裸足のアーティストと言えば、モダン・ダンスの始祖と呼ばれるイサドラ・ダンカンが有名だ。
その半生は映画「裸足のイサドラ」(1968年イギリス、カレル・ライツ監督)に描かれている。
主演のヴァネッサ・レッドグレーヴが絶世の美女と謳われ情熱のおもむくままに生き、奔放に踊ったイサドラを見事に演じた映画である。
トウ・シューズを履かず踊ったイサドラは、「裸足のイサドラ」と呼ばれていた。鑑賞を薦めたい名作である。
実はクラシック音楽の世界でも、最近この「裸足の美女」が話題になっている。
ひとりは美人ピアニストのアリス・紗良・オット。
1988年にドイツ人の父と日本人の母との間に生まれた彼女は、数々のコンクールで優勝し、現在人気沸騰中。
私は実演に接した事はないが、昨年のNHK音楽祭でロリン・マゼール指揮NHK交響楽団とグリークのピアノ協奏曲を競演したテレビ番組の録画を最近観て驚いた。
なんと、アリス嬢がロングドレスに裸足で登場したのだ。一種異様な雰囲気である。
噂には聞いていたが24歳の美女が裸足でグリークのピアノ協奏曲を熱演するのは、なんとも艶めかしい。
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アリス=紗良・オット
~リスト:超絶技巧練習曲集~
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ペダルに微妙な感触を伝えるのには、裸足が良いのはわかるが、ここまで徹底した例はあったのかしら。
女アベベなんて失礼なことを書いている輩もいる。若い人にはアベベと言ってもわからないだろう。
ローマ・オリンピック(1960年)のマラソンで裸足で走り金メダルに輝いたエチオピアの選手だ。
続く東京オリンピックではシューズを履いて走り、マラソン2連覇を達成した。
裸足のミューズはピアノだけではない。
やはりテレビ録画だが、日本の若手ヴァイオリニストの松田理奈(28歳)のリサイタルを最近観た。
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松田理奈
YSAYE(イザイ)
~無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 作品27~
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なかなかの美人で演奏もよかったが、ロングドレスからときおり覗く赤いペディキュアがなんとも色っぽく、ずいぶん低いヒールを履いていると思ったのだが、よく見るとあれ?裸足じゃないのか。
この件をツイッターしてみたら2件の回答。
「理奈さんはいつも裸足で演奏しています。」
「先日聴いたヴァイオリンのパトリシア・コパチンスカヤも裸足で演奏していました。ちょっとした新潮流かも。」
ヒールを履いては体のバランスが取りづらいということらしい。
たしかに松田理奈は一般のヴァイオリニストに比べかなり上半身の動きが大きい。コパチンスカヤ(35歳)も熱演タイプなので同様なのではないだろうか。
(※コパチンスカヤ:右の背景画像⇒)下も↓
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パトリシア・コパチンスカヤ
~ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲~
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しかし大変な時代になったものである。裸足は話題作りのためではないだろう。若いのに演奏に賭ける半端でない執念が感じられる。
最初はギョッとするが、慣れればむしろ美女の素足が拝めるわけで悪くはない。が、ちょっと演奏に集中できないという難点もある。
しかし、注意を喚起したいが、この裸足のミューズはいずれもヴィジュアル系と呼ばれる美人演奏家。
「美女だけに許されるわがままじゃないのか。それ以外はどうなの」と言われてもそれは答えようがない。
ルブタン、ジミーチュウ、マノロなど世界中の女性シューズ需要が異様な高まりを見せている昨今だが、それとは逆行する、クラシック音楽の世界で起こっているちょっと奇妙な現象だが、次はどんな裸足のミューズが登場するのか。
(2013.2.14「岸波通信」配信 by
葉羽&三浦彰)
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