には国立代々木競技場第一体育館でガールズファッションイベント「東京ランウェイ2013 SPRING/SUMMER」が一般消費者を対象に開催された。
加えて、MBFWT及び「東京ランウェイ2013」と連動する形で「アートフェア東京2013」も有楽町・東京国際フォーラムで3月22-24日に開かれた。
まさに東京をあげて、ファッションとアートを国内外に発信しようという「クール・ジャパン」な1週間だった。
しかし、これだけ環境整備は出来たが、いわゆる東京ファッション・ウィークに関する限りは、ムードが変わって来たというたしかな実感を得られなかった。
今回の70を超えるコレクションの中で、ベスト1をあげることは難しくない。3月19日に発表された森永邦彦による「アンリアレイジ」のコレクションがとび抜けて独創的で印象に残った。(※右の背景画像:アンリアレイジ)⇒
30年程前に特許をとった紫外線に反応するポリプロピレン粒子を使った素材によるウエアで、ショー会場のセンターサークル付近にモデルが立つと、白いウエアと頭部とボタンが有色変化する。
こう書くとキワモノのマジックショーもどきに思われるかもしれないが、「変容を求める人間の呻き」のような思いが伝わってくる。
いわゆるコンセプチュアル・デザインに分類される「アンリアレイジ」だが、今回は十分にウエアラブルでもあった。
トコトンつきつめた思考があらゆる細部に感じられて、そのストイックな姿勢に脱帽させられた。
今回のコレクションはフセイン・チャラヤン(LEDで光る服のコレクションがあった)を想起させるが、パリコレにはないオリジナリティを模索する非ヨーロッパ系デザイナー(チャラヤンはキプロス出身)に分類できるのかもしれない。
従来の「アンリアレイジ」には、マルタン・マルジェラのネクロフィリア(屍体愛好)的志向が感じられたが、その痕跡は今回も十分に残っているが、いずれにしてもウエアラブルなウエアに結実している点が彼の成長を証明している。
このシリーズがセラブルで彼のビジネス拡大に寄与することを期待したい。
このような開発素材とデザイナーの有機的結合が東京ファッションの生きる道のひとつなのかもしれない。
ウエアラブルでセラブルということになれば、静謐系のデザイナーが大勢を占める東京メンズの中で、パワフルなコレクションを発表して来た「ヨシオ クボ」もかなり「売り」を意識したおとなしめのコレクションだった。
セラブルということなら「ビューティフル・ピープル」がハートモチーフで小マダム風ウエアリングを提案していた。
自分のスタイルを確立したら、それをセラブルに提案していくというステージに入ったデザイナーも何人か登場している。
竹芝の倉庫でコレクションを発表した「ミントデザインズ」は、前回あたりから立体的な造形でヨーロッパの構築的ウエアを意識したもの作りが注目されたが、さらに進化している印象だ。
パリコレに代表されるヨーロッパのラグジュアリー・プレタとは一線を画した日本独自のチープ感(決して悪い意味ではない)が底流にある。
自分が生まれ育った国の現在の街並にフィットするファッションがそのデザイナーにとって最も自然なスタイルだ。
よく東京ファッションには「ストリート感覚」「ストリート・ウエア」という形容詞が用いられる。
もともとハイソサイエティを対象にした欧米のプレタポルテにはなかった概念だが、これをどう発展させるかが東京デザイナーに与えられた大きなテーマだろう。
最終日の3月23日にはMBFWTの1セクションとして吉井雄一氏がプロデュースする「VERSUS TOKYO」と題された5コレクションの発表があった。
最近の東京コレクションに対しては門戸を開放しなかったコム デ ギャルソン社だが、吉井氏の説得の賜なのか、「ガンリュウ」がランウェイショーを披露。
同社の中では東京ストリートをベースにした新しいタイプのブランドだ。
ヒカリエAホールにレッドカーペットを敷いた本格風コレクションだが、遊び心のない単調なコレクションに映った。
話題性ということなら大トリを務めたスケシン氏による「シー・イー」も負けてはいない。
これも吉井氏の人脈によるものだろうが、90年代裏原の影の帝王と呼ばれるスケシン氏がついにそのヴェールを脱いだ。
コンピューターグラフィックによる新作紹介だったが、このプレゼンテーションは新鮮だった。開始の58分遅れを詫びるためかスケシン氏はスケボーの妙技まで披露。
90年代の裏原ブームを知らない若い世代には貴重な体験になった。TOKYOというものの大きな可能性を感じさせた90年代。
しかし、それはもはや良き思い出になりつつあるようだが、将来にむかって、もっとパワフルなTOKYOを期待したい。
(2013.4.2「岸波通信」配信 by
葉羽&三浦彰)
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