初台のオペラパレスで3月11日「アイーダ」の初日(開場15年記念公演)を観た。もちろん劇団四季のミュージカルではなく、ヴェルディ作曲のオペラ「アイーダ」である。
(※右の背景画像:「アイーダ」公演)⇒
同オペラハウスが1998年の開場記念で使ったプロダクションをほぼそのまま使っている。
このプロダクションは世界を代表する演出家のフランコ・ゼッフィレッリが、舞台、美術、衣装まで手掛けたもので、その後2003年、2008年の節目にも同劇場で再演され大好評を博しているという。いわば同劇場の看板演目。
「オペラファンならずとも一生に一度は観て欲しい」という劇場のキャッチコピーにのせられたわけではないが、オペラファンを自認する小生も一度は観ておこうと出掛けた。
指揮、管弦楽、歌手、合唱ともに満足したが、なんといってもゼッフィレッリの舞台、美術、演出に心底酔った(本人は来日していない)。
大げさに言うとヨーロッパの舞台芸術の真髄に触れた思いがした。
簡単に言えば、豪華絢爛、大胆にして細心なのだけれども、ヨーロッパの芸術の最高峰だけが持つ美意識の徹底性を再認識させられた。
ゼッフィレッリが手掛けるオペラは、「ボエーム」「トゥーランドット」「椿姫」と観たことがあり、そのたびに驚かされてきたが、いずれも海外の歌劇場か海外の歌劇場の来日公演のもので、今回東京のオペラパレスで体験できたことが、感動を増幅させたのかもしれない。
わかりやすい例では、有名な第2幕第2場の凱旋行進のシーン。
彫刻の施された12本の柱、鎮座する巨大な神像、300人を超える兵士・民衆、2頭の本物の馬(ゼッフィレッリの要求は最低3頭と漏れ聞く)などバブル時代でもなかったような物量攻撃だが、まったく無駄のない見事な動きと配列。
加えて主要人物の複雑な心理の襞を描くような動きと演出と照明。しかも、舞台には薄い紗幕が張られていて、原色のけばけばしさが出ないように細心の配慮がなされている(歌手は歌いづらいと思うが)。こんな感じで書いていくとキリがない。
余談だが、最近のこの第2幕第2場の演出で話題になったのは、ペーター・コンヴィチュニーによるもの。
兵士も民衆も馬も舞台には現れず、合唱は舞台裏で歌うというもので、主要人物がこれを遠くから聞いているという演出。
当世風ミニマルというのか、ゼッフィレッリの対極にある演出といえるが、それはそれできわめてヨーロッパ的だが、ゼッフィレッリ流ほどには支持は得られまい。
「オートクチュール、パリやミラノのプレタポルテなどラグジュアリーな本物をあなたはいつも観ているでしょうに」と言われそうだが、そういったもののかなりが、商業主義に浸食されて失望させられることが少なくないと答えざるを得ないのもまた事実ではある。
とにかく、数少ないヨーロッパ最高の美意識が3月のオペラパレスで観られることたしかである。
人気演目でチケットの入手が難しいと聞くが、ぜひ鑑賞をお勧めしたい。
(2013.3.29「岸波通信」配信 by
葉羽&三浦彰)
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